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第87話 変わっていく『黒龍の牙』
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「はいはいっと」
俺はリリ達と冒険者ランクが上がったお祝いをしようとしていた。
さすがに、三段階も冒険者ランクが上がっておいて、何もしないわけにはいかないだろう。
そう思って、ワインとリリの料理でお祝いをしようとしていた所、屋敷のノッカーが鳴らされた音がした。
リリは今料理中だったので、俺がその来客の対応をすることになって、俺は玄関方に向かった。
扉を開けると、そこにいたのは思いもしなかった人物だった。
「……エルド?」
「ああ、久しぶりだな。アイク」
扉を開けた先には、気まずそうな笑みを浮かべているエルドが立っていた。
以前にパーティに戻ってこないかと言われた時、しっかりと断ったことは記憶に新しい。
となると、パーティに帰ってこないかという話ではないだろう。
「……屋敷の場所を教えたつもりはなかったんだけど?」
「いや、すまない。他の冒険者に聞いたんだ。……結構、冒険者の間では有名みたいだな」
エルドは屋敷の方にちらりと視線を向けたあと、再び俺の方に視線を戻して微かに笑みを浮かべて言葉を続けた。
その笑みのぎこちなさに気づかないはずがなかった。
「いい屋敷じゃないか」
「……どうも」
屋敷に来るなり、いきなり屋敷を褒めてくる。
別に、わざわざそんな言葉を言いに来たわけではないのだろう。一体、何が目的なのかは分からない。
それに、俺を見る目が今までのどれとも違っていた。
軽蔑するわけでもなく、俺の力を知って手のひらを返してきたとも違う。
ただ一人の冒険者に向けているような目で、傲りやプライドの高さを感じない。
エルドにこんな目で見られたことがあっただろうか?
「そういえば、A級パーティに上がったみたいじゃないか。おめでとう、すごいな」
「ん? ああ、そういうことか。そうだな。これからは、同じA級パーティ同士、どこかで顔を合わせるかもしれないな」
同じA級同士、これからクエストを共にすることがあるかもしれない。だから、その時のための挨拶的な物か。
そう思ってそんな言葉を言ってみたのだが、何やらエルドは気まずそうな笑みを浮かべたままだった。
「いや、俺たちはもうA級じゃないから、そういう形では会えないだろうな」
「どういうことだ?」
なぜか嫌味を言われたけど、言い返せないといったような反応。
いよいよ訳が分からなくなり、俺が言葉を続けると、エルドは何か勘違いをしていたかのように少しだけ目を見開いた。
「あっ、知らないのか」
「何がだ?」
「『黒龍の牙』は活動の一時凍結をされて、パーティランクと冒険者ランクをB級に落されたんだよ」
「え?! な、なんでだ?」
パーティランクが落ちることはなくはない。実際に、ギース達もS級からA級に落ちていた。
だから、驚くべきところはそこではない。問題はパーティの一時凍結の方だ。
何か問題を起こしたパーティはそんな対応をされる。いちおう、認識はしていたが、実際にその対応をされたパーティを目の前にするのは初めてだ。
「なんでも何も、俺たちにはA級の力はないってことだったんだよ。あとは、冒険者ギルドに迷惑かけた分だな。当然だ、今までお前の力に頼りきりだったんだからな」
エルドは自嘲気味に笑ってそんなことを言っていた。
俺が言っていることの意味が分からない様子でいると、エルドは真剣な顔つきで俺のことを正面から見つめてきた。
何だろうかと思っていると、エルドはそのまますっと頭を下げてきた。
「今まですまなかった。もちろん、許してくれとは言わない。それでも、今までのことを一方的に詫びさせて欲しい。パーティを代表して、謝らせてくれ」
「……え?」
表面的な物ではなく、心の底から出たような言葉。
エルドがこんな真剣な口調で頭を下げられることなんて想像もできなかったので、俺は少々面を食らってしまった。
らしくなさすぎる態度。
「……何があったんだ?」
「『黒龍の牙』が一時凍結されてから、俺たちは別々で活動してたんだよ。そこで痛感した。今までアイクに守られていたんだとな」
頭を上げたエルドはそんなことを言うと、心の底から申し訳なさそうにおそんな言葉を口にした。
なるほど。そこまで言われて、以前のように蔑むような目をしなくなった理由が分かった。
パーティから俺が抜けて、パーティが実質解散になって、エルドは冒険者たちの間でもまれてきたのか。
そこで本当の自分の実力と、俺がしていたパーティでの役割について少し理解をしたらしい。
今まではそれに気づくことがなかったが故の、態度だったという訳だ。
でも、だからと言って、はいそうですか、という訳にもいかないだろう。
「正直、許してあげられるほど、器が大きい人間じゃないぞ、俺は」
「許してくれとは思ってないさ。それだけのことをしたからな」
いつにもなく、らしくない言葉。
そんな言葉を向けられて、こちらの調子まで崩されそうだった。
「……話はそれだけか?」
「いや、もう一つだけあるんだ。パーティの降格を受けてから、ギースが見当たらないんだ」
「ギースが?」
「ああ。多分、あいつはアイクのせいでパーティを降格させられたと思っている。もちろん、そんなわけないんだけど、あいつは結構感情的なところがあるからな」
エルドはそう言うと、ギースに対して思う所があるのか、少し眉間に皺を入れながらそんな言葉を口にした。
多分、俺がいなくなってから、結構感情をぶつけられてきたのだろうな。
ギースは結構どころか、かなり感情的な部分があるし。
「だから、あいつを見たら気をつけて欲しい。まぁ、アイクの方が強いだろうから、問題ないかもしれないがな」
エルドは少し失笑した後、手に持っていた包みに視線を落とした後、気まずそうにそれを隠すようにしながら、悲しそうな笑みを漏らした。
「それじゃあ、あとはアイク達の幸運を祈ってるよ」
「……その手に持ってる物は、何だったんだ?」
こんなにエルドと話をしたのはいつぶりだろうか。
そんなことを考えながら、互いに気を遣うように探り合う会話の中で、それが俺たちのために持ってきたものであることくらいには気がついた。
「え? ああ、これか。これは、その、お詫びとA級パーティに上がったことの祝い品として持ってきたんだが……出過ぎた真似だったな」
「……見せてくれないか?」
「あ、ああ」
包みを開けてみると、そこには一本の酒が入っていた。
もしかしたら、どこかの誰かから、俺の好みの物を聞いたのかもしれない。
その酒は俺でも知っているくらいに高いやつだった。パーティランクの昇進祝いにしては、随分と羽振りが良いものだった。
「もらっていいのか?」
「え、ああ、う、受け取ってくれるのか?」
「べつに、酒に罪はないだろ。それに、まぁ、お詫びとしてじゃなくて、祝い品としてならありがたくいただくよ」
「ああ、それで十分だ。……ありがとうな」
「この場合は、お礼を言うのは俺の方じゃないか? 祝い品を貰った訳だしな」
エルドの瞳が微かに湿りけを帯びている気がしたので、俺はそれを誤魔化すように言葉を続けた。
少し黙ってしまったエルドとの会話の間を埋めるために、俺は続けて口を少しだけ開いた。
「エルドはこれからどうするんだ?」
「ああ、キースとモモと三人でパーティを組み直すことにしたよ。E級パーティからやり直すことにした」
「E級? な、なんでそんなところから?」
「アイクの力でランクが上がっただけだったからな。ギルドと相談して、冒険者ランクも下げてもらったんだよ」
そんなことを口にしたエルドは、どこか胸のつかえが取れたようだった。新しいことを始めようとする少しの高鳴りと、何かに対する申し訳なさ。
その二つが混ざり合ったようにㇵの字になった眉を見て、俺の方も少しだけ胸のつかえが取れたような気がした。
確かに、ギース達のことは許せない。それでも、ずっと許さないと思い続けるのも結構労力を使ったりするのだ。
それから少しだけ解放されたような気がして、俺は自然と口元が緩んでいた。
「タンクと魔法使いと回復魔導士って、バランス悪くないか? 前衛がタンク職だけってことだろ?」
「ああ。しばらくは、俺がタンク兼剣士だろうな」
「エルドって、剣なんか持ってたか?」
「いや、何か買うつもりだ。さすがに、昔使ってた奴は錆びてそうだしな」
俺がギース達のパーティに加わったときは、エルドはすでにタンク専門だった。となると、その前にソロで活動をしていた時に剣を使っていたのだろう。
「……エルド、酒と交換ってことで、これあげるよ」
「え? 短剣か?」
俺はアイテムボックスから一本の短剣を取り出すと、それをそのままエルドの方に投げて渡した。
エルドは驚くように渡された短剣を掴むと、鞘から少しだけ引き抜いて、短剣の刃を眺めていた。
「いや、これ結構いいやつなんじゃないか? 貰っちゃっていいのか?」
「いいんだよ。俺が作った失敗作だ。いらなければ、捨てておいてくれ」
「す、捨てれるわけないだろ。……ていうか、アイクって武器まで作れたのか」
俺とリリが持つには少し重すぎる短剣。俺たちも攻撃力が結構上がったし、少し重くてもいいんじゃないかと持って作った奴だ。
結構、いつも使っている重さの方が手に馴染むし、多分使うことはないだろう。
使わないなら使ってもらった方がいいし、多分タンクと兼業するならちょうどいい大きさだと思う。
ちなみに、武器ランクはB。結構悪くないできだったりする。
「まぁ、なんだ。新しいパーティ、上手くいくといいな」
「ありがとう。……ありがとうな」
エルドは俺から貰った短剣を手に持ったまま、しばらく下を向いて肩を震わせていた。
エルドの立っている地面がぽつぽつと濡れようが、俺はそれに気づかないフリをして、その場を後にした。
……あまり見られて良いものではないだろうしな。
酒をキッチンにある冷蔵庫に運んでいると、ちょうど料理をしているリリと目が合った。そのまま、リリは俺が持っている酒の方にちらりと視線を向けた後、こてんと小さく首を傾けた。
「あれ? お酒貰ったんですか? どなたからです?」
「んー……昔の、冒険者仲間からだ」
俺はそれだけ言うと、酒をしまってその場を後にした。
許す気はないはずなのに、俺の口からはぽろっと仲間という言葉が漏れていた。
どうやら、俺は悪いことをしても、それを反省できる奴のことは、そこまで嫌いになりきれないらしい。
多分、そこがギースとの違いなんだろうな。
そんなことを考えながら、俺は先程のエルドの言葉を思い出していた。
……ギースか。
自分が嫌われていると分かっていながら、エルドが伝えに来てくれた情報。その情報を無下にできるはずがなく、俺は頭の片隅にギースの情報を置いておくことにした。
「謝ってきたんだ。そう、良かったじゃない」
「ああ。……許してはもらってはないがな」
「全く許さない人に、自分の物をあげたりしないわよ」
ミノラルから出る相乗りの馬車で揺れながら、キースはエルドが腰に下げている短剣を見ながら、そんな言葉を口にした。
「キースとモモは、一緒に謝りに行かなくて良かったんだよな?」
今回直接謝罪に行ったのは、エルド一人だった。他の二人にも謝罪に行くことは前もって伝えてあったのだが、二人はエルドについていこうとはしなかった。
「私はいいの。許されないことをしたんだから、この罪悪感はそのままにしておきたい。そうしないと、またどこかで間違えちゃう気がするし、戒めのためにもね」
「私は、単純に合わせる顔がありません。もう少しちゃんと自分の気持ちと向き合ってから、手紙で謝罪をすることにします」
どの形でアイクに謝罪をするのが正しいのか、それは誰にも分からないことだった。
しかし、三人ともがアイクに対して感じている気持ちは同じものだと言えるだろう。
三人はミノラルを出て、遠くの街に行くことを決めていた。そこで実力をつけて一から冒険者としてやり直す。
プライドも飾りだった冒険者ランクも捨てて、やり直すことを決めたのだった。
ギースと違って、罪に対して向き合おうとする三人の心は、当時の『黒龍の牙』と同じものではないことは確かだった。
そして、ギースだけはそんな気持ちを抱かないことだけは確かだった。
しばらく消えていたギースが何をしていたのか。それはエルド達三人にも、アイクにも分からないことだった。
俺はリリ達と冒険者ランクが上がったお祝いをしようとしていた。
さすがに、三段階も冒険者ランクが上がっておいて、何もしないわけにはいかないだろう。
そう思って、ワインとリリの料理でお祝いをしようとしていた所、屋敷のノッカーが鳴らされた音がした。
リリは今料理中だったので、俺がその来客の対応をすることになって、俺は玄関方に向かった。
扉を開けると、そこにいたのは思いもしなかった人物だった。
「……エルド?」
「ああ、久しぶりだな。アイク」
扉を開けた先には、気まずそうな笑みを浮かべているエルドが立っていた。
以前にパーティに戻ってこないかと言われた時、しっかりと断ったことは記憶に新しい。
となると、パーティに帰ってこないかという話ではないだろう。
「……屋敷の場所を教えたつもりはなかったんだけど?」
「いや、すまない。他の冒険者に聞いたんだ。……結構、冒険者の間では有名みたいだな」
エルドは屋敷の方にちらりと視線を向けたあと、再び俺の方に視線を戻して微かに笑みを浮かべて言葉を続けた。
その笑みのぎこちなさに気づかないはずがなかった。
「いい屋敷じゃないか」
「……どうも」
屋敷に来るなり、いきなり屋敷を褒めてくる。
別に、わざわざそんな言葉を言いに来たわけではないのだろう。一体、何が目的なのかは分からない。
それに、俺を見る目が今までのどれとも違っていた。
軽蔑するわけでもなく、俺の力を知って手のひらを返してきたとも違う。
ただ一人の冒険者に向けているような目で、傲りやプライドの高さを感じない。
エルドにこんな目で見られたことがあっただろうか?
「そういえば、A級パーティに上がったみたいじゃないか。おめでとう、すごいな」
「ん? ああ、そういうことか。そうだな。これからは、同じA級パーティ同士、どこかで顔を合わせるかもしれないな」
同じA級同士、これからクエストを共にすることがあるかもしれない。だから、その時のための挨拶的な物か。
そう思ってそんな言葉を言ってみたのだが、何やらエルドは気まずそうな笑みを浮かべたままだった。
「いや、俺たちはもうA級じゃないから、そういう形では会えないだろうな」
「どういうことだ?」
なぜか嫌味を言われたけど、言い返せないといったような反応。
いよいよ訳が分からなくなり、俺が言葉を続けると、エルドは何か勘違いをしていたかのように少しだけ目を見開いた。
「あっ、知らないのか」
「何がだ?」
「『黒龍の牙』は活動の一時凍結をされて、パーティランクと冒険者ランクをB級に落されたんだよ」
「え?! な、なんでだ?」
パーティランクが落ちることはなくはない。実際に、ギース達もS級からA級に落ちていた。
だから、驚くべきところはそこではない。問題はパーティの一時凍結の方だ。
何か問題を起こしたパーティはそんな対応をされる。いちおう、認識はしていたが、実際にその対応をされたパーティを目の前にするのは初めてだ。
「なんでも何も、俺たちにはA級の力はないってことだったんだよ。あとは、冒険者ギルドに迷惑かけた分だな。当然だ、今までお前の力に頼りきりだったんだからな」
エルドは自嘲気味に笑ってそんなことを言っていた。
俺が言っていることの意味が分からない様子でいると、エルドは真剣な顔つきで俺のことを正面から見つめてきた。
何だろうかと思っていると、エルドはそのまますっと頭を下げてきた。
「今まですまなかった。もちろん、許してくれとは言わない。それでも、今までのことを一方的に詫びさせて欲しい。パーティを代表して、謝らせてくれ」
「……え?」
表面的な物ではなく、心の底から出たような言葉。
エルドがこんな真剣な口調で頭を下げられることなんて想像もできなかったので、俺は少々面を食らってしまった。
らしくなさすぎる態度。
「……何があったんだ?」
「『黒龍の牙』が一時凍結されてから、俺たちは別々で活動してたんだよ。そこで痛感した。今までアイクに守られていたんだとな」
頭を上げたエルドはそんなことを言うと、心の底から申し訳なさそうにおそんな言葉を口にした。
なるほど。そこまで言われて、以前のように蔑むような目をしなくなった理由が分かった。
パーティから俺が抜けて、パーティが実質解散になって、エルドは冒険者たちの間でもまれてきたのか。
そこで本当の自分の実力と、俺がしていたパーティでの役割について少し理解をしたらしい。
今まではそれに気づくことがなかったが故の、態度だったという訳だ。
でも、だからと言って、はいそうですか、という訳にもいかないだろう。
「正直、許してあげられるほど、器が大きい人間じゃないぞ、俺は」
「許してくれとは思ってないさ。それだけのことをしたからな」
いつにもなく、らしくない言葉。
そんな言葉を向けられて、こちらの調子まで崩されそうだった。
「……話はそれだけか?」
「いや、もう一つだけあるんだ。パーティの降格を受けてから、ギースが見当たらないんだ」
「ギースが?」
「ああ。多分、あいつはアイクのせいでパーティを降格させられたと思っている。もちろん、そんなわけないんだけど、あいつは結構感情的なところがあるからな」
エルドはそう言うと、ギースに対して思う所があるのか、少し眉間に皺を入れながらそんな言葉を口にした。
多分、俺がいなくなってから、結構感情をぶつけられてきたのだろうな。
ギースは結構どころか、かなり感情的な部分があるし。
「だから、あいつを見たら気をつけて欲しい。まぁ、アイクの方が強いだろうから、問題ないかもしれないがな」
エルドは少し失笑した後、手に持っていた包みに視線を落とした後、気まずそうにそれを隠すようにしながら、悲しそうな笑みを漏らした。
「それじゃあ、あとはアイク達の幸運を祈ってるよ」
「……その手に持ってる物は、何だったんだ?」
こんなにエルドと話をしたのはいつぶりだろうか。
そんなことを考えながら、互いに気を遣うように探り合う会話の中で、それが俺たちのために持ってきたものであることくらいには気がついた。
「え? ああ、これか。これは、その、お詫びとA級パーティに上がったことの祝い品として持ってきたんだが……出過ぎた真似だったな」
「……見せてくれないか?」
「あ、ああ」
包みを開けてみると、そこには一本の酒が入っていた。
もしかしたら、どこかの誰かから、俺の好みの物を聞いたのかもしれない。
その酒は俺でも知っているくらいに高いやつだった。パーティランクの昇進祝いにしては、随分と羽振りが良いものだった。
「もらっていいのか?」
「え、ああ、う、受け取ってくれるのか?」
「べつに、酒に罪はないだろ。それに、まぁ、お詫びとしてじゃなくて、祝い品としてならありがたくいただくよ」
「ああ、それで十分だ。……ありがとうな」
「この場合は、お礼を言うのは俺の方じゃないか? 祝い品を貰った訳だしな」
エルドの瞳が微かに湿りけを帯びている気がしたので、俺はそれを誤魔化すように言葉を続けた。
少し黙ってしまったエルドとの会話の間を埋めるために、俺は続けて口を少しだけ開いた。
「エルドはこれからどうするんだ?」
「ああ、キースとモモと三人でパーティを組み直すことにしたよ。E級パーティからやり直すことにした」
「E級? な、なんでそんなところから?」
「アイクの力でランクが上がっただけだったからな。ギルドと相談して、冒険者ランクも下げてもらったんだよ」
そんなことを口にしたエルドは、どこか胸のつかえが取れたようだった。新しいことを始めようとする少しの高鳴りと、何かに対する申し訳なさ。
その二つが混ざり合ったようにㇵの字になった眉を見て、俺の方も少しだけ胸のつかえが取れたような気がした。
確かに、ギース達のことは許せない。それでも、ずっと許さないと思い続けるのも結構労力を使ったりするのだ。
それから少しだけ解放されたような気がして、俺は自然と口元が緩んでいた。
「タンクと魔法使いと回復魔導士って、バランス悪くないか? 前衛がタンク職だけってことだろ?」
「ああ。しばらくは、俺がタンク兼剣士だろうな」
「エルドって、剣なんか持ってたか?」
「いや、何か買うつもりだ。さすがに、昔使ってた奴は錆びてそうだしな」
俺がギース達のパーティに加わったときは、エルドはすでにタンク専門だった。となると、その前にソロで活動をしていた時に剣を使っていたのだろう。
「……エルド、酒と交換ってことで、これあげるよ」
「え? 短剣か?」
俺はアイテムボックスから一本の短剣を取り出すと、それをそのままエルドの方に投げて渡した。
エルドは驚くように渡された短剣を掴むと、鞘から少しだけ引き抜いて、短剣の刃を眺めていた。
「いや、これ結構いいやつなんじゃないか? 貰っちゃっていいのか?」
「いいんだよ。俺が作った失敗作だ。いらなければ、捨てておいてくれ」
「す、捨てれるわけないだろ。……ていうか、アイクって武器まで作れたのか」
俺とリリが持つには少し重すぎる短剣。俺たちも攻撃力が結構上がったし、少し重くてもいいんじゃないかと持って作った奴だ。
結構、いつも使っている重さの方が手に馴染むし、多分使うことはないだろう。
使わないなら使ってもらった方がいいし、多分タンクと兼業するならちょうどいい大きさだと思う。
ちなみに、武器ランクはB。結構悪くないできだったりする。
「まぁ、なんだ。新しいパーティ、上手くいくといいな」
「ありがとう。……ありがとうな」
エルドは俺から貰った短剣を手に持ったまま、しばらく下を向いて肩を震わせていた。
エルドの立っている地面がぽつぽつと濡れようが、俺はそれに気づかないフリをして、その場を後にした。
……あまり見られて良いものではないだろうしな。
酒をキッチンにある冷蔵庫に運んでいると、ちょうど料理をしているリリと目が合った。そのまま、リリは俺が持っている酒の方にちらりと視線を向けた後、こてんと小さく首を傾けた。
「あれ? お酒貰ったんですか? どなたからです?」
「んー……昔の、冒険者仲間からだ」
俺はそれだけ言うと、酒をしまってその場を後にした。
許す気はないはずなのに、俺の口からはぽろっと仲間という言葉が漏れていた。
どうやら、俺は悪いことをしても、それを反省できる奴のことは、そこまで嫌いになりきれないらしい。
多分、そこがギースとの違いなんだろうな。
そんなことを考えながら、俺は先程のエルドの言葉を思い出していた。
……ギースか。
自分が嫌われていると分かっていながら、エルドが伝えに来てくれた情報。その情報を無下にできるはずがなく、俺は頭の片隅にギースの情報を置いておくことにした。
「謝ってきたんだ。そう、良かったじゃない」
「ああ。……許してはもらってはないがな」
「全く許さない人に、自分の物をあげたりしないわよ」
ミノラルから出る相乗りの馬車で揺れながら、キースはエルドが腰に下げている短剣を見ながら、そんな言葉を口にした。
「キースとモモは、一緒に謝りに行かなくて良かったんだよな?」
今回直接謝罪に行ったのは、エルド一人だった。他の二人にも謝罪に行くことは前もって伝えてあったのだが、二人はエルドについていこうとはしなかった。
「私はいいの。許されないことをしたんだから、この罪悪感はそのままにしておきたい。そうしないと、またどこかで間違えちゃう気がするし、戒めのためにもね」
「私は、単純に合わせる顔がありません。もう少しちゃんと自分の気持ちと向き合ってから、手紙で謝罪をすることにします」
どの形でアイクに謝罪をするのが正しいのか、それは誰にも分からないことだった。
しかし、三人ともがアイクに対して感じている気持ちは同じものだと言えるだろう。
三人はミノラルを出て、遠くの街に行くことを決めていた。そこで実力をつけて一から冒険者としてやり直す。
プライドも飾りだった冒険者ランクも捨てて、やり直すことを決めたのだった。
ギースと違って、罪に対して向き合おうとする三人の心は、当時の『黒龍の牙』と同じものではないことは確かだった。
そして、ギースだけはそんな気持ちを抱かないことだけは確かだった。
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私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─
これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。
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カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
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