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第22話 感化された助手の二戦目
しおりを挟む俺たちは倒したキングディアをアイテムボックスにしまって、残りのクエストを行っていた。
俺が【気配感知】をしてワイドディアの気配を感知したので、その気配の方に近づくと二体のワイドディアが水辺で水を飲んでいた。
ワイドディアというのは肉は食用に、角は素材になる。そのため、結構な確率でワイドディアの肉や素材を採取してきて欲しいという依頼が出されるのだ。
今回もクエストの依頼はその肉だった。余った素材はギルドの方が買い取ってくれるだろう。
「アイクさん、ここは私にやらせてください」
「二体いるけどいけるか?」
「大丈夫です。私にも【投てき】のスキルがあるので」
ワイドディアは好戦的ではない魔物だ。だから、危険性はかなり低いと思う。それでも、逃げ足の速さは馬鹿にできない魔物なのだ。
一体は俺が相手をしようと思っていたのだが、リリは先程の俺の戦闘を見て気持ちが高まっているようだった。
……ここは任せてみるとするか。
「私もアイクさんみたいにナイフを華麗に投げてーーあっ、アイクさん、ナイフを一本借りてもいいですか?」
【投てき】スキルを見せると言っておきながら投げる物がないことに気づいたようで、リリは恥ずかしそうにそんなことを言ってきた。
俺が投げナイフを一本リリに渡すと、リリは先程までのやり取りをなかったものにするかのように真剣な顔をして、俺の隣からワイドディアに走っていった。
リリは【潜伏】のスキルを使いながらワイドディアの近くまで行き、短剣を鞘から引き抜いてワイドディアを切りつけた。
「ピギィィ!」
悲鳴のような鳴き声を上げたワイドディアの首筋にもう一振り短剣で切りつけると、一体のワイドディアはその場に倒れ込んだ。
突然仲間が得体の知れない何かに切りつけられて驚いたのか、もう一体のワイドディアがその場から走り去ろうとした。
リリはそうなることを想定していたようで、俺から借りた投げナイフを片手で持つと、そのワイドディアに投げたナイフを投げつけた。
「ピギャ!」
リリの投げたナイフは丁度ワイドディアの後ろ脚に突き刺さって、ワイドディアは驚いたようその場に転げ落ちるように倒れた。
すかさずリリはそのワイドディアの所に走っていき、首筋に一太刀を入れた。見えない何かに反撃をしようとしてきたワイドディアにもう一撃短剣を振り下ろすと、ワイドディアはそのまま動かなくなった。
「中々スムーズだったな」
「そうですか? えへへっ、まぁ、アイクさんの助手ですからね。このくらい余裕です」
俺は戦闘が終わったのを確認して、リリの方に近づいていった。
【潜伏】のスキルを解除しながら笑みを浮かべるリリは、確かに助手と呼べるだけの働きをしてくれていた。
逃げ足の速いワイドディアを相手にして、これだけスムーズに倒すことができれば十分だろう。
とても、冒険者ランクがGには思えない。本当にすぐに冒険者ランクが上がっていきそうだな。
そんなことを考えながらも、自分もFランクの冒険者だったことを思い出した。
俺も冒険者ランク早く上がるのかなと考えながらワイドディアをアイテムボックスにしまっていると、リリが先程借りたナイフを布で拭きながら持ってきた。
「アイクさん。これ、ありがとうございました」
「ん? ああ……いや、それリリにあげるよ。これから必要になるだろうし」
「え!? いいんですか!?」
「もっと良いやつ買ってやりたいから、それまでの代用品ってことでーー」
「ありがとうございます! 大事にしますね!!」
「いや、それそんな良い物じゃーー」
結構昔から使ってるやつだし、本数も多く持ってるから上げてしまおうと思っただけなのだが、リリは恋人から大切な物を貰ったかのように高揚感を抑えられなくなっていた。屈託のない笑みを向けられてしまうと、それ以上言うのが野暮な気がして、俺は喉まで出かかった言葉を静かに呑み込むことにした。
「……リリにかっこいい所を見せつけられたなら、俺も見せつけないとな」
そして、俺はその言葉の代わりにそんな言葉を口にした。
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