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あの事件のあと

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 反教会勢力。
 そのリーダーの娘であるひなたが語ってくれたその経緯には、俺たちの知らない話が多くあった。


 この事態が起きてすぐ、あの生物の存在に気が付いた人たちは、ともかく安全に暮らせる場所を求めて、バリケードを築き始めた。
 外の世界に逃げ出せずこの世界で暮らす以上、それ以外の手は無かった。

 ひなたたちが最初に築いたコロニーの場所は、今では巨大な教会領域の中に含まれているらしいが、当初は独立した小さなコロニーだったらしい。

 みんな何とか生き延びるのに精いっぱいだった頃、そう遠くないコロニーで「教会」と言う組織が設立され、その教会は爆心地を中心とした円周上に、コロニーを拡大し始め、すぐにひなたの父親の弟、つまりひなたの叔父が暮らすコロニーにまで、勢力がおよび始めた。

「教会の信徒となり、教会傘下に入れ」と言う、教会からの誘い? 脅迫めいた、そのコロニーの代表者たちとの話し合いは決裂した。
 混乱時に突然出てきた新興宗教なんて、信用しろと言う方が無理な話で、多くの人々は教会には従わないと言う態度だったらしい。

 そんなコロニーを教会の神の使いが襲った。
 その前に、神の使いたちはその力をデモンストレーションしていたらしい。
 それでも従わない者たち。それを見せしめとして、粛清した。

 その噂は何とかそのコロニーから逃げ延びた者たちによって、他のコロニーへと伝搬していった。
 軍の兵や闇社会の者たちを瞬殺する力を持つ者たちである。
 きっと、一般人など全滅させる事はそれほど難しいものではなかったはずだと言うのに、いくらかの人をコロニーから逃がしたと言うのは、おそらくそれは教会の恐ろしさを広く知らしめるため。

 そんな一人があの生き物の攻撃さえも逃げ切り、ひなたのコロニーにたどり着いて来たと、ひなたは言った。

  ひなたの父親は弟の身を按じ、教会の手に落ちたコロニーに向かって行った。
  そこで見たものは体を損壊して死に絶えた多くの遺体。そして、血と肉の海に沈む多くの肉塊の中に、無残にも体をへし折られた弟の死体を発見した。

 怒りに震えたのはひなたの父親だけではなかった。
 老若男女多くの者たちが家族の仇を討とうと、怒りの炎に身を包んだ人たちが集まり始めた。そして、教会の力の前にその怒りを隠し、反攻の時をうかがっていた怒りに燃える者たちの数が千をはるかに超えた時、怒りの導火線に火が付き、爆発した。

 怒りの炎に思考回路が焼き尽くされてしまった人々の攻撃の矛先は、コロニーの改修を始めていた教会の者たちだった。千を超えていた怒りに包まれた人が一斉に襲い掛かる勢いはまるで津波のようであった。
 もはや誰もそれを止める事はできず、一気に教会の全てを押し流すかに見えたうねりの前に立ちふさがったのは五人ほどの若い男女だった。

 この勢いを前に五人でどうするのか?
 一瞬もこらえきれない。そう誰もが思っていたはずの展開はもろくも崩れ去った。
 上がる血しぶきと悲鳴。飛び散る肉片。それは教会に襲い掛かった者たちのものだった。
 一瞬にして、両手以上の数の人々が肉塊と化していく。
 人をはるかに超えた異能の力。
 これが神の力なのか?
 そんな絶望的な状況を前にしていたひなたの父親の前に、マスクの男が現れた。

「剣道家の犬塚さんだね?」

 それが男の第一声だったらしい。相手はひなたのお父さんの事を知っていた。マスクの男は教会を潰すのは今ではないと言って、教会に対抗する力を育てるよう勧め、まだ無人状態だったあの光のコロニーまで、ひなたのお父さんを連れて行ったとの事だった。

 なので、今あのコロニーにいる者たちは、その後に集まって来た人たちのため、光のバリアの事はあまり知らないと言う事だ。
 そして、噂が噂を呼び、そこに次々と教会に反感を持つ者たちが集まってきた。
 当然のように、教会の神の使いが攻撃をかけてきはしたが、あの光のバリアを超えることができず、教会側も力攻めを諦めて、今に至っているとの事だった。

 あと、ひなたが持つ妖刀 村雨の幻術についても、語ってくれた。
 元々はもっと強力な妖術を宿した妖刀だったらしいが、強力すぎる妖術は封印され、村雨本来の幻術だけを帯びた妖刀となったらしい。それも、昔は抜けば幻術が発生すると言われていたらしいが、時の流れの中、その力も薄らぎ、斬った相手にのみ効果が発するものになったらしい。
 斬った相手がおちいる幻術の世界は、ひなたがイメージした世界とすることができるとの事だった。

 そして、ひなたはあの時の出来事も語ってくれた。


「あの日、私は友達と地下鉄に乗って、下校中だったんだよね」

 その話はそんな言葉で始まった。
 そう言えば、こちらの世界の人間から、あの時の事を直接聞くのは初めてだ。
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