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三人の八犬士 vs 村雨くん

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 一気に二人の八犬士を迎え、三人の八犬士を仲間にした。
 なんとなく、すんなりと八人を仲間にできそうな……。
 そんな思いでいる私のところに、ある情報が届いた。

 信乃ちゃんの知り合いの犬川荘助犬川そうすけが、主殺しの罪で罰せられるらしい。
 これまで見つかった三人の八犬士たち。
 なぜだか、みな名前に「犬」が付く。
 この犬川と言う人物も、八犬士の可能性があるのではと言う事で、知り合いの信乃ちゃんは当然として、文ちゃんと現ちゃんも犬川荘助を助けに行く事になった。

「ありす殿、犬川を助け出すため、刑場を襲うとあってはありす殿を連れてまいる訳にはいきません。へたをすれば、ありす殿まで罪人にしてしまいまするゆえ。
 ありす殿は村雨殿を置いてまいりますので、ゆるりと我らの後を追って来てくだされ」


 信乃ちゃんが自信たっぷりの顔で言った。
 私の下に残るのは村雨くんただ一人。

「えぇーっと、村雨くんだけで大丈夫なのかな?」
「村雨殿は、里見家が姫の護衛につけた剣士。
 となれば、その腕は確かでございましょう」


 そう。村雨くんの剣の腕に関しては、そうなのかも知れない。でも、分かっているのは腰の刀は竹光だって事。この前は何とかなったけど、それは相手が弱かっただけと言う可能性だってある。もっと強い悪者が現れたら、竹光の村雨くんで対処できるのかどうか不安で仕方ない。
 でも、村雨くんの刀は竹光。なんて事は、言えやしない。

「でも、どのくらい強いかは見た事無いですよね?」
「それは確かに」
「だったら、一度信乃ちゃんの腕で確かめてもらえません?」

 そう。信乃ちゃんと村雨くんが戦う。
 村雨くんがそれなりの腕だとしても、盗賊たちを追い払ったり、盗賊たちの追っ手とやりあったりした実績からして、信乃ちゃんの腕は抜群。
 勝敗は見えている。
 村雨くんが負けたところで、信乃ちゃんたちに村雨くんだけではだめだと納得してもらう作戦。
 これで、解決。
 もちろん、村雨くんの承諾も必要。
 これは私の仕事。

「村雨くんって、竜とも戦えるんだよね?」
「封印を解けばですけど」
「人間相手なら、封印解かなくても大丈夫だよね?」
「か、か、か、勝てますよ。は、は、はは」

 目を泳がせながら、笑っている村雨くんを見ていると、勝負ありを私は確信せずにいられない。あとは試合を始めだけ。
 

 二人の手合わせには、私の他に文ちゃんに現ちゃんも立ち会う事になった。
 私の横で信乃ちゃんと村雨くんを真剣な表情で見つめている。

 二人は中段の構えで、急ごしらえで造った刀代わりの木の棒を構えて向かい合っている。
 信乃ちゃんが先に動いた。
 構えを上段に移しながら、一気に村雨くんに迫って行く。
 勝負あり。
 そんな思いで見つめる私の視界の中で、村雨くんも動いた。
 左側に素早く動きながら、構えを脇構えに移したかと思うと、振り下ろされる信乃ちゃんの手に攻撃を加えた。

「ぐっ!」

 そんな声を上げて、掴んでいた木の棒を信乃ちゃんが落とした。

 マジで?
 信乃ちゃんが負けた。

 相手が子供だと思って、なめていたのもあるだろうし、村雨くんの体が小さいと言うのも良かったのかも知れない。
 しかし、村雨くんの動きがすばしっこかったのも事実。

「なかなか」

 現ちゃんが私の横で言った。

「村雨くんって、強いの?」
「そうですね。
 犬塚殿が油断したと言うのを差し引いても、それなりの腕かと。
 やはり里見の家が姫の警護につけただけの事はあるかと。
 しかし、次は犬塚殿も注意するでしょうけど」

 一回だけでは分からない。
 そう言うことらしい。

「もう一回やってみてくれないかな」

 私の言葉に、村雨くんは中段の構え、信乃ちゃんは下段の構えで再び向き合った。
 信乃ちゃんはさっきと違って動かない。
 村雨くんも動かない。

 信乃ちゃんも容易に襲い掛かれない。と言う事なんだとしたら、村雨くんはやはりそれなりの腕と言う事。
 でも、いつまでも、子供相手ににらみ合っていられない。
 そう思ったのか、信乃ちゃんが動いた。

 脇構えに変えたかと思うと、信乃ちゃんが村雨くんとの間合いを詰めていく。
 信乃ちゃんの右側に伸びた木の棒。
 左半身は無防備のまま、間合いを詰めてきたので、つられるように村雨くんが動いた。
 信乃ちゃんに一気に迫り、無防備な左側を攻めるのかと思っていたら、村雨くんは右側に木の棒を振り下ろした。
 村雨くんの棒は、信乃ちゃんの棒を狙っていたかのような軌跡を描いて、振り下ろされた。
 それを信乃ちゃんの木の棒が受けた。

 コン。

 木の棒と木の棒がぶつかった音を合図に、二人の剣戟が始まった。
 速攻で決着がつかないとしても、勝敗は信乃ちゃんの勝ちに違いない。
 そんな思いはすぐに裏切られた。
 村雨くんが横に薙ぎ払った木の棒が、信乃ちゃんの腹部に命中した。

「うっ」

 信乃ちゃんが呻いた。

「これほどとは」

 現ちゃんも、村雨くんの剣さばきに呻くように言った。
 村雨くんは嬉しそうでもなく、自慢げでもない。
 そこがちょっとかわいくなくて、意地悪したい気分になった。

「村雨くん。
 三人でも勝てるかな?
 竜に比べたら、簡単だよね」
「そ、そ、それはもちろん」

 胸を反らせて、目を泳がせながら言った。

「じゃあ、それで」

 そう言って、文ちゃんと現ちゃんに目配せをした。

「ありす殿。
 私はそもそも武士もののふではございませぬゆえ、このような戦いには不向きかと」
「文ちゃん。
 そう言うのは関係ないと思うんだよね。
 初心者って言うんなら別だけど、文ちゃんはこれまでも刀を振るってきた訳でしょ。
 武士ではない独自の戦い方。それが意外有効かも知んないよ」
「分かりました。では」

 文ちゃんも木の棒を手に、村雨くんに近寄って行った。
 信乃ちゃん、現ちゃん、文ちゃんが固まらずに散らばって、村雨くんを取り囲んでいる。

 武士でないと言っただけあって、文ちゃんの構えは差し出した左手に刀身を乗せ、柄を握る右手は後方に曲げて、まるで弓を引き絞っているかのような特異な感じ。
 村雨くんとしては、三方に敵がいる状態で、視線を一方向に固定できない。さすがに、これでは村雨くんに勝ち目はないはず。
 村雨くんの視線が、文ちゃんから離れた瞬間、文ちゃんが仕掛けた。
 村雨くんに一気に襲い掛かり、棒の枝先が村雨くんを間合いに捕えると、文ちゃんは曲げて構えていた右腕を伸ばし始めた。
 木の棒の先が村雨くんに襲いかかる。
 村雨くんは素早く、自分の木の棒を文ちゃんの木の棒の下側に当てその刃先をかわしたかと思うと、そのまま文ちゃん目指して、向かって行った。
 文ちゃんの腹部に、村雨くんの木の棒が当たった。

「うそ!」

 三人対一人だと言うのに、村雨くんが一人倒した。

 真剣だったなら、真っ二つ?

 でも、他の二人が自分たちに背を向けた村雨くんに襲い掛かっていた。
 上段から振り下ろされる信乃ちゃんの木の棒。
 でも、村雨くんは文ちゃんのところで留まっていなかった。
 信乃ちゃんの木の棒は虚しく空を切り、村雨くんは斬り捨てたはずの文ちゃんの背後に回り込んで、一瞬にして向きを変えたかと思うと、信乃ちゃんに襲い掛かっていた。
 信乃ちゃんに襲い掛かる村雨くんの木の棒を、とりあえず自分の木の棒で防いだ信乃ちゃんだけど、押され気味。
 小柄と言う事と、動きが素早い事が重なって、村雨くんの方が優勢な感じ。
 横から現ちゃんが村雨くんに襲い掛かると、素早く向きを変えて、現ちゃんの腹部に木の棒を撃ち込んだ。

 思わず目が見開いてしまう。
 村雨くんが二人を倒してしまった。
 このまま負ける訳にもいかない信乃ちゃんが、村雨くんに襲い掛かった。

「待って!」

 声を挟まずにいられなかった。
 私の声に村雨くんと信乃ちゃんが動きを止めて、私を見た。
 信乃ちゃんが負ける所はもう見たくない。

「もう終わりにしましょ。
 村雨くんが強いのは分かったわ」

 そう。それは分かった。

「でも」

 そこで、私の言葉は止まってしまった。

「村雨くんの刀は竹光。それでも、私を守れるくらい強いの?」

 なんて言葉は出せやしない。

「大丈夫ですよ。
 村雨殿の腕があれば」

 村雨くんの刀が竹光だと言う事を知らない信乃ちゃんが、力強く頷きながら言った。
 現ちゃんに文ちゃんも頷いている。

「村雨殿。大丈夫ですよね?」
「も、も、もちろんです。
 ありすを守るのは私の任務ですので」

 目を泳がせて、のけぞり気味に言った。
 あれだけの腕があるなら、竹光だとしても、それなりに自信を持っていてもいいはず。
 現に、自分で天下無双の剣の腕だとも言っている。
 なのに、どうしてこうも不安を抱かせる態度なの?
 やっぱ、竹光だから?

  信乃ちゃんたちも村雨くんの態度に不安を? なんて事はなく、たった今、自分たちでその剣の腕を確かめたからなのか、自信ありげな顔つきを変えていない。

「分かりました」

 私に残された選択肢はこれしかなかった。
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