164 / 191
第164話 『モンドルの夜明け』のアジト
しおりを挟む
「みなさん、聞いてください。この度、決戦のときに力を貸してもらえるようになった、ミノラルの冒険者たちです。彼らなら、あのギースにも引けを取らないでしょう」
モンドル王国の属国になったアンデル王国の端。今はそこに彼らのアジトがあるらしく、俺たちは挨拶をするため、その組織のアジトにお呼ばれされていた。
少し大きめの宿屋を貸切ったようなその場所で、俺たちはモルンの紹介によって、初めて会うメンバー達に温かく歓迎をされてーー
「……」
いるはずがなかった。
まぁ、それも当然だよな。
急に知らない冒険者がやってきましたと言われて、歓迎されるようなことはないだろう。
紹介の後、俺たちは大勢の人から、一気に不審な者を見るような視線を向けられていた。
それと、少しの威圧するような物も混ぜられていた。
どんなメンバーがいるのかと思ったが、どうも武闘派ばかりいるという訳ではなさそうだ。
性別問わず、線が細いようなメンバーもいるみたいだし、ただの近接格闘が取りえの奴らばかりではないらしい。
彼らがどんな戦闘スタイルなのか、それはまだ分からないが。
「モルンさん、一ついいですか?」
「なんですか?」
そんな事を考えて、周囲に目を向けていると、一人の男が挙手と共に席から立ち上がった。
体は全体的に俺の一回りくらい大きい、短髪の男。足元には体の半分くらいありそうな斧が立てかけられていた。
「主力になりそうな人材に声をかけてくると言って、連れてきたのがそいつらですか?」
「ええ、彼らは……いえ、彼は一人でワイバーンを倒すほどの腕が立つ冒険者です」
モルンが静かにそう答えると、周りがざわつきだしたのが分かった。
「ワイバーンを?!」「……S級か?」「いや、さすがに無理だろ」
驚きと少し困惑するような反応。どちらかというと、ワイバーンを倒したということを信じられないといった声の方が多いように感じた。
「モルンさん、俺たちは比喩的な強さを知りたいんじゃないんです」
「比喩じゃありません。私もノアンも、ワイバーンが倒されるところを目の前で見ました」
モルンの言葉を受けて、その男は肩をぴくんとさせて驚いていた。実際に見たという証言が影響したのか、先程まで疑っていたような目も和らいでいくのが分かった。
「この男が、ワイバーンをですか……」
「ドエルさん。先程から少し失礼ですよ」
「悪いとは思ってますよ。しかし……」
ドエルはちらりと横目で他のメンバーに目をやった。モルンの言葉を受けて、俺たちの力を信じている者たちが増えているのは確かだが、信じ切っていないものがいるのも事実。
ドエルと呼ばれているこの男も、そのメンバーの不安を取り除くために、こんなことを言っているのかもしれない。
確かに、少しの気持ちの乱れが作戦を失敗する可能性もある。
それなら、俺がここでしてやるべき行動は……。
「確かに、ドエルさんの言う通りだと思います」
「アイクさん?」
突然、俺がドエルの意見に頷いたことに驚いたのか、モルンは少し不安そうな声を漏らしていた。
「負ければ死罪って言う状況で、戦力も身元も分からない相手を仲間に入れろって言うのは、難しいですよ」
「い、いえ、そんなことはないです! アイクさんの力が必要なんですよ!」
俺の言葉を聞いて、何かを察したようなノアンが慌てたようにそんな言葉を口にしていた。
もしかしたら、俺が協力するのをやめると言い出すと勘違いしたのかもしれない。
当然、そんなことをしたりはない。
一度受けた依頼。そして、ミノラルが深く関わって言いるという状況で、引くわけにはいかない。
「なので、せめて力の強さだけでも証明しましょう」
力を信じてもらえないのなら、ここで証明するまでだ。
「えっと、この中で一番強い人と戦って、俺が勝てば力を認めてくれますよね?」
俺がそう呼びかけると、また周囲がざわざわとし始めた。
「一番っていうと、モルンさんか」「……まぁ、モルンさんだろうな」「大丈夫か、あの男死ぬんじゃないか?」
「え?」
すぐに上がった名前はモルンの名前。
予想もしなかったその名前に驚いて目を向けると、モルンは体をビクンとさせた後、こちらから視線を逸らしていた。
「い、いちおう、この中では私が一番強いと思いますけど、その、アイクさんとやるのは……」
……そんなに本気で嫌がることないだろうに。
どうやら、ワイバーンの二の舞になると思っているのか、モルンは血の気の引いた顔で、手をぶんぶんと横に振って拒絶していた。
「それなら、俺にやらせてくれ」
モルンが本気で嫌がっていると、ドエルは何やら自信ありげに手を上げてきた。
まぁ、言い出しっぺがやるのが妥当か。
こうして、俺は『モンドルの夜明け』のメンバーに、少しだけ力を見せることにしたのだった。
ドエルの胸を借りて、強さを証明しなければ。
そんなふうに考える俺は、少しだけ張り切ってしまっていた。
モンドル王国の属国になったアンデル王国の端。今はそこに彼らのアジトがあるらしく、俺たちは挨拶をするため、その組織のアジトにお呼ばれされていた。
少し大きめの宿屋を貸切ったようなその場所で、俺たちはモルンの紹介によって、初めて会うメンバー達に温かく歓迎をされてーー
「……」
いるはずがなかった。
まぁ、それも当然だよな。
急に知らない冒険者がやってきましたと言われて、歓迎されるようなことはないだろう。
紹介の後、俺たちは大勢の人から、一気に不審な者を見るような視線を向けられていた。
それと、少しの威圧するような物も混ぜられていた。
どんなメンバーがいるのかと思ったが、どうも武闘派ばかりいるという訳ではなさそうだ。
性別問わず、線が細いようなメンバーもいるみたいだし、ただの近接格闘が取りえの奴らばかりではないらしい。
彼らがどんな戦闘スタイルなのか、それはまだ分からないが。
「モルンさん、一ついいですか?」
「なんですか?」
そんな事を考えて、周囲に目を向けていると、一人の男が挙手と共に席から立ち上がった。
体は全体的に俺の一回りくらい大きい、短髪の男。足元には体の半分くらいありそうな斧が立てかけられていた。
「主力になりそうな人材に声をかけてくると言って、連れてきたのがそいつらですか?」
「ええ、彼らは……いえ、彼は一人でワイバーンを倒すほどの腕が立つ冒険者です」
モルンが静かにそう答えると、周りがざわつきだしたのが分かった。
「ワイバーンを?!」「……S級か?」「いや、さすがに無理だろ」
驚きと少し困惑するような反応。どちらかというと、ワイバーンを倒したということを信じられないといった声の方が多いように感じた。
「モルンさん、俺たちは比喩的な強さを知りたいんじゃないんです」
「比喩じゃありません。私もノアンも、ワイバーンが倒されるところを目の前で見ました」
モルンの言葉を受けて、その男は肩をぴくんとさせて驚いていた。実際に見たという証言が影響したのか、先程まで疑っていたような目も和らいでいくのが分かった。
「この男が、ワイバーンをですか……」
「ドエルさん。先程から少し失礼ですよ」
「悪いとは思ってますよ。しかし……」
ドエルはちらりと横目で他のメンバーに目をやった。モルンの言葉を受けて、俺たちの力を信じている者たちが増えているのは確かだが、信じ切っていないものがいるのも事実。
ドエルと呼ばれているこの男も、そのメンバーの不安を取り除くために、こんなことを言っているのかもしれない。
確かに、少しの気持ちの乱れが作戦を失敗する可能性もある。
それなら、俺がここでしてやるべき行動は……。
「確かに、ドエルさんの言う通りだと思います」
「アイクさん?」
突然、俺がドエルの意見に頷いたことに驚いたのか、モルンは少し不安そうな声を漏らしていた。
「負ければ死罪って言う状況で、戦力も身元も分からない相手を仲間に入れろって言うのは、難しいですよ」
「い、いえ、そんなことはないです! アイクさんの力が必要なんですよ!」
俺の言葉を聞いて、何かを察したようなノアンが慌てたようにそんな言葉を口にしていた。
もしかしたら、俺が協力するのをやめると言い出すと勘違いしたのかもしれない。
当然、そんなことをしたりはない。
一度受けた依頼。そして、ミノラルが深く関わって言いるという状況で、引くわけにはいかない。
「なので、せめて力の強さだけでも証明しましょう」
力を信じてもらえないのなら、ここで証明するまでだ。
「えっと、この中で一番強い人と戦って、俺が勝てば力を認めてくれますよね?」
俺がそう呼びかけると、また周囲がざわざわとし始めた。
「一番っていうと、モルンさんか」「……まぁ、モルンさんだろうな」「大丈夫か、あの男死ぬんじゃないか?」
「え?」
すぐに上がった名前はモルンの名前。
予想もしなかったその名前に驚いて目を向けると、モルンは体をビクンとさせた後、こちらから視線を逸らしていた。
「い、いちおう、この中では私が一番強いと思いますけど、その、アイクさんとやるのは……」
……そんなに本気で嫌がることないだろうに。
どうやら、ワイバーンの二の舞になると思っているのか、モルンは血の気の引いた顔で、手をぶんぶんと横に振って拒絶していた。
「それなら、俺にやらせてくれ」
モルンが本気で嫌がっていると、ドエルは何やら自信ありげに手を上げてきた。
まぁ、言い出しっぺがやるのが妥当か。
こうして、俺は『モンドルの夜明け』のメンバーに、少しだけ力を見せることにしたのだった。
ドエルの胸を借りて、強さを証明しなければ。
そんなふうに考える俺は、少しだけ張り切ってしまっていた。
1
お気に入りに追加
1,527
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
盛平
ファンタジー
パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。
パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。
ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話
ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。
異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。
「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」
異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…
俺だけ展開できる聖域《ワークショップ》~ガチャで手に入れたスキルで美少女達を救う配信がバズってしまい、追放した奴らへざまあして人生大逆転~
椿紅颯
ファンタジー
鍛誠 一心(たんせい いっしん)は、生ける伝説に憧憬の念を抱く駆け出しの鍛冶師である。
探索者となり、同時期に新米探索者になったメンバーとパーティを組んで2カ月が経過したそんなある日、追放宣言を言い放たれてしまった。
このことからショックを受けてしまうも、生活するために受付嬢の幼馴染に相談すると「自らの価値を高めるためにはスキルガチャを回してみるのはどうか」、という提案を受け、更にはそのスキルが希少性のあるものであれば"配信者"として活動するのもいいのではと助言をされた。
自身の戦闘力が低いことからパーティを追放されてしまったことから、一か八かで全て実行に移す。
ガチャを回した結果、【聖域】という性能はそこそこであったが見た目は派手な方のスキルを手に入れる。
しかし、スキルの使い方は自分で模索するしかなかった。
その後、試行錯誤している時にダンジョンで少女達を助けることになるのだが……その少女達は、まさかの配信者であり芸能人であることを後々から知ることに。
まだまだ驚愕的な事実があり、なんとその少女達は自身の配信チャンネルで配信をしていた!
そして、その美少女達とパーティを組むことにも!
パーティを追放され、戦闘力もほとんどない鍛冶師がひょんなことから有名になり、間接的に元パーティメンバーをざまあしつつ躍進を繰り広げていく!
泥臭く努力もしつつ、実はチート級なスキルを是非ご覧ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる