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龍神様とあやかし事件

10、疑問

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「お前……本当に人間なのだな?」
「は……はい?」

 一体何をされてしまうのだろう?
 しかし、懸念は杞憂だった。
ビクつく私の肩を、鈴白は満面の笑みでぽんぽんと叩いた。

「え……ええ?」

 なんだろう……、レンの時とは違ってだいぶフレンドリーだ。
 先程まで鋭い視線でレンのことを睨みつけていたのに、大きく見開いた瞳はらんらんと輝いていてまるで久方ぶりの親友に会ったかのような声をあげた。

「ほうほう! そうかそうか! 私が視える人間は久方ぶりじゃのう! のう、そなた。名はなんと申すのだ?」
「え……えっと」

 戸惑う私の前に、レンが遮るように入って来る。

「やめよ!」
「なんだ五頭竜。いいところを邪魔するでない。それに貴様ごときが私に指図できるわけなかろう。我は鶴岡八幡の祭神ぞ? あやかし崩れのお前とは違うわ。そこをどけ」

 鋭い視線を鈴白は向けるがレンはどこ吹く風といった表情だ。

「退かぬわ。こやつは俺の嫁だぞ。お前に手出しは許さぬ」
「なっ……!」

 明らかに鈴白の顔が落胆に染まる。

「ば……ばかな……。なんだ……と?」

 対照的にレンは得意そうな顔をしている。
 そんなにドヤることなんだろうか……。
レンはこうやって度々私が自分の嫁であることを自慢する。それは単純に私の素晴らしさを伝えるもので悪い気はしなかった。
……恥ずかしいからちょっとやめて欲しいんだけどなあ。
一方の鈴白はふらりと体を揺らし、額に手を当ててわなわなと震えている。

「なんという……、五頭竜ごときに稀人の嫁が見つかるだと……?」
「ふふん。羨ましいであろう? こう見えてもなかなか胆の座った娘よ。それでいて可愛げもあってのう……。いやあ……、俺は幸運だのう。やはりこれも日頃の行いがいいせいかのう」
「ぐぬぬ」

 鈴白が歯をぎりりと食い縛った。
 八幡宮の祭神相手によくまあこんな子供じみたマウント取りができるものだと私はため息をついた。
 というか……、まさか八幡の神様に私を自慢するためだけにここに来たっていうの?
 わざわざ?
 学校まで来て……?

「え……、ちょっとレン」
「ん?」
「ねえ……、単純に鈴白さんに私を紹介するためだけに連れて来たの?」

 思わずジト目でレンを見つめれば、ごまかすかのようにコホンと咳を一つした。

「ふふ。戯れはこのくらいにするかの?」
「くそ……五頭竜。貴様……」

 鈴白さんの後ろに燃え上がるような怒りの炎が見える。
 レンの煽りスキルで完全に鈴白さんの機嫌は急降下してしまったようだ。
 眉間にシワが入ってこちらを睨みつけている。
 殺気立つ鈴白の視線に耐えきれず、思わずレンの後ろにそっと隠れた。

「お主に会いにきたのは嫁を自慢するだけではない」
「ふん……なんだ? 言っておくが貴様の頼みごとなど私は聞かぬぞ?」

 鈴白は腕組みをしてそっぽを向いた。

(もう……話をするなら煽らなければいいのに……)

 鶴岡八幡の神様ともくれば気位も高いに違いない。
 そうでなくともレンと仲が悪そうだし、ひょっとしたら話など聞いてくれはしないのだろうな。
 しかし、予想に反して比売神は素直な神様だった。

「最近この辺りで何か騒動が起きなかったか?」
「騒動……? だと。ふん。あるわけなかろう。私含め三柱がこの辺りを見張っておるのだぞ? ここ一帯は我々の神地。何か起これば真っ先に我々が解決するわ」
「本当何もなかったと申すか?」
「くどいぞ五頭竜。それに何故お前に事細かに小言を言われねばならんのだ。貴様に我が神地の何が分かるというのだ? 私が守っておるのだぞ? ずっと平穏であるに決まっておろう?」
「えっ……」

 私は思わず疑問の声を漏らした。

「ふむ……」

 レンも顔をしかめる。
 私は鈴白の顔を見つめてはいたが、決して嘘をついてるようには見えなかった。

(どういうことなんだろう……?)

 おそらく、レンも私と同じことを感じているに違いない。
 昨日接客をした化け狸若草さんの話だ。
 親戚が鶴岡八幡宮付近で怪我をしたという話。
 しかも何者かに襲われたという。
 あからさまに物騒な話だが、この祭神は気づかなかったと言う。
 先ほどとは打って変わって神妙な顔をした私にたち鈴白は首をかしげる。

「なんだ……? 何かあったのか?」

 さすがに黙ったレンに何か違和感を感じたのだろう。鈴白がずいっと私に距離を詰めてくる。

「のう、みなみ。私に教えてはくれまいか?」

 にっこりと笑ってはいるものの有無を言わせないような笑顔に背筋がゾクりと震える。

「え……えっと。その……」
(ど……どうしよう。ちゃんと言った方がいいよね)
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