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反教会勢力のコロニーとあかね色の光

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 教祖 高山を襲撃した軍人 高垣。
 その処刑決定が記された張り紙に駆け寄る同じ軍人の大久保。俺的には高垣を救い出す立場ではないと思っているので、大久保とは違い普通に歩いていく。

「早く、早く!」

 そんな俺と違い、なずなにとっては緊急事態なのか、手招きと共に俺を急かしている。

「おう」

 高垣の事で急ぐ理由は無いが、なずなに急かされれば、それは急ぐ理由になる。駆け足でなずなところに駆け寄ろうとした俺の腕をあかねがつかんだ。
 振り返った俺にあかねが見せたのは寂し気な表情。

「私よりなずなちゃんを取るの?」
「いや、そんな話じゃないだろ」
「だって、私を置いて行こうとするんだもん」

 ほっぺを膨らませて拗ねた表情のあかねもサイコーだ。
 って、そんな事を思っている場合じゃない。

「別に置いていってないだろ?」
「あの子じゃなく、私だけを見・て・い・て」

 あかねが俺の耳元まで近づいて、囁くように言った。
 妹のささやきでなかったら。いや、妹のささやきでも、なんだかぞくぞくしてしまう。
 囁き終えたあかねは、俺の耳元から離れて、胸を逸らして威張りんぼっぽい姿勢で立っている。

「なんで?」
「女の勘!」
「いや、だから、あかねは女の子だし」
「そんな事分かんないんじゃないのかなぁ」

 ふふふ! 的なあかねの笑みが、俺を不安にさせる。
 も、も、も、もしかして。

「あかねちゃん。
 緊急事態なんだ。颯太くんで遊ぶのは止めてくれないか」
「はぁぁぁい」

 ふふふ! 的な笑みから、普通の明るい笑顔に戻ったあかね。
 あかねとの世界を邪魔する大久保が、今回だけはほっとさせてくれた。
 あかねは俺で遊んでいただけで、まだ女の子だ。
 うんうん。一人、力強く頷く。

「颯太くんも、早く。これ、これ」

 なずなが掲げられている一枚の紙を、差し出した人差し指で指し示した。
 その紙に書かれていたのは、一週間後、ある場所で高垣を処刑すると言う事だった。そして、その場所はこの崩壊した首都圏に進駐してきている軍に伝えると書かれている。
 つまりその場所を知るためには、まずはここを出て進駐してきている軍に向かわなければならないと言う事になる。

「どうするの?」
「俺的には、あまり関係ない事なんだが」
「だよね。
 ここを出て、あの二人を探そっか」

 小首を傾げて、にこりとした表情のなずな。この笑顔も幸せなひと時だ。

「ちょっと待ってくれ」

 大久保は俺とあかねの世界だけでなく、なずなとの世界にも邪魔者として入ってくるらしい。不機嫌な顔を大久保に向けてみる。

「私は軍の所に一旦戻るべきだと思う。
 少なくとも、私はそうしたい」
「じゃあ、これで」

 行動を共にしなければならない間柄ではない。
大久保の言葉に、本音で返してみる。

「コロニーの外の世界を長距離移動するには、私だけでは無理だ」

 そんな事、言われなくたって分かっている。でも、俺が大久保を警護する理由は、今となっては全く無くなってしまっている。

「あ!」

 なずなが言った。
 何? 的な視線を向けると、なずなが左の手のひらを右の拳でポンと叩いてみせた。

「じゃあさ、ちょっと離れた場所に反教会勢力のコロニーがあるんだよね。
 そこに連れて行ってあげたらどうかな?」

 反教会の勢力。最近知った新たな勢力。今の俺的には教会に対する反感がめっきり薄らいできているだけに、反教会と言う勢力に魅力も何も感じないが、どんな奴らなのか見ておいて損は無い。

「そこからは、その人たちのお世話にって事だな?」

 俺の問いに、なずなも大久保も頷いた。

「場所、分かるのか?」
「うん。知ってるよ」

 そう言うなずなを案内人に、その反教会勢力のコロニーに向かう事にした。


 爆心地を取り囲む教会のコロニーを出て、小一時間ほどあるいた先にそのコロニーはあった。
 それほど大きくないコロニー。
 そう思ったのは、それはさっきまで大きすぎるコロニーにいたからだけではない。その辺のコロニーと比べても、小ぶりだ。
 軍隊さえ殲滅できる教会が、こんなコロニーをほっておく理由はなんなんだ?
 取るに足らない存在で、敵として考えていない。
 そう言う事なんだろうと言う俺の考えはコロニーとの距離が数百mほどに近づいた時に、打ち破られた。

 それまでむき出しのただのコロニーだったものが、あかね色の光のベールで突然被われた。

「あれは?」

 コロニーを包むあかね色の光。あかねソードと同じものかも知れない。としたら、これは一種のバリア。
 俺たちのあかねソード。
 ソードとして触れる物を切り裂くだけでなく、可視光を拡散し、周囲の者の視力を一時的に奪うと言う機能もあるが、まだ使った事の無い機能、バリアもある。
 これはあかねソードと関係のあるコロニー。つまりそれは俺の父親と関係のあるコロニーだ。

 教会の神の意思を取次ぐ者が凛だとして、反教会の勢力にこんな装置を提供したのが俺の父親だとしたら、これはいったいどう言う状況なんだ?
 首都崩壊直後に撮られた写真に写っていた二人の距離は敵対意識を持っている者たちのそれではなく、仲間、支えあう二人。そんな感じだったはずなのに。
 答えが出ない。
 そんな思いが、俺をそのコロニーに向かって駆けさせていた。

 あかね色の光の間近で立ち止まり、見上げてみるとそれは完全に光の壁、バリアーだ。

「この光に触れてはならない。
 大怪我あるいは死ぬことになる」

 光の壁の向こう、コロニーの中から男の声がした。
 地面に落ちている20cmほどの長さの木の枝を拾い、光の壁に近づけていく。
 光に触れた瞬間、焼け焦げるにおいがした。
 ぐいっと、光の壁に突き刺して、抜いてみる。
 光の壁から向こうにもあったはずの枝は無くなっていた。

「この光の壁を作った人に会いたいのだが」

 俺は大声で言った。

「そう言う訳にはいかない。
 君は誰だ?」
「水野颯太。レーザー兄妹の兄だ」
「レーザー兄妹?
 武器を構えてみてくれないか?」

 光の壁の向こうから、こちらを見る事はできないはず。
 どこか別の場所から、俺がレーザー兄妹だと言う事を確認しようとしているらしい。ポケットに手を入れ、あかねソードを取り出して構えた。

「ほかの者は何者だ?」
「俺の妹に仲間たちだ」

 俺がそう言い終えた瞬間、目の前の光の壁が一瞬にして消滅した。
 目の前に広がるのは、建造物の残骸で築かれたバリケード。
 これだけを見れば、ちょっと小さめのただのコロニーだ。

「入るのなら、右側に回ってくれ」

 コロニーの中から聞こえてきた声の指示通り、バリケードに沿って右に回っていく。建造物の残骸をベースに築かれたバリケードは、どこでもそうだが高さが凸凹なだけでなく、境界も凸凹だ。バリケードに接近しすぎて沿って歩くと、ぶつかってしまう可能性だってあるので、バリケードから1mほど離れて歩いていく。

「あの光は颯太くんの武器と同じ色だったが、同じものなのか?」
「それは分からないね。
 ここの人たちに聞いてみないと」

 俺が話したがらない雰囲気を察したのか、大久保はそれ以上は聞いてこなかった。ただ黙って、バリケードに沿って歩いてく。
 やがて、どこかの邸宅から持ってきたと思える門扉が目に入った。俺たちが近づくと、その門扉が開いて、中から数人の男が出てきた。

 「教会の敵だそうじゃないか」

  その中の一人の男が言った第一声はそれだった。

「いえ、今は違うみたいです」
「そうなのか?
 でも、お前たち、教会の神の使いとか司祭とか、色々殺っちゃってるらしいじゃないか」
「は、は、ははは。
 それはなりゆき?」

 なぜだか疑問形で返したしまった。

「まあ、入れ。
 色々聞きたいこともある」
「こちらも、教えてもらいたい事がありますので」

 そう言って、コロニーの中に入った俺の目の前にあったのは、規模的には小さめなメガソーラーだった。

「これがあの光を作り出しているエネルギーですね?」

 なずなは理系目指してたのか?
 そんな事に興味を持つなずなをそんな思いで見た。

「あ? ああ。
 はははは」

 なずなの質問に男の一人がそう答えた。で、最後の笑いは何なんだ? いぶかし気な視線を向けてみたが、その男には全く無視され、何の反応も返してくれなかった。

 そんな俺たちが連れて行かれたのは、元々はどこかの会社の事務所っぽい建物の会議室。大型液晶のホワイトボードにTV会議システム、そして20人ほどが向かい合える大きなテーブル。
 俺たちをここに案内した男が促すまま、俺たちは席に着くと、短辺側は2mもないテーブルの向こう側に、数人の男たちが座った。

「さてと、あと一人揃っていないが、まずは俺たちの事を話しておきましょう。
 俺たちがなんだか知ってますか?」
「反教会勢力と聞いている」

 大久保が答えた。
 俺的にはそんな話より、ここのバリアーを作った人の事を聞きたいところだが、順序と言うものもあるだろうから、大人しく向こうの話をまず聞くことにした。


「そうなんですよ。
 ここにいる者たちは教会に大切な人を殺められたり、奪われたりした人たちばかりです」

 殺された?
 確かに神の使いとかがいる訳で、平気で兵士たちを惨殺したり、司祭を殺したりしている。
 その司祭も怪しげな男たちで俺たちを殺めようとした事はたしかにあったが、それは稀な事じゃないのか?

「多くの普通の人が殺されたんですか?
 教会のコロニーの中は平和でしたよ」
「普通の人が殺されたんだよっ!
 信じられないのか?」

 俺に質問に返って来たのは、ちょっときつめの口調だった。
 さっきまではどちらかと言うと、俺たちに歓迎ムード的な雰囲気だったはずが、ちょっと悪い雰囲気に傾きつつある。
 そう思った時、部屋のドアが開いた。

「遅れて、ごめんなさい」

 女の人の声。視線を向けた先にいた少女は凛と同じくらいの背の高さで、その背中に流れる黒髪のポニーテール。細面の輪郭に、ほんの少し可愛く下がった目じりを持つ大きな瞳。

「犬塚ひなた!」

 見知った顔に、思わず声をあげてしまった。
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