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龍神様とあやかし事件
18、喧嘩
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夕焼けに染まる相模湾を見つめながら私は江ノ電に揺られていた。
一旦納得はさせては見たものの、結局ブランのことが頭から離れなくてなんだか落ち着かなかった。
どうしてあやかしが由美のところにいるんだろう?
昔会ったあやかしは私と遊びこそすれ、誰かになつき一緒に暮らすような子達は居なかったように感じる。
単にご飯をもらうためなのだろうか?
ひょっとして家族が欲しかったから?
それとも単に私の勘違い?
「うーん……」
どれも違うような気がする。
明確な答えが見つからないまま、考え込んでいるうちに江ノ島駅へとついた。
今日は少しだけ早く帰れたから部屋でゆっくりしよう。そしてきっちりとテスト対策をしなければ……!
そう思って歩き出すと、腕がぐっと掴まれた。
「ひゃっ!」
「随分……遅かったのう?」
「あ……」
声が随分と怖い。
おそるおそる顔を上げると寒さで顔が赤くなったレンが私を冷ややかな瞳で見つめてくる。
「江ノ島駅で待ってろと言ったのはお前だぞ?」
「ご、ごめん」
震える声で謝るもレンの表情は硬い。
「まったく……! この五頭竜を何時間もこの寒空の下に待たせるとは……。いい度胸よな? かくなる上は埋め合わせとして……」
青筋を浮かべていたレンの顔が急にすっと真顔になる。
「え……? なに?」
「お前。一体誰に会ったのだ?」
妙に真剣な声色に私に不安な気持ちがよぎる。
「……え? 学校行って……その後親友の家に行ったんだけど?」
「何? 俺を待たせて置きながら遊んでおったのだと? ……いや、まあいい。俺が言いたいのはそこではない。お前の体からあやかしの気配がする。それもなかなかに力量のある曲者のようだな」
(……やっぱり!)
私の懸念は的中したわけだ。やっぱりブランはあやかしだったのだ。
ブランに感じた違和感。それを相談したほうが良さそうだ。
「うん……詳しく話すね。とりあえず、歩こうか……」
商店街を抜けて、弁天橋を歩きながら私は事の次第を説明した。
「ふむ……、白い芝犬。とな?」
「うん。何か心当たりはある?」
「そうさな……。特に名前があるようなあやかしには心当たりがない。名無しであろうかの? しかし、人の目に晒せられるというのであればなかなかの力量だな」
「そうなの?」
「うむ……、しかしみなみよ。一体どこでそんなやつと出会ったのだ?」
私は由美の家で起きたことを簡単に説明した。
「だから由美はまだあやかしだって気づいてないみたいなんだ……」
「ふむ……」
「ただ……、どうしてあやかしが由美の家に居候してるのかさっぱり分からなくて。今まで人間の世界に溶けこんでいるあやかしはいっぱい居たけれど、一緒に住むなんてさ……」
「……」
「どうしたの?」
「あ……いや」
「もう! なに? もったいぶってないで教えてよ!」
「いやのう……、若草の親戚が目覚めてな。襲われた時のことを話してくれたのだ。どうやら相手は白い外見をして居たらしい」
白い毛並みをしたブランが私の頭の中にさあっとよぎった。
「ねえ。レン。ひょっとして若草さんの親戚を襲ったのって……」
しかしレンは首を横に振った。
「いや……現になんとも言えんな。それに考えてもみよ。比売神が気づかないほどに、そ奴の力が大きいとは思えぬ。それだったらどう考えても神クラスだからな。普通の人間の元にとどまるなど……。いや?」
「ん? どうかした?」
急に立ち止まったレンの表情は険しくて、私の心がなんだかざわざわとする。
「……みなみ。しばらくはその親友とやらの家に行ってはいかぬ」
「え……? ど、どうして?」
私は疑問に首を傾ける。
「理由は言えぬ……。まだ確証がないからな。だが……」
「ちょ! ちょっと待って。それって、例の襲っているあやかしがブランだって言いたいの?」
「だから今はなんとも言えぬわ」
「そんな……私には説明してくれたっていいでしょ」
「ならぬ!」
「なんでよ!」
食ってかかる私にレンが大げさにため息をついた。
「お前なら、危険を顧みずに首を突っ込んでしまうからだよ」
「……っ!」
「……図星のようだな」
呆れたようなレンの声に顔がかあっと赤くなる。
「いいじゃない! だって親友が危険な目に晒されるのかもしれないんだよ?」
「しかし、俺はお前の身の安全の方が大切だ」
「も……もう! わかったよ!」
私はレンを置いてずんずんと歩く。
その日はそのまま私はレンと一言も口をきかなかった。
一旦納得はさせては見たものの、結局ブランのことが頭から離れなくてなんだか落ち着かなかった。
どうしてあやかしが由美のところにいるんだろう?
昔会ったあやかしは私と遊びこそすれ、誰かになつき一緒に暮らすような子達は居なかったように感じる。
単にご飯をもらうためなのだろうか?
ひょっとして家族が欲しかったから?
それとも単に私の勘違い?
「うーん……」
どれも違うような気がする。
明確な答えが見つからないまま、考え込んでいるうちに江ノ島駅へとついた。
今日は少しだけ早く帰れたから部屋でゆっくりしよう。そしてきっちりとテスト対策をしなければ……!
そう思って歩き出すと、腕がぐっと掴まれた。
「ひゃっ!」
「随分……遅かったのう?」
「あ……」
声が随分と怖い。
おそるおそる顔を上げると寒さで顔が赤くなったレンが私を冷ややかな瞳で見つめてくる。
「江ノ島駅で待ってろと言ったのはお前だぞ?」
「ご、ごめん」
震える声で謝るもレンの表情は硬い。
「まったく……! この五頭竜を何時間もこの寒空の下に待たせるとは……。いい度胸よな? かくなる上は埋め合わせとして……」
青筋を浮かべていたレンの顔が急にすっと真顔になる。
「え……? なに?」
「お前。一体誰に会ったのだ?」
妙に真剣な声色に私に不安な気持ちがよぎる。
「……え? 学校行って……その後親友の家に行ったんだけど?」
「何? 俺を待たせて置きながら遊んでおったのだと? ……いや、まあいい。俺が言いたいのはそこではない。お前の体からあやかしの気配がする。それもなかなかに力量のある曲者のようだな」
(……やっぱり!)
私の懸念は的中したわけだ。やっぱりブランはあやかしだったのだ。
ブランに感じた違和感。それを相談したほうが良さそうだ。
「うん……詳しく話すね。とりあえず、歩こうか……」
商店街を抜けて、弁天橋を歩きながら私は事の次第を説明した。
「ふむ……、白い芝犬。とな?」
「うん。何か心当たりはある?」
「そうさな……。特に名前があるようなあやかしには心当たりがない。名無しであろうかの? しかし、人の目に晒せられるというのであればなかなかの力量だな」
「そうなの?」
「うむ……、しかしみなみよ。一体どこでそんなやつと出会ったのだ?」
私は由美の家で起きたことを簡単に説明した。
「だから由美はまだあやかしだって気づいてないみたいなんだ……」
「ふむ……」
「ただ……、どうしてあやかしが由美の家に居候してるのかさっぱり分からなくて。今まで人間の世界に溶けこんでいるあやかしはいっぱい居たけれど、一緒に住むなんてさ……」
「……」
「どうしたの?」
「あ……いや」
「もう! なに? もったいぶってないで教えてよ!」
「いやのう……、若草の親戚が目覚めてな。襲われた時のことを話してくれたのだ。どうやら相手は白い外見をして居たらしい」
白い毛並みをしたブランが私の頭の中にさあっとよぎった。
「ねえ。レン。ひょっとして若草さんの親戚を襲ったのって……」
しかしレンは首を横に振った。
「いや……現になんとも言えんな。それに考えてもみよ。比売神が気づかないほどに、そ奴の力が大きいとは思えぬ。それだったらどう考えても神クラスだからな。普通の人間の元にとどまるなど……。いや?」
「ん? どうかした?」
急に立ち止まったレンの表情は険しくて、私の心がなんだかざわざわとする。
「……みなみ。しばらくはその親友とやらの家に行ってはいかぬ」
「え……? ど、どうして?」
私は疑問に首を傾ける。
「理由は言えぬ……。まだ確証がないからな。だが……」
「ちょ! ちょっと待って。それって、例の襲っているあやかしがブランだって言いたいの?」
「だから今はなんとも言えぬわ」
「そんな……私には説明してくれたっていいでしょ」
「ならぬ!」
「なんでよ!」
食ってかかる私にレンが大げさにため息をついた。
「お前なら、危険を顧みずに首を突っ込んでしまうからだよ」
「……っ!」
「……図星のようだな」
呆れたようなレンの声に顔がかあっと赤くなる。
「いいじゃない! だって親友が危険な目に晒されるのかもしれないんだよ?」
「しかし、俺はお前の身の安全の方が大切だ」
「も……もう! わかったよ!」
私はレンを置いてずんずんと歩く。
その日はそのまま私はレンと一言も口をきかなかった。
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