上 下
47 / 48
エピローグ 龍神様と私の想い

2、イルミネーション

しおりを挟む
 車窓に流れる景色を見ながら私はぼんやりとしていた。

(ちゃんと話す……か)

 随分と話し込んでしまったせいかあたりはすっかり暗くなってしまった。
 遠くに江ノ島の夜景が見える。
 相模湾にぽつんと浮かぶ小さな島。江ノ電で毎日学校と家を往復しての繰り返しで……。
 こうしていつも通り変わらない日常が続くと思っていたのに、この1ヶ月で随分様変わりしてしまった。

全てレンと出会ってから。
 変わってしまった。

 もうすぐ冬休みがやってくる。
 それが明けたら、クラスメイトは受験一色になってしまう。
 家を継ぐか、留学か。
 今のうちにきっちりと話をつけておかなくちゃいけない。

 終点のアナウンスを聞きながら、江ノ電を降りると海風が私の体を包む。
 コートの襟元を締めて、改札を抜けるとレンが顔をあげた。

「待ってなくっていいって言ったのに」
「いいのだ。俺が来たかったのだ」

 レンが私の隣にそっと並ぶ。
 狛犬の一件があってからレンはこうして私のことを迎えにくる。
 流石に学校へは全力で止めてるからこないけれど、どんなに遅くなったってレンは待ってくれていた。
 はっきりとは言わないけれど、それはレンなりの愛情表現なんだろうな。
 
(もし……、私が海外に行っちゃったらレンはどうするんだろう?)

 今の所、私の留学は絶望的ではあるけれどもし万が一何かしら費用の目処がついたら、私の目の前の障害は何もなくなる。
 留学は私の望みだったはずなのに、私の胸がちくりと痛む。

「みなみ?」

 レンが心配そうに私に話しかける。あまり勘ぐられたくもなくて無理やり笑ってみる。

「……」

 何か言いたげなレンの三歩先を私は歩く。
 そうすればきっと私の表情は悟られないから。

「のう、みなみ」
「ん? 何?」

 相変わらず弁天橋は容赦無く海風が吹き荒れる。私はモコモコのマフラーに顔を埋めた。

「ちょっと寄り道をせんか?」
「寄り道?」

 ふっと振り返るとレンが穏やかに笑っている。

「ああ、少し話がある」
「それなら、家でもいいじゃない?」
「いや……、もっといい場所があるからの」
「いい場所?」

 私が首をかしげると、レンは私の手をそっと取って歩き出す。

「え……、ちょ、ちょっと!」
「ふふふ。良いであろう? ちょっとくらい付き合え」
「……って! 今日のお客様はどうするつもり?」
「もう仕込みは済んでおる! あとは、お前の祖父に任せて来た! これで心置きなく話せるというものよ」
「はあ……」

 どうやら私の考え以上にレンは用意周到だったらしい。
 それにしてもレンの話って一体何なのだろう?
 黙って狛犬のところに行って死にかけたことは十分謝ったし、和解済みだと思う。

(まさか……また新しいあやかしの話なのかな?)

 立て続けに事件が起こったからまた何かが起きてもおかしくない。
 ひょっとしたらもうすでに何か掴んでいるのかも?
 何だか過保護だったのもそのせいなのかもしれない。

 レンに連れられて、弁天橋を通り、仲見世通りを抜けて、たどり着いた先は一面に広がる光の海だった。
 サムエル・コッキング苑。江ノ島に別荘を持っていた明治時代の英国の貿易商、サムエル・コッキングの別荘とともに建てられた庭園だ。和洋折衷な季節ごとの花々が咲き乱れるが、この季節は全体がイルミネーションと共にライトアップされ宝石箱を零したような色とりどりの光が溢れている。

「あそこに行くぞ」

 レンが指差した先、光の海の中心にそびえ立つ展望台『江ノ島シーキャンドル』だ。
 江ノ島を一望できる高さにあり、晴れた日には富士山を望むことも出来る。植物園と同じように全体をイルミネーションの白い光が輝きを放っている。

「あっ……」

 レンがぎゅっと手を握り直して、私をゆっくりと引っ張る。
 何だかレンの手が熱いような気がして、私まで緊張してしまう。
 二人とも無言で、エレベーターを上がり展望フロアに着く。
 平日だからか誰もいなくて、私たちの貸切だ。
 遠く鎌倉の夜景と江ノ島のイルミネーションが私の視界を彩る。
 単なるデートだったらきっと胸がときめくのだろう。
 しかし私の心臓は不穏な音を立てる。

(レンの話って……、一体なんなのかな?)

 そっと顔を伺うと視線が交差して、レンがふっと優しい笑みを浮かべる。
 手を繋いだまま私たちはしばらく夜景を見ていた。 
 まるで時間が止まったような、静かで、暗くい空間の中に私たち二人だけが佇んでいる。
 その静寂を破ったのはレンだった。


「これからのことを……話に来たのだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地球 in 異世界

スウ
ファンタジー
ある日を境に、地球はモンスターがはびこる世界に変わってしまった。 スキルを駆使し、主人公はどう生き延びるか。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

ホモとバイとストレート

佐竹灘
BL
ホモとバイとストレートの3人の三角恋物語です。 カテゴリをBLにしていますが、 NLも含みます。 3人の関係が、綺麗なままハッピーエンドを迎えられるといいですね ホモ=島岡豊 バイ=日野崎幸人 ストレート=宮田詩織 友達=懸田綾瀬

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
 ネットでみつけた『異世界に行ったかもしれないスレ』に書いてあった『異世界に転生する方法』をやってみたら本当に異世界に転生された。  チート能力で豊富な魔力を持っていた俺だったが、目立つのが嫌だったので周囲となんら変わらないよう生活していたが「目立ち過ぎだ!」とか「加減という言葉の意味をもっと勉強して!」と周囲からはなぜか自重を求められた。  なんだよ? それじゃあまるで、俺が自重をどっかに捨ててきたみたいじゃないか!  こうして俺の理不尽で前途多難?な異世界生活が始まりました。  ※注:すべてわかった上で自重してません。

真珠姫

しょこら
恋愛
高橋泉には雨の日に必ず見る夢があった。 アクアマリン のような美しい世界で、彼女はいつも誰かをみつめていた。 涙が真珠に変わる美しい女性の夢。 雨の日。 泉はクラスメイトの清水淳と、とあるきっかけから親しく話すようになる。

河原の小石のひとりごと

光野朝風
児童書・童話
~AI紹介文~ ほら、聞いてくれよ。この話を読んだら、自然と人間との共存って大事だって思わずにはいられなくなるよ。 主人公の小石は、川原で暮らしてるんだ。人間たちが自然を壊す様子を見ては、心が痛くなっちゃう。でもさ、小石たちが何もできないことを自覚しながらも、人間たちがごみを拾う姿を見て、救われる瞬間があるんだ。 そんで、小石が出会ったアザラシとの対話がすごいんだよ。自然と人間との共存について、本当に深いことを考えてるよ。自然を守り、共存することの大切さを思い知らされるよ。 読んでる人には、きっと自然に対する関心が高まると思う。自然と人間がうまく共存する方法を考えてみたいって思う人も多いんじゃないかな。ぜひ、読んでみてくれよ。きっと心に残る、素敵な物語だからさ。

処理中です...