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これまでのこと3

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「人間の3Dコピーに遺伝子操作をしていたとしましょう」

 加藤の言葉に、俺は口を挟んだが、そこで言葉が詰まってしまった。

 凛のコピーの少女がいて、それが異能者?
 凛の容姿をした異能者の存在。
 俺でさえ許せないそんな存在を、凛はどう思うのだろうか?

 凛がそのことを知っているのかどうかは分からないが、知っているとしたら、きっと心を痛めているはず。
 もしも、凛のコピーが本当にいるとしたら、凛の思いを想像しただけで、俺は言葉を出せなくなった。

「たとえ遺伝子操作が行われていたとしても、人間の3Dコピーとあの生物の出現には関係が無さそうなんですけど」

 俺の言いたかった事をあかねが続けてくれた。

「私もそう思う。
 あの生き物の事はまだ分からない。
 サンプルは持ち帰り、血液なども調べてみたが、感染的な要因は見つかっていない。
 肉体的には完全に人間であり、脳のシナプスの結合が乱れているらしいと言う事だけが分かっている」
「そうやって、軍がこの首都圏の中の人たちを救出せず封鎖している間に、教会と言う得体のしれない組織ができあがってきて、爆心地の近くでコロニーを拡大し続けていたの」

 ひなたが加藤の言葉に続けた。

「教会の信徒になれ、傘下に入れと言う脅迫に従わなかった人たちは、神の使いと言われる異能の者たちに惨殺されていったの。
 その噂はコロニーからコロニーへと伝搬していき、教会の恐ろしさからその支配下に入るコロニーが増えていったの。
 でも、なぜだか傘下に入ると、みんな恐怖心が消え去り、忠誠心が上がるみたいなの。
 その一方で、教会に大切な人を奪われた人たちが集まって、反教会勢力ができたの」
「教会の目的、それは最初の段階で我々も調査した」

 ひなたの言葉を再び加藤が受け継いだ。

「どうも彼らの目的は外の世界も含めた支配であるらしい。
 そんな危険な組織を放置しておくわけにはいかない。
 我々は部隊を送り込んで、教会に圧力をかけられているコロニーの救援を図ったのだが、最初に送り込んだ陸上部隊は壊滅させられた。
 救援と情報収集のため送り込まれた戦闘機部隊も、地上から発射された誘導ミサイルに撃墜させられた。
 教会と言う組織が、確かな情報と作戦も無いまま戦って勝てる相手ではないと言う事を、この時初めて知った訳だ。
 それから調査を始めて、分かった事は教会には本当に異能の神の使いと言う者たちがいると言う事だ。
 そして、この区域にある施設をうまく運用してもいるのだ」
「全知全能の神と奴らは言っている」

 加藤の言葉を受けたのは俺だ。

「その後の事は、俺の方が詳しいはずだ。
 俺は大久保さんに見せられたさっきの写真につられ、あかねと共にこっちの世界にやって来た。
 そして、教会の力を見てきた。
 人の心を読んだり、改宗させたりすると言う力。これは人の記憶を読みだしたり、書き換えたりする科学技術だった。
 そして、保護色を使ったり、蜘蛛の糸を使ったり、異様な速さと力を身につけた神の使いたち。これは遺伝子操作された人間の3Dコピーなんだろ?
 高垣に銃弾の雨を浴びせられ、肉塊と化した教祖が蘇ったのも、3Dコピー技術。
 そんな3D技術は爆心地にある、あの日、俺の父親が人を3Dコピーする実験を行った施設を使って、作られていると思っていた訳だが、その施設は廃墟になっていた。
 施設は人の手によって破壊された感じで、誰のものかも分からない干からびた腕が二本落ちていた。
 教会の教祖である高山が言うには、金山は神が降臨された際に亡くなったと言う事なので、あの腕は金山の腕なのかも知れないが、実際のところは分からない。
 教会の力で、もう一つ気になるのは全知全能の神と称されている事象だ。
 大久保の過去や、あかねの過去も知っているし、教会札や地対空ミサイルなどを扱う技術も有しているらしい。
 軍人や印刷局の職員が協力していると考えるのが普通なんだが」
「そこに関して、本当の事は分からないのだが」

 加藤が言葉を挟んできた。

「今回戦う事になった教会の戦車部隊だが、操縦していた者たちは軍とは関係の無い者たちである事が判明している。
 捕らえた者たちに尋問したが、操縦をどこで学んだかに関しては、みながみな口をそろえて同じことを言っている。
 神に学んだと」
「神の姿はこれなのか?」

 教会札を取り出して、加藤に渡した。

「ああ。
 彼らはこの神が現れ、その前で神より力を授かったと言っている」

 加藤が答えた。
 まじかよ。マジで教会には神がいて、全知全能だと言うのか?

「まだ教会の力の全容が暴けていない。
 このまま激突するのは、危険なんじゃないかな?
 何しろ、私が見たところでは神の使いたちは健在だ」

 高垣が身を乗り出して言った。

「教会の全容なんだけど」

 ひなたが言った。

「私たちは反教会組織で、教会の全容を探ろうと、人を送り込んでいたんだけど、みんな戻って来ないの」
「爆心地に向かった政府や軍の人たちと同じだな」
「とにかく、停戦交渉に応じた方がいい」

 高垣がまた言った。


「しばらく、教会を探るか」

 加藤が言った。
 それで、方針は決まった。停戦だ。

「あっ! ところで、服部を外に世界に戻してもらえないでしょうか?」
「今更、何言ってるのよ!」

 服部は外の世界に戻りたくて、軍に接触を図ろうとしていた。その事を忘れていた訳じゃないが、話す機会が無くて、今になった。とは言え、何か全面否定的な言葉を吐かれるとは予想外だ。

「水野が残るって言うんなら、ここにいてあげるわよ」
「はい?」
「なんだっていいでしょ。
 一緒にいてあげるって言ってるんだから!」

 ツンツンした態度の女の子と一緒にいたいなんて思った事もないし、思う訳もないが、ここでそんな事を言ったら、どんな騒ぎになるかも分からない。

「じゃあ、そう言う事で」

 とりあえず、そんな感じでこちらに残る事になったツンツン未果も、軍の代表としての加藤と教会指名の高垣、俺とあかね、そして自ら参加を申し出た大久保とひなたと共に教会本部に向かう事になった。
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