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村雨くんの活躍

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 川に落ちて流された信乃ちゃんと、もう一人の見知らぬ八犬士。
 川の流れが急だったのもあってか、二人は岸にたどり着くこともできなかったようで、どんどん私と村雨くんのいる場所から離れて行った。
 でも、二人の気配を感じられると言う事は、二人は無事と言う事でもある。
 二人を追って、私と村雨くんはちょっと開けた町にたどり着いた。

 ちょっと小奇麗な家が立ち並び、歩く人々もちょっと小奇麗。農村に比べてと言う程度だけど。行き交う人もちょっと多くて、賑やか。これも、農村に比べてと言う程度だけど。

「今日はよい天気じゃのう」
「そろそろ油を買わないと」
「私の娘を探しています!」
「前を向いて、しっかり歩きなさい」

 人々の声が飛び交う町中。そんなちょっと賑やかな中を歩いていると、物珍しさも手伝って、私の歩みはテンポが落ち気味。村雨くんは数m先を歩いていて、おあきちゃんも、うれし気な表情でその横を歩いている。
 ふらふら気味に歩く私が細い路地を通り過ぎた時、突然背中をツンツンされ、ふり返ると、見知らぬ30代くらいの男が立っていて、にんまりとしていた。
 全く知らない人。にんまり顔は友好的と言うより、ちょっと不気味さが濃い。
 これは危ない人かもと思った時には遅かった。
 他にもこの人の仲間がいたようで、私は口を手で塞がれ、両足と胸の辺りを掴まれ、まるで丸太を抱えるかのようにして、細い路地の中に連れ込まれてしまった。

 路地を抜け、私が連れて行かれたのは、町並から少し外れた大きな松の木の横に建てられた家だった。
 屋根が風で飛ばされないようにか、屋根の上には石が置かれている。
 開けられた扉の先に見えるのは土間。
 さらにその奥に筵が敷き詰められている。

「何するのよ!」

 ようやく塞がれていた口が自由になった私が言った最初の言葉はそれだった。
 外から直接差し込んでいた陽光が遮られた薄暗い部屋の奥から、別の男が現れた。50近いと思われる容姿とは対照的に、眼光鋭く、危なげなオーラを放っている。

「これは、これはなかなかじゃないか?」

 男に続いて、さらに10人ほどの男たちが姿を現した。
 完全に危機的な状況。
 頼りになっても、ならなくても、村雨くんにいて欲しい状況。

「私をどうする気!」

 私がそう言うと、男たちの真ん中に立っている50近い男が傍らの男に顎を振って、何か合図のような仕草をした。この男がリーダーらしい。

「へい」

 手下の男が向かって行った場所には、大きな樽がいくつも並んでいた。手下の男は一つの樽の蓋の上にしてあった紐を解くと、その蓋を外して、中を覗き込んだ。

「おい。
 新顔さんに、顔を見せてやれ」

 そう言いながら、その男は一度樽の中に手を突っ込んで引き上げた。
 男の手と共に、現れたのは私と同じような年頃の女の子。
 顔は恐怖で引き攣っている。

「あんたも、そこに詰めてやるからな」
「詰められた後、どうなるんですか?」
「俺たちは売り飛ばすだけさ。何もしねえよ。
 大切な商品だからな。
 その後は、その体で男たちを楽しませてやんな」

 リーダーの男がそう言い終えると、男たちが下品な笑い声を上げ始めた。

「詰めな!」

 男たちが私の所にやって来て、私を後ろ手にねじ上げた。

「痛いじゃない!
 止めてよね!」

 恐怖より怒りが私を包んだ時、落雷のような大きな音と閃光が私たちを包んだ。
 雷が近くに落ちた?
 さっきまで、そんな気配は無かったのに?

 板でできた壁の隙間の向こうに揺らめくオレンジ色の光と、パチパチと言う何かが燃えるような音が聞こえてくる。近くで何かが燃えているっぽい。
 手下の一人の男が、慌てて扉を開けた。
 燃えているのはこの家の近くにあった松の木。
 このままでは、この建物にも火はすぐに燃え移るに違いない。

「大変です。
 松が燃えています」
「女どもを運び出せ!」

 リーダーの言葉に男たちが女の子たちが詰められた樽を外に運び出し始めた。女の子一人なら、男一人で持ち運べるだろうけど、樽と言う重さもプラスされ、しかも大きさ的にも二人がかりが必要。二人でえっちらおっちら運ぶ作業はそれなりの負荷らしく、全く私の事なんか、眼中になさげだし、外にはやじ馬たちが集まり始めている。
 今こそ逃げ出すチャンスとばかりに、外に飛び出して行く。
 でも、そう甘くはなかった。
 やじ馬たちだけと思っていた中に、男の仲間がいたらしく、私の腕をつかんだ。

「お前も商品だ」
「悪いけど、ありすは返してもらいますよ」

 男の言葉に、そう返したのは懐かしい声。村雨くんだ。しかも、セリフもかっこよくて、危機に現れるヒーロー風。
 頼りになりそうで、頼りにならない。でも、頼りになる時もある。少なくとも、私よりかは戦闘力は高いはずだし、期待せずにいられない。

「勝手にいなくならないでください」
「拉致られたんだよ。
 気づかない村雨くんが悪いんだよ。
 て言うか、そんな事で言い争っている場合じゃないでしょ。
 今って、いざって時だよね?」

 私の問いかけに、何も返さない。
 あれだけかっこいい登場したんだから、固まってしまっているって事は無いはず。

「なんだ、お前は」

 男の威嚇に、村雨くんが刀に手をかけた。
 その颯爽とした姿に一瞬の期待。でも、抜いてしまえば竹光じゃない! どうするの? 私を包み込む不安。

「わ、わ、わ、私にお任せを」

 どもらないでよぅぅ。不安になるじゃない。
 て言うか、最初から半信半疑なんだけどさ!

「邪魔するんじゃねぇ」

 恫喝しながら、男が村雨くんに近寄って来て、もう目の前と思った瞬間、村雨くんの剣技? がさく裂した。
 柄の部分を男の鳩尾にぶち込んだ。

「うっ」

 そんなうめき声をあげて、男が倒れ込む。

「てめぇ、何しやがる」
「やってしまえ!」

 仲間がやられた事で、怒りを爆発させた男たちが村雨くん目がけて、襲ってきた。
 村雨くんは、当然と言えば当然なんだけど、抜刀せず、鞘で攻撃を開始した。
 小柄と言うのも利点になるようで、男たちの攻撃をするりとかわしながら、鞘の当身で鳩尾やら喉やらを攻撃しまくり、瞬く間に男たちを退治した。

 天下無双のレベルかどうかは分からないけど、それなりに強い事は本当だったらしい。まあ、竜には勝てないと思うけど。

「さすがは村雨殿です」

 そう言ったおあきちゃんは、私に「ほれ、見たか!」と、なんだか得意げな視線を向けている。

「村雨殿は強いんです」

 おあきちゃんの念押しに、ふと思った。
 もしかして、本当に天下無双レベルなのかも。そして、それだけ強い村雨くんの力を恐れた誰かが、竹光以外持つことを許さないとか……。
 って、事は考え過ぎ?

 私たちは樽の中に閉じ込められていた女の子を助け出して、この町を離れた。
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