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エピローグ 龍神様と私の想い
2、イルミネーション
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車窓に流れる景色を見ながら私はぼんやりとしていた。
(ちゃんと話す……か)
随分と話し込んでしまったせいかあたりはすっかり暗くなってしまった。
遠くに江ノ島の夜景が見える。
相模湾にぽつんと浮かぶ小さな島。江ノ電で毎日学校と家を往復しての繰り返しで……。
こうしていつも通り変わらない日常が続くと思っていたのに、この1ヶ月で随分様変わりしてしまった。
全てレンと出会ってから。
変わってしまった。
もうすぐ冬休みがやってくる。
それが明けたら、クラスメイトは受験一色になってしまう。
家を継ぐか、留学か。
今のうちにきっちりと話をつけておかなくちゃいけない。
終点のアナウンスを聞きながら、江ノ電を降りると海風が私の体を包む。
コートの襟元を締めて、改札を抜けるとレンが顔をあげた。
「待ってなくっていいって言ったのに」
「いいのだ。俺が来たかったのだ」
レンが私の隣にそっと並ぶ。
狛犬の一件があってからレンはこうして私のことを迎えにくる。
流石に学校へは全力で止めてるからこないけれど、どんなに遅くなったってレンは待ってくれていた。
はっきりとは言わないけれど、それはレンなりの愛情表現なんだろうな。
(もし……、私が海外に行っちゃったらレンはどうするんだろう?)
今の所、私の留学は絶望的ではあるけれどもし万が一何かしら費用の目処がついたら、私の目の前の障害は何もなくなる。
留学は私の望みだったはずなのに、私の胸がちくりと痛む。
「みなみ?」
レンが心配そうに私に話しかける。あまり勘ぐられたくもなくて無理やり笑ってみる。
「……」
何か言いたげなレンの三歩先を私は歩く。
そうすればきっと私の表情は悟られないから。
「のう、みなみ」
「ん? 何?」
相変わらず弁天橋は容赦無く海風が吹き荒れる。私はモコモコのマフラーに顔を埋めた。
「ちょっと寄り道をせんか?」
「寄り道?」
ふっと振り返るとレンが穏やかに笑っている。
「ああ、少し話がある」
「それなら、家でもいいじゃない?」
「いや……、もっといい場所があるからの」
「いい場所?」
私が首をかしげると、レンは私の手をそっと取って歩き出す。
「え……、ちょ、ちょっと!」
「ふふふ。良いであろう? ちょっとくらい付き合え」
「……って! 今日のお客様はどうするつもり?」
「もう仕込みは済んでおる! あとは、お前の祖父に任せて来た! これで心置きなく話せるというものよ」
「はあ……」
どうやら私の考え以上にレンは用意周到だったらしい。
それにしてもレンの話って一体何なのだろう?
黙って狛犬のところに行って死にかけたことは十分謝ったし、和解済みだと思う。
(まさか……また新しいあやかしの話なのかな?)
立て続けに事件が起こったからまた何かが起きてもおかしくない。
ひょっとしたらもうすでに何か掴んでいるのかも?
何だか過保護だったのもそのせいなのかもしれない。
レンに連れられて、弁天橋を通り、仲見世通りを抜けて、たどり着いた先は一面に広がる光の海だった。
サムエル・コッキング苑。江ノ島に別荘を持っていた明治時代の英国の貿易商、サムエル・コッキングの別荘とともに建てられた庭園だ。和洋折衷な季節ごとの花々が咲き乱れるが、この季節は全体がイルミネーションと共にライトアップされ宝石箱を零したような色とりどりの光が溢れている。
「あそこに行くぞ」
レンが指差した先、光の海の中心にそびえ立つ展望台『江ノ島シーキャンドル』だ。
江ノ島を一望できる高さにあり、晴れた日には富士山を望むことも出来る。植物園と同じように全体をイルミネーションの白い光が輝きを放っている。
「あっ……」
レンがぎゅっと手を握り直して、私をゆっくりと引っ張る。
何だかレンの手が熱いような気がして、私まで緊張してしまう。
二人とも無言で、エレベーターを上がり展望フロアに着く。
平日だからか誰もいなくて、私たちの貸切だ。
遠く鎌倉の夜景と江ノ島のイルミネーションが私の視界を彩る。
単なるデートだったらきっと胸がときめくのだろう。
しかし私の心臓は不穏な音を立てる。
(レンの話って……、一体なんなのかな?)
そっと顔を伺うと視線が交差して、レンがふっと優しい笑みを浮かべる。
手を繋いだまま私たちはしばらく夜景を見ていた。
まるで時間が止まったような、静かで、暗くい空間の中に私たち二人だけが佇んでいる。
その静寂を破ったのはレンだった。
「これからのことを……話に来たのだ」
(ちゃんと話す……か)
随分と話し込んでしまったせいかあたりはすっかり暗くなってしまった。
遠くに江ノ島の夜景が見える。
相模湾にぽつんと浮かぶ小さな島。江ノ電で毎日学校と家を往復しての繰り返しで……。
こうしていつも通り変わらない日常が続くと思っていたのに、この1ヶ月で随分様変わりしてしまった。
全てレンと出会ってから。
変わってしまった。
もうすぐ冬休みがやってくる。
それが明けたら、クラスメイトは受験一色になってしまう。
家を継ぐか、留学か。
今のうちにきっちりと話をつけておかなくちゃいけない。
終点のアナウンスを聞きながら、江ノ電を降りると海風が私の体を包む。
コートの襟元を締めて、改札を抜けるとレンが顔をあげた。
「待ってなくっていいって言ったのに」
「いいのだ。俺が来たかったのだ」
レンが私の隣にそっと並ぶ。
狛犬の一件があってからレンはこうして私のことを迎えにくる。
流石に学校へは全力で止めてるからこないけれど、どんなに遅くなったってレンは待ってくれていた。
はっきりとは言わないけれど、それはレンなりの愛情表現なんだろうな。
(もし……、私が海外に行っちゃったらレンはどうするんだろう?)
今の所、私の留学は絶望的ではあるけれどもし万が一何かしら費用の目処がついたら、私の目の前の障害は何もなくなる。
留学は私の望みだったはずなのに、私の胸がちくりと痛む。
「みなみ?」
レンが心配そうに私に話しかける。あまり勘ぐられたくもなくて無理やり笑ってみる。
「……」
何か言いたげなレンの三歩先を私は歩く。
そうすればきっと私の表情は悟られないから。
「のう、みなみ」
「ん? 何?」
相変わらず弁天橋は容赦無く海風が吹き荒れる。私はモコモコのマフラーに顔を埋めた。
「ちょっと寄り道をせんか?」
「寄り道?」
ふっと振り返るとレンが穏やかに笑っている。
「ああ、少し話がある」
「それなら、家でもいいじゃない?」
「いや……、もっといい場所があるからの」
「いい場所?」
私が首をかしげると、レンは私の手をそっと取って歩き出す。
「え……、ちょ、ちょっと!」
「ふふふ。良いであろう? ちょっとくらい付き合え」
「……って! 今日のお客様はどうするつもり?」
「もう仕込みは済んでおる! あとは、お前の祖父に任せて来た! これで心置きなく話せるというものよ」
「はあ……」
どうやら私の考え以上にレンは用意周到だったらしい。
それにしてもレンの話って一体何なのだろう?
黙って狛犬のところに行って死にかけたことは十分謝ったし、和解済みだと思う。
(まさか……また新しいあやかしの話なのかな?)
立て続けに事件が起こったからまた何かが起きてもおかしくない。
ひょっとしたらもうすでに何か掴んでいるのかも?
何だか過保護だったのもそのせいなのかもしれない。
レンに連れられて、弁天橋を通り、仲見世通りを抜けて、たどり着いた先は一面に広がる光の海だった。
サムエル・コッキング苑。江ノ島に別荘を持っていた明治時代の英国の貿易商、サムエル・コッキングの別荘とともに建てられた庭園だ。和洋折衷な季節ごとの花々が咲き乱れるが、この季節は全体がイルミネーションと共にライトアップされ宝石箱を零したような色とりどりの光が溢れている。
「あそこに行くぞ」
レンが指差した先、光の海の中心にそびえ立つ展望台『江ノ島シーキャンドル』だ。
江ノ島を一望できる高さにあり、晴れた日には富士山を望むことも出来る。植物園と同じように全体をイルミネーションの白い光が輝きを放っている。
「あっ……」
レンがぎゅっと手を握り直して、私をゆっくりと引っ張る。
何だかレンの手が熱いような気がして、私まで緊張してしまう。
二人とも無言で、エレベーターを上がり展望フロアに着く。
平日だからか誰もいなくて、私たちの貸切だ。
遠く鎌倉の夜景と江ノ島のイルミネーションが私の視界を彩る。
単なるデートだったらきっと胸がときめくのだろう。
しかし私の心臓は不穏な音を立てる。
(レンの話って……、一体なんなのかな?)
そっと顔を伺うと視線が交差して、レンがふっと優しい笑みを浮かべる。
手を繋いだまま私たちはしばらく夜景を見ていた。
まるで時間が止まったような、静かで、暗くい空間の中に私たち二人だけが佇んでいる。
その静寂を破ったのはレンだった。
「これからのことを……話に来たのだ」
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