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リーダー矢野さん?
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俺たちはひなたのコロニーに戻って来た。ひなたが一緒と言う事で、鷲尾たちがいる事に関しても、特に何も言われなかったが、俺たちに向けられる視線はちょっと厳しく感じてしまう。
歓待されている風でないのは、見知らぬ三人のせいなんだろうか?
まあ、ひなたでさえ、三人の内の鷲尾と矢野に関しては信用していないのだから、仕方ない。特に鷲尾に関しては、ひなたは完全に本心では疑っているし、鷲尾の事は俺が責任もって監視すると言って、とりあえず納得してもらっているのだ。
ひなたがいなくなり、あかねと鷲尾、矢野と服部の四人と時を潰すここは窓一つない部屋。中央に花瓶の置かれたテーブルが無ければ、監禁部屋とも言えそうな殺風景な部屋だ。
部屋の中に一つしかないドアは閉じられ、ちょうど大人の胸辺りから上にはめ込まれたすりガラス越しに、俺たちが出て行くのを防ぐために、そこに立っているのであろう男の後ろ姿が見て取れる。
「颯太君って、ここの人たちに信用されていないんだぁ」
「て言うか、あなたたちがいるからだと思うんですけど」
むきになるほどではなく、ほんの少し冷たい感じで言い返しておく。
「私がいるからって意味ですよね?」
鷲尾が言った。自分が教会側の人間だからと言う自覚はあるらしい。が、その事はここに到着した時点では知られていないはずだ。いくらひなたがいても、そうと知っていたら、入れてくれるはずがない。
「いやあ、て言うか、颯太君が総食系って、ばれてて警戒されてるんじゃないの?
今頃、コロニーの中の女の子たちを隠しているとか」
「あ、それあるかも」
矢野の言葉を服部が受けて、二人で笑いあっている。どうやら、俺に対する嫌悪感は無さそうだが、二人の会話を聞いた鷲尾の顔には嫌悪感が浮かんでいる気がしてしまう。まあ、この子とは長い付き合いではないので、いいと言えばいいのだが、それでも女の子に嫌われるのは好きじゃない。なんて、思っていると、しかめっ面のまま鷲尾が言った。
「何か焦げ臭い」
嫌悪感を浮かべていると思っていたのは、誤解かも知れない。だが、俺には何も臭わないし、すりガラスの向こうに映る男の後ろ姿にも、変化はない。
「私は臭わないよ」
あかねが言ったその言葉に、矢野も服部も頷いている。
鷲尾は鼻がいいのかもしれない。それなら、ドアを開けば俺たちにもその臭いは感じられるに違いない。
ドアのところにまで近寄って、ドアを握りしめると、ゆっくりと押し開く。当然、そこには男が立っている訳で、すぐに男の体にドアは当たって、それ以上開くことはできない。
「なんだ?」
男はその場所を動くこともなく、背を向けたまま不審げな口調で、俺に言った。
「なんか臭いません?」
そう言う俺自身、ドアを開けても何も臭わないのだが。
「いいや。
どんな?」
俺が全くの嘘を言っていると思っているらしく、面倒くさそうな口調だ。
「いえ。いいです」
そう言ってドアを閉じると、鷲尾に向かって行った。
「やっぱ何も臭いはしないようだが」
「だったら、いいんですが」
鷲尾はそれでも不安げだ。
「何か不安なの?」
矢野が言った。その声音、表情、全てに余裕と人を包む余裕があふれている気がする。これが大人の女性なのか。
「いいえ。何もしないならいいです」
「まあ、今のところ、何もなさそうだし」
そう言って、俺は席に戻った時だった。ドアの向こうから慌ただしく、駆ける何人もの人の気配が伝わって来た。
「何かあったのか?」
俺たちのドアの前に立っていた男が言った言葉が聞こえてきた。すりガラスに映る姿が横顔になっていて、もう一人の影もうっすらと見て取れる。
その向こうを駆けて、通り過ぎていく人影が続いている事から言って、何か大きな事が起きたらしい。
男の会話に耳をすましてみる。
「蓄電システムが燃えているらしい」
「事故なのか?」
「分からない。
とにかく、急いでいるんだ」
鷲尾の言ったとおりだった。
「鷲尾さんの言ったとおりだったんだ。
火事みたいだけど、危なくなったら、私に任せてね」
大人の風格を感じてしまう矢野の言葉。
「お兄ちゃんなんか、ドア開けてまでして、臭い嗅いだのに」
「いや、俺なんかよりドアの前に立っていたあの人だって、気づいていなかったんだから」
ドアの方を差して、自分を正当化する。
いや、しかし、蓄電システムって、どこにあるんだ?
ソーラーパネルはかなり離れた場所だったが。
「鷲尾さんって、鼻いい方なの?」
「えぇーっと、かな?」
疑問形で小首を傾げる仕草を見ていると、かわいいと思ってしまう。
鷲尾に向けた視線をついついそっと下ろして、胸のあたりの膨らみに向けてみる。
「懲りないねぇ、お兄ちゃん」
どうやら、表情をあかねに読まれていたようだ。そして、なずなの件もあるのにと非難しているのだろう。
そんな時、ひなたが戻って来た。
「ごめん。待たせちゃったね」
「蓄電システムが燃えてるとか」
「みたいだね。
今、みんなで消しに行っているから、すぐに消えると思うけど」
「どこにあるんだ?」
「このコロニーの入り口を入ってすぐのところにソーラーパネルがあったでしょ。
その近く場所だよ」
って、遠っ!
よく鷲尾はそんなところの火事に気付いたものだ。と言うか、他の場所のにおいを勘違いしたとか。
「で、なんの話をしてたの?」
矢野が切り出した。
俺たちを避けつつひなたと話をする。その内容に興味の無い者はいない。
きっと鷲尾だって、思っているはずだ。
「軍との連携に関して。
私のお父さんはまだ戻って来ていないし、軍にたどり着いていないみたいなんだけど」
「ちょっと待てよ。
無事なのか?」
「あー、今までにもあった事だから。
それに、時々向こうからネット使って連絡が入ってるみたいだし、大丈夫だと思うんだよね」
「ネット?」
「その子のお父さんの事は私たちより、この子の方が詳しいんだから、この子が大丈夫と言うなら、それでいいはず。
話を進めて」
矢野が大人の貫禄を漂わせて、俺の質問を強制終了させた。俺は質問を遮られたと言うのに、矢野の取り仕切りに気持ち的に押された気がして、その話を続ける気は失せてしまった。
「あ、うん。
で、元々軍の下に向かったのは、軍との連携を求めるためだったんだよね。
確かに、このコロニーに立て籠もっていたら、負けはしないんだけど、ちまちまとした攻撃を仕掛けても、決して教会に大きなダメージを与えられてなんかいないんだよ。
強力な攻撃力なんて、一般人だった私たちは持ってないから。
その軍から協力の申し入れがあったみたいで、明日その話し合いに軍の代表が来るらしいんだ。で、それをどうするかって事」
「で、結論は?」
結論が先と言いたげな口調で矢野が言った。
「元々協力する気だったから、受け入れ方向でって感じかな」
「まあ、妥当な結論ね」
って、矢野さん。あんた軍の人間だよね? 第三者風発言はいかがかと。そんな目つきで矢野を見た。
「何か不満?」
「えぇーっと、出会った時となんか立場が入れ替わったような気が。
リーダー矢野さんって感じが」
「あら、だって、私の方が年上なのよ。
それに経験も豊富だし」
「やっぱ、大人の女だねっ。ねっ、お兄ちゃん」
矢野の言葉にあかねが意味ありげな顔つきで、立てた右手の人差し指を左右に振りながら、俺に言った。
左右に横でよかった。上下で突き出す方向なら、危ないところだ。
「でね」
申し訳なさそうなひなたの声と顔つきだ。
「軍があなたたちを敵視しているらしいと言う情報も入って来てて」
「だから、みんなの視線が厳しかったのか。
で、矢野さん、軍って私たちを敵視しているんでしょうかね?」
矢野が軍と関係があると知っているのは俺だけであって、あかねたちは知らないから、俺の矢野への質問にきょとんとした表情で俺を見ている。
「それって、大人の私に一般的な考えを聞いてる?」
あかねたちがそう言う事かと納得した表情で、矢野の答えを待っている。
「敵になるような事したの?
してないんなら、心配いらないんじゃないかな。
まあ、軍にもいろんな人はいるのかも知れないけど」
矢野の言葉を俺なりに解釈すると、高垣はともかく、加藤は俺たちを敵視していないと言う事だ。
そう理解した時、小さな地鳴りのような振動を感じた。
地震?
そんな思いで、神経を揺れに集中させる。徐々に強くなってきていて、地震のようなゆったりとした周期ではなく、ゴゴゴゴゴと言う感じの短い振動だ。
歓待されている風でないのは、見知らぬ三人のせいなんだろうか?
まあ、ひなたでさえ、三人の内の鷲尾と矢野に関しては信用していないのだから、仕方ない。特に鷲尾に関しては、ひなたは完全に本心では疑っているし、鷲尾の事は俺が責任もって監視すると言って、とりあえず納得してもらっているのだ。
ひなたがいなくなり、あかねと鷲尾、矢野と服部の四人と時を潰すここは窓一つない部屋。中央に花瓶の置かれたテーブルが無ければ、監禁部屋とも言えそうな殺風景な部屋だ。
部屋の中に一つしかないドアは閉じられ、ちょうど大人の胸辺りから上にはめ込まれたすりガラス越しに、俺たちが出て行くのを防ぐために、そこに立っているのであろう男の後ろ姿が見て取れる。
「颯太君って、ここの人たちに信用されていないんだぁ」
「て言うか、あなたたちがいるからだと思うんですけど」
むきになるほどではなく、ほんの少し冷たい感じで言い返しておく。
「私がいるからって意味ですよね?」
鷲尾が言った。自分が教会側の人間だからと言う自覚はあるらしい。が、その事はここに到着した時点では知られていないはずだ。いくらひなたがいても、そうと知っていたら、入れてくれるはずがない。
「いやあ、て言うか、颯太君が総食系って、ばれてて警戒されてるんじゃないの?
今頃、コロニーの中の女の子たちを隠しているとか」
「あ、それあるかも」
矢野の言葉を服部が受けて、二人で笑いあっている。どうやら、俺に対する嫌悪感は無さそうだが、二人の会話を聞いた鷲尾の顔には嫌悪感が浮かんでいる気がしてしまう。まあ、この子とは長い付き合いではないので、いいと言えばいいのだが、それでも女の子に嫌われるのは好きじゃない。なんて、思っていると、しかめっ面のまま鷲尾が言った。
「何か焦げ臭い」
嫌悪感を浮かべていると思っていたのは、誤解かも知れない。だが、俺には何も臭わないし、すりガラスの向こうに映る男の後ろ姿にも、変化はない。
「私は臭わないよ」
あかねが言ったその言葉に、矢野も服部も頷いている。
鷲尾は鼻がいいのかもしれない。それなら、ドアを開けば俺たちにもその臭いは感じられるに違いない。
ドアのところにまで近寄って、ドアを握りしめると、ゆっくりと押し開く。当然、そこには男が立っている訳で、すぐに男の体にドアは当たって、それ以上開くことはできない。
「なんだ?」
男はその場所を動くこともなく、背を向けたまま不審げな口調で、俺に言った。
「なんか臭いません?」
そう言う俺自身、ドアを開けても何も臭わないのだが。
「いいや。
どんな?」
俺が全くの嘘を言っていると思っているらしく、面倒くさそうな口調だ。
「いえ。いいです」
そう言ってドアを閉じると、鷲尾に向かって行った。
「やっぱ何も臭いはしないようだが」
「だったら、いいんですが」
鷲尾はそれでも不安げだ。
「何か不安なの?」
矢野が言った。その声音、表情、全てに余裕と人を包む余裕があふれている気がする。これが大人の女性なのか。
「いいえ。何もしないならいいです」
「まあ、今のところ、何もなさそうだし」
そう言って、俺は席に戻った時だった。ドアの向こうから慌ただしく、駆ける何人もの人の気配が伝わって来た。
「何かあったのか?」
俺たちのドアの前に立っていた男が言った言葉が聞こえてきた。すりガラスに映る姿が横顔になっていて、もう一人の影もうっすらと見て取れる。
その向こうを駆けて、通り過ぎていく人影が続いている事から言って、何か大きな事が起きたらしい。
男の会話に耳をすましてみる。
「蓄電システムが燃えているらしい」
「事故なのか?」
「分からない。
とにかく、急いでいるんだ」
鷲尾の言ったとおりだった。
「鷲尾さんの言ったとおりだったんだ。
火事みたいだけど、危なくなったら、私に任せてね」
大人の風格を感じてしまう矢野の言葉。
「お兄ちゃんなんか、ドア開けてまでして、臭い嗅いだのに」
「いや、俺なんかよりドアの前に立っていたあの人だって、気づいていなかったんだから」
ドアの方を差して、自分を正当化する。
いや、しかし、蓄電システムって、どこにあるんだ?
ソーラーパネルはかなり離れた場所だったが。
「鷲尾さんって、鼻いい方なの?」
「えぇーっと、かな?」
疑問形で小首を傾げる仕草を見ていると、かわいいと思ってしまう。
鷲尾に向けた視線をついついそっと下ろして、胸のあたりの膨らみに向けてみる。
「懲りないねぇ、お兄ちゃん」
どうやら、表情をあかねに読まれていたようだ。そして、なずなの件もあるのにと非難しているのだろう。
そんな時、ひなたが戻って来た。
「ごめん。待たせちゃったね」
「蓄電システムが燃えてるとか」
「みたいだね。
今、みんなで消しに行っているから、すぐに消えると思うけど」
「どこにあるんだ?」
「このコロニーの入り口を入ってすぐのところにソーラーパネルがあったでしょ。
その近く場所だよ」
って、遠っ!
よく鷲尾はそんなところの火事に気付いたものだ。と言うか、他の場所のにおいを勘違いしたとか。
「で、なんの話をしてたの?」
矢野が切り出した。
俺たちを避けつつひなたと話をする。その内容に興味の無い者はいない。
きっと鷲尾だって、思っているはずだ。
「軍との連携に関して。
私のお父さんはまだ戻って来ていないし、軍にたどり着いていないみたいなんだけど」
「ちょっと待てよ。
無事なのか?」
「あー、今までにもあった事だから。
それに、時々向こうからネット使って連絡が入ってるみたいだし、大丈夫だと思うんだよね」
「ネット?」
「その子のお父さんの事は私たちより、この子の方が詳しいんだから、この子が大丈夫と言うなら、それでいいはず。
話を進めて」
矢野が大人の貫禄を漂わせて、俺の質問を強制終了させた。俺は質問を遮られたと言うのに、矢野の取り仕切りに気持ち的に押された気がして、その話を続ける気は失せてしまった。
「あ、うん。
で、元々軍の下に向かったのは、軍との連携を求めるためだったんだよね。
確かに、このコロニーに立て籠もっていたら、負けはしないんだけど、ちまちまとした攻撃を仕掛けても、決して教会に大きなダメージを与えられてなんかいないんだよ。
強力な攻撃力なんて、一般人だった私たちは持ってないから。
その軍から協力の申し入れがあったみたいで、明日その話し合いに軍の代表が来るらしいんだ。で、それをどうするかって事」
「で、結論は?」
結論が先と言いたげな口調で矢野が言った。
「元々協力する気だったから、受け入れ方向でって感じかな」
「まあ、妥当な結論ね」
って、矢野さん。あんた軍の人間だよね? 第三者風発言はいかがかと。そんな目つきで矢野を見た。
「何か不満?」
「えぇーっと、出会った時となんか立場が入れ替わったような気が。
リーダー矢野さんって感じが」
「あら、だって、私の方が年上なのよ。
それに経験も豊富だし」
「やっぱ、大人の女だねっ。ねっ、お兄ちゃん」
矢野の言葉にあかねが意味ありげな顔つきで、立てた右手の人差し指を左右に振りながら、俺に言った。
左右に横でよかった。上下で突き出す方向なら、危ないところだ。
「でね」
申し訳なさそうなひなたの声と顔つきだ。
「軍があなたたちを敵視しているらしいと言う情報も入って来てて」
「だから、みんなの視線が厳しかったのか。
で、矢野さん、軍って私たちを敵視しているんでしょうかね?」
矢野が軍と関係があると知っているのは俺だけであって、あかねたちは知らないから、俺の矢野への質問にきょとんとした表情で俺を見ている。
「それって、大人の私に一般的な考えを聞いてる?」
あかねたちがそう言う事かと納得した表情で、矢野の答えを待っている。
「敵になるような事したの?
してないんなら、心配いらないんじゃないかな。
まあ、軍にもいろんな人はいるのかも知れないけど」
矢野の言葉を俺なりに解釈すると、高垣はともかく、加藤は俺たちを敵視していないと言う事だ。
そう理解した時、小さな地鳴りのような振動を感じた。
地震?
そんな思いで、神経を揺れに集中させる。徐々に強くなってきていて、地震のようなゆったりとした周期ではなく、ゴゴゴゴゴと言う感じの短い振動だ。
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