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第36話 馬車での移動中
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「アイクさん! ミノラルがもう見えなくなってきましたよ!」
「おっ、ほんとうだ。やっぱり馬車は速いな」
王都ミノラルを出てしばらく馬車で走ると、ミノラルの姿がどんどん遠くなっていった。
ガルドの鍛冶場は半日くらいで着くとのことだったので、結構近いのかと思っていたがこのペースで半日か。
そう考えると、それほど近い距離ではないような気がしてきた。
そして思い出すのは、これから依頼されるガルドからの武器材料の採取の依頼。
貸し切りの馬車を用意していることから、この馬車代と俺たちに支払う報酬並みのことを要求してくるはずだ。
つまり、短剣一本分以上の働き。
一体、どんな依頼をされるのか。
あまり深く考えると沼にハマってしまいそうだったので、俺は気を紛らわせるために外の景気を見て癒されていた。
馬車は多少揺れるものの、どんどんと変わっていく景色が面白くて飽きることがなかった。子供のような表情で外の景気に見惚れているリリを見て、いつかもっと遠くの方まで旅行をするのもいいかなと思ったりもしていた。
「御者さん。やっぱり、森にでも入らない限り魔物に襲われたりはしないんですか?」
「そうですね。あえて、縄張りにも入っていない人間に襲うような魔物はいないですよ。まぁ、動くだけでそれを獲物として捉えるような魔物もいますけどね」
「え?! それって、大丈夫なんですか?」
「ははっ、ここら辺はまだ大丈夫ですよ。この辺は道も舗装されてますしね」
「……ここら辺は大丈夫、ですか」
何か引っかかるような言い方が気になってしまう。その言い方だと、大丈夫ではない所があるような言い方だ。
「ここら辺だと、魔物よりも盗賊とかの方が多いですね。やっぱり、商人が多い所にはどうしても寄ってきますから」
「盗賊、ですか」
この場合の盗賊というのは、ジョブとしての盗賊ではなくて犯罪者の方の盗賊のこと示しているのだろう。
商人の乗っている馬車などを襲って、金品などを強奪する集団。王都など憲兵がしっかりしている所には少ないが、地方都市では店などを襲うこともあると聞いたことがある。
現在馬車が走っている所は王都からも結構離れている。
王都で商売をしてきてちょうど金に換金したばかりの商人。それも、舗装されている道を通ってくるのが分かっているので、狙いやすいと言えるだろう。
……もしかしたら、この馬車も襲われるのでは?
「心配ですか? 大丈夫ですよ、うちの馬車は狙われません」
俺の感情が表情に出てしまったようで、御者はおどけるようにそんなことを口にした。どういう意味だろうと続きを促すと、御者はそのまま言葉を続けた。
「狙うなら大人数が乗ってる相乗りを、個人用の馬車を狙うなら装飾品を確認して狙う。それが奴らの定石です。捕まる覚悟で襲ったのに、一家の引っ越し中の馬車とか金品のない馬車だったら馬鹿みたいじゃないですか。あいつらも頭は使ってるらしいですよ」
「なるほど、確かに襲っても何も金目のものがなかったら馬鹿みたいですよね」
御者の言い分は確かだった。捕まるというリスクを抱えている以上、ハイリターンの馬車を狙った方がいい。
そうなると、この馬車は……。
「個人用というにしては少しでかいですけど、装飾品なんかつけてません。それに、三人しか乗っていないんですから、いざとなれば逃げきれますよ」
「それは、かなり頼もしいですね」
「ははっ、ありがとうございます。まぁ、狙われるのならああいう馬車でしょうな」
御者のおじさんは隣を過ぎ去った馬車の方にちらりと目配せをしながら、そんな言葉を口にした。
「相乗りで王都発。それでいて、冒険者の護衛ようの馬車もいない。多分、同じ馬車に数人冒険者を雇ってるだけでしょうね」
「なるほど、確かに馬車のスピードも遅いし狙われそうですね」
振り返って見てみると、そこには俺たちよりも一回り以上大きな馬車があった。乗っている人数が多いせいか、馬車の速度も出ておらず、広い荒野に一台の馬車だけで走っている。
盗賊側からしたら、確かに狙いやすいだろう。
俺はそっと【気配感知】のスキルを使用して、周りに何か潜んでいないか確認してみることにした。
俺たちが大丈夫でも、ここで今さっきすれ違った馬車に何かあったら嫌だしな。
俺が【気配感知】のスキルを使うと、過ぎ去った馬車の付近に人の気配を感知した。何か間違いだろうかと思って振り返ってみるが、その周辺には誰もいない。
気配はあるのに姿は見えない?
「……まずい、御者さん止まってください! リリ、この馬車は任せたぞ!」
「え? あ、アイクさん?!」
俺はリリと御者にそう言うと、馬車が止まるより早くその馬車から飛び降りた。
姿を隠すことのできるスキル。同じものを持っているから、それが何なのかすぐに分かった。
【潜伏】のスキル。それを使って馬車に近づいているということは考えるまでもない。
この気配に反応しているのが盗賊だ。
俺は少しでも早く馬車のもとに駆け付けるために、ひたすらに強く地面を蹴った。
あれ? そういえば、対人戦は初めてなのではないか?
「おっ、ほんとうだ。やっぱり馬車は速いな」
王都ミノラルを出てしばらく馬車で走ると、ミノラルの姿がどんどん遠くなっていった。
ガルドの鍛冶場は半日くらいで着くとのことだったので、結構近いのかと思っていたがこのペースで半日か。
そう考えると、それほど近い距離ではないような気がしてきた。
そして思い出すのは、これから依頼されるガルドからの武器材料の採取の依頼。
貸し切りの馬車を用意していることから、この馬車代と俺たちに支払う報酬並みのことを要求してくるはずだ。
つまり、短剣一本分以上の働き。
一体、どんな依頼をされるのか。
あまり深く考えると沼にハマってしまいそうだったので、俺は気を紛らわせるために外の景気を見て癒されていた。
馬車は多少揺れるものの、どんどんと変わっていく景色が面白くて飽きることがなかった。子供のような表情で外の景気に見惚れているリリを見て、いつかもっと遠くの方まで旅行をするのもいいかなと思ったりもしていた。
「御者さん。やっぱり、森にでも入らない限り魔物に襲われたりはしないんですか?」
「そうですね。あえて、縄張りにも入っていない人間に襲うような魔物はいないですよ。まぁ、動くだけでそれを獲物として捉えるような魔物もいますけどね」
「え?! それって、大丈夫なんですか?」
「ははっ、ここら辺はまだ大丈夫ですよ。この辺は道も舗装されてますしね」
「……ここら辺は大丈夫、ですか」
何か引っかかるような言い方が気になってしまう。その言い方だと、大丈夫ではない所があるような言い方だ。
「ここら辺だと、魔物よりも盗賊とかの方が多いですね。やっぱり、商人が多い所にはどうしても寄ってきますから」
「盗賊、ですか」
この場合の盗賊というのは、ジョブとしての盗賊ではなくて犯罪者の方の盗賊のこと示しているのだろう。
商人の乗っている馬車などを襲って、金品などを強奪する集団。王都など憲兵がしっかりしている所には少ないが、地方都市では店などを襲うこともあると聞いたことがある。
現在馬車が走っている所は王都からも結構離れている。
王都で商売をしてきてちょうど金に換金したばかりの商人。それも、舗装されている道を通ってくるのが分かっているので、狙いやすいと言えるだろう。
……もしかしたら、この馬車も襲われるのでは?
「心配ですか? 大丈夫ですよ、うちの馬車は狙われません」
俺の感情が表情に出てしまったようで、御者はおどけるようにそんなことを口にした。どういう意味だろうと続きを促すと、御者はそのまま言葉を続けた。
「狙うなら大人数が乗ってる相乗りを、個人用の馬車を狙うなら装飾品を確認して狙う。それが奴らの定石です。捕まる覚悟で襲ったのに、一家の引っ越し中の馬車とか金品のない馬車だったら馬鹿みたいじゃないですか。あいつらも頭は使ってるらしいですよ」
「なるほど、確かに襲っても何も金目のものがなかったら馬鹿みたいですよね」
御者の言い分は確かだった。捕まるというリスクを抱えている以上、ハイリターンの馬車を狙った方がいい。
そうなると、この馬車は……。
「個人用というにしては少しでかいですけど、装飾品なんかつけてません。それに、三人しか乗っていないんですから、いざとなれば逃げきれますよ」
「それは、かなり頼もしいですね」
「ははっ、ありがとうございます。まぁ、狙われるのならああいう馬車でしょうな」
御者のおじさんは隣を過ぎ去った馬車の方にちらりと目配せをしながら、そんな言葉を口にした。
「相乗りで王都発。それでいて、冒険者の護衛ようの馬車もいない。多分、同じ馬車に数人冒険者を雇ってるだけでしょうね」
「なるほど、確かに馬車のスピードも遅いし狙われそうですね」
振り返って見てみると、そこには俺たちよりも一回り以上大きな馬車があった。乗っている人数が多いせいか、馬車の速度も出ておらず、広い荒野に一台の馬車だけで走っている。
盗賊側からしたら、確かに狙いやすいだろう。
俺はそっと【気配感知】のスキルを使用して、周りに何か潜んでいないか確認してみることにした。
俺たちが大丈夫でも、ここで今さっきすれ違った馬車に何かあったら嫌だしな。
俺が【気配感知】のスキルを使うと、過ぎ去った馬車の付近に人の気配を感知した。何か間違いだろうかと思って振り返ってみるが、その周辺には誰もいない。
気配はあるのに姿は見えない?
「……まずい、御者さん止まってください! リリ、この馬車は任せたぞ!」
「え? あ、アイクさん?!」
俺はリリと御者にそう言うと、馬車が止まるより早くその馬車から飛び降りた。
姿を隠すことのできるスキル。同じものを持っているから、それが何なのかすぐに分かった。
【潜伏】のスキル。それを使って馬車に近づいているということは考えるまでもない。
この気配に反応しているのが盗賊だ。
俺は少しでも早く馬車のもとに駆け付けるために、ひたすらに強く地面を蹴った。
あれ? そういえば、対人戦は初めてなのではないか?
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