上 下
63 / 84

頭の中をいじられた高垣

しおりを挟む
 部屋を揺るがす振動。
 みなが不安げな表情を浮かべている。

「なんだ?」
「戦車部隊が近づいてきているのかな?」

 俺の言葉に矢野が言った。本当は軍人の矢野が言ったんだから、きっと当たりだ。

「しかし、そうだったとしたら、なんでだ?
 交渉は明日だろ?」
「私、見てくる」

 そう言って出て行ったひなたが戻って来るまでに、それほどの時間を要さなかった。ひなたの話では、このコロニーの周辺に軍の戦車部隊が展開し終えているらしかった。
 そして、軍から使者としてあの高垣がやって来ているらしく、ひなたはそれだけ話すと、俺たちを残して、再び部屋を出て行った。

 このコロニーの有力者たちと、軍の話し合い。軍に元々協力を求めると言っていただけあって、話し合いなんてすぐに終わるだろうと思っていた予想に反して、ひなたはなかなか戻ってこなかった。
 ようやく戻って来たのは、この部屋に窓があれば、夕日が部屋の中をオレンジ色に染めているだろう頃だった。

「えぇーっと、颯太君とあかねちゃんは、ちょっと来てくれないかな」

 ひなたはそう言って、俺とあかねを別の部屋に連れて行った。さっきの部屋から少し離れた、真ん中に小さなテーブルが一つ置かれただけの小さな部屋。
 ひなたが座った対面に俺とあかねが並んで腰を下ろした。

「で、話って?」
「私のお父さんとも連絡がついたの」
「で、マスクの男の名前は聞いてくれた?」
「木原って名前らしいけど」

 俺の父親ではないのか?
 ちょっと残念だ。
 としたら、何者なんだ?

「で、今交渉に来ている軍の高垣って男は教会に操られているらしいの」

 木原と言う苗字に関する俺の反応などどうでもいいかのように、ひなたは話を続けた。
 が、その言葉は俺の反応を無視するだけの大きな問題だ。

「なんだって!」
「私のお父さんたちは、教会の中枢部を奪取しようとしているらしいの」
「中枢部?」
「そこに何があるのか、どうして、それを奪取する必要があるのかは教えてくれなかったんだけど。
 で、その近くにいるらしくて、監視もしているらしいの。
 そしたら、高垣がそこに連れて来られて、半日ほどでそこから出て行った」
「それだけで、どうして教会に操られているって事になるんだ?」
「記憶を書き換えられたはずだって」
「そこには、記憶を書き換える装置があるって事か?」
「でしょうね」
「高垣の事は加藤とかに伝えたのか?」
「今は気づいていないふりをしてるの。
 で、その高垣がソーラーパネルの蓄電システムが焼損したのなら、バリアも張れないだろ。もうここを守れるのは軍しかいない。
 私たちの身の安全を確保するためにも、軍管理下のコロニーに移れって」
「確かに、光のバリアが無いと厳しいな。
 で、どうするんだ?」
「そんなやり取りをしているところに、うまくお父さんから連絡があって、私と何人かが抜けて、お父さんと話してきたの。
 それがさっきの話。
 本当はね、ソーラーパネルはフェイクなの」
「つまりあれか。
 人は見たいものしか見ないってやつか」

 ひなたの言葉の意味を俺はそう理解した。

「お兄ちゃん、私は見ないんじゃなくて、お兄ちゃんが見たいものをちゃんと見せてあげたいな」

 あかねがそう言って、にこりとした。
 ありがとう、あかね。
 見たよ。見たいもの。俺はあかねの笑顔を見たいんだ!

「だから、あかねちゃんって、お兄ちゃんにあんな態度なんだぁ」

 ええっ! 
 そうなのか? やっぱ、あかねのあの態度は芝居なのか??

「違うよ。
 私はお兄ちゃんが好きなんだもん」

 そう言って、あかねがまたまた俺の腕に抱き着いて来た。
 ムニュッ感! 見たいだけでなく、感じさせてくれる。
 あかねはサイコーだ。

「あかねちゃん。
 分かったから、話を戻そう」
「はあい」

 そう言うとあかねは俺の腕から離れた。ここで、あかねを見ると、ただの妹のあかねになっているのが、いつもの事だ。
 俺はムニュッ感とかわいいあかねの余韻に浸っていたくて、一人瞼を閉じた。
 そんな俺の気持ちなど知らないひなたが、まじめな話を続けだした。

「ここを守る光のバリア。あれを作るエネルギーはどこから?
 そう思った人があのソーラーパネルを見ると、あれがそうだと思っちゃう訳。
 だから、今回蓄電システムを破壊した人も、教会のなのか高垣の指示なのかは分かんないんだけど、あれを狙ったんだと思う。
 でも、本当はね。地下の高圧配線網から盗んでいるの」

 かつてより首都の地下に電気を送るため張り巡らされている高圧の配線。
 教会はその配線網を再構築し、自分たちの支配下にのみ電力を供給している。

「それって、教会のって事だよね。
 確かに今も、この部屋の電気は点いているし」

 笑わずにおられなかった。
 教会あるところに光あり。その中にあかね色の光も入っていた訳だ。
 教会あるところに、あかね色の光あり。

「そう。
 なので、今でもバリアは使えるんだけど、今度使うとそのエネルギーがソーラーパネルじゃないとばれちゃうのよ。
 しかも、乗り込んできている軍の高垣は教会に頭の中いじられちゃっているしするから、はっきり言って、私たちの敵なのよね」
「やっちゃう?」

 ひなたはまじめだ。
 ちょっと息抜きをしたくて、あかね風にあかねソードの柄を構えて言ってみた。

「そんな事で解決はしないわ」

 さすがまじめなひなただ。マジな返事が返って来た。

「そうだよ。お兄ちゃん」

 あかねまでひなた風の返事をしてきて、仕方ないので、あかねソードをポケットにしまった。

「ここを軍に引き渡すことにしたの。
 みんなは安全なコロニーに移動する。
 私たちはそれとは別に教会の中枢部に向かいましょう」
「待て。
 二つ聞きたいことがある」

 ひなたが言葉の代わりに頷いて、承諾を表した。

「ここのバリア装置を高垣に、教会に渡すつもりか」
「大丈夫よ。
 私たちが去った後、遠隔操作でマスクの男がここを破壊するわ」
「よかった。
 敵に渡す事には反対だからな。
 それに、その話から言って、マスクの男も同意しているって事だよな?」

 ひなたは再び頷いた。

「もう一つの質問。
 教会の中枢部のある場所だが、それは爆心地近くじゃないのか?
 としたら、教会のコロニーを通って行かなければならない」
「それは教えてもらえていないの。
 危ないから、来てはならないって。
 だから探さないといけないの」
「可能性が高いのは爆心地か、凛、おそらく本物の凛と出会った第2コロニーだ」

 俺たちは目標として、本命を爆心地、最初に訪れるのは第2コロニーと定めた。
 そして、ひなたは父親から危ないから来るなと言われたと言うのに、俺たちと行動を共にすることにした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スペーストレイン[カージマー18]

瀬戸 生駒
SF
俺はロック=クワジマ。一匹狼の運び屋だ。 久しく宇宙無頼を決めていたが、今回変な物を拾っちまった。 そのまま捨ててしまえば良かったのに、ちょっとした気の迷いが、俺の生き様に陰をさす。 さらば自由な日々。 そして……俺はバカヤロウの仲間入りだ。 ●「小説化になろう」様にも投稿させていただいております。

惨劇の国のアリス

姫宮未調
SF
メイドが語る、哀しき御伽話とその深層の物語 メイドのアリスの体験談の本編 アリス・リリィの目線ストーリー 最初のアリスの原版編 現実と夢(物語)の世界が同時進行します 《アリスゲーム》は《女王のアリス探し》 でも、女王の求めるアリスはただ1人 突き放したのは女王、伝えなかったのはアリス 心が擦れ違い、壊れた二人 壊れた心の目では真実の扉は開かれない あなたは哀しき結末を目撃する 数あるアリスシリーズの最初のアリスの物語をあなたに アリスはあなたの心にも…… もしかしたら、あなた自身も『アリス』なのかもしれない ひめみやさんぷれぜんつ ひめみやさんアリスシリーズ第一段

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...