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龍神様とあやかし事件
9、比売神
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「貴様ぁ!! ここで何をしている!」
「え……っ!」
はっとして声のした方を見上げた。
「あ……あれは?」
舞殿の上に人影がいるが、逆光になっていて顔が見えない。
(いや……人、というよりも?)
ぐっと目を凝らして、その姿を伺ってみる。
次第に慣れてくると人影の正体が分かってきた。
どうやら仁王立ちで巫女服の少女が立っているようだ。
だいたい年齢は十四、五くらいだろうか? 腰まで伸びる長い黒髪をひとくくりにしている。
きつい眼差しから察するに私たちに起こっているのだろうか?
いやこれ、一体どういうシチュエーションなの?
(さっきはあんな子いなかったはずなのに……)
驚きについ見つめてしまうが、本人は私のことなど蚊帳の外のようだ。
射殺しそうなくらいに鋭い眼差しは一心にレンに注がれているように見えた。
人かと思ったが、普通であればあんな高い場所に登らないだろう。
やっぱり神様なのだろうな。
「だ……だれ?」
「ああ、そうさな。こやつはの……」
「黙れ! 五頭竜よ! あやかしの貴様が何をしに来たのだ!」
ぴいんと張り詰めたような声があたりの空気を震わせる。
降りかかる圧が強すぎて思わず、体がびくりと跳ねた。
ただ踏み入れただけでこんなにも怒らせるなんて……。
か弱そうな少女のなりをしていても語気は荒い。
恐る恐る見上げると、顔が赤く、額には青筋が浮かんでいて、レンに対する敵対心がまじまじと見えた。
しかし、当の本人はまったく気にするどころかへらりと笑って見せた。
「まあ、そうカッカするでない。それに言うとくが、もうあやかしではない。俺は曲がりなりにも神だぞ? ……まあ良い良い。俺は寛容だからな。多少の無礼は許してやろうて。今日はな、お主に話をしにきたのだ」
「私は話すことなどないわ!」
プイッと少女はそっぽを向く。
さっきからレンを相手にしたくない素ぶりを見せてるのにきちんと返事をしてることから察するに、案外生真面目な神様なのかもしれない。
しかし、なんでこんなに嫌われているんだろう。
……と言うよりも、こんな状態で話とかできるの?
絶対にレンが彼女の怒りを過去に買っていたに違いない。
「もう……レン! 彼女に何をしたの?」
「何もしておらぬよ。こやつは昔からこうでな。短気なのだ」
「なっ! 何も、私は短気ではないわ! それに私はこやつではない! 鈴白という名前がある! というか! そこの娘!」
「はっ、はいっ!!」
慌てて背筋を伸ばすと、今度は私に視線が寄せられた。
澄んだ青みの含んだ黒の瞳がじいっと見つめてくる。
距離があるというのに、まるで近くにいるような錯覚を覚えるのはやはり相手が神様だからなのだろうか?
私にはまだ敵意を向けてはいないかもしれないけど、ここで下手な反応をしてしまったら私も怒りを買ってしまうかもしれない。
隣にレンがいるから下手な手は打たないかとは思うけど、慎重にしないと。
背筋が自然とピンと伸びる。
鈴白はじっと私を見つめて数秒、ポツリと呟いた。
「お前……、私のことが見えるのか?」
「え……ええ」
どきどきしながらそう答えると、少女の瞳が大きく見開かれる。
(み……見えてるとなんかやばいのかな? というか下手に答えたら無礼に思われるとかそういうやつだった? え……ええっ! どうしよう。全然意図が見えない……!)
私は軽くパニックになる。縋るように隣のレンに視線をよこすも、まったく意に介していないらしい。
「なんと……! この比売神の姿をお前は分かると申すのか!」
「ひめ……がみ? ……ええっ!」
比売神というのは、神社の祭神のことである。
鶴岡八幡宮は三柱の祭神がおり、別名八幡神と呼ばれている。
比売神はその中の一柱なのだ。
(と……いうことは、めちゃくちゃ偉い神様なんじゃ……!)
驚く私の前に、比売神もとい鈴白が舞殿のてっぺんからふわりと飛び上がる。
「え……っ! ちょ、ちょっと!」
危ないと叫ぼうとしたが、鈴白は優雅に一回転すると音もなくふわりと地面に着地した。
あの高さから造作もなく? とあっけにとられていると、ずんずんと勢いよく私に近づいて来るではないか。
「え……! あ、あのっ!」
怒っているのだろうか? 鋭い眼差しは私に一心に向けられている。
(なになに? 私、なんかした? いやむしろなんかしたのはレンの方じゃない? 怒ってたのはレンに対してでしょう? 一緒にいるから? 私、またトラブルに巻き込まれちゃうの!?)
ぐっと顔が近づけらられて、まじまじと見つめられる。
まるで陶器のような肌は人並み外れた美しさで改めて神様なのだと感じる。
しかし、こうも見つめられてしまってはまるで蛇に睨まれた蛙が如く落ち着かない。
「お前……本当に人間なのだな?」
「は……はい?」
私は……、一体何をされてしまうのだろう?
ど……どうしよう!
「え……っ!」
はっとして声のした方を見上げた。
「あ……あれは?」
舞殿の上に人影がいるが、逆光になっていて顔が見えない。
(いや……人、というよりも?)
ぐっと目を凝らして、その姿を伺ってみる。
次第に慣れてくると人影の正体が分かってきた。
どうやら仁王立ちで巫女服の少女が立っているようだ。
だいたい年齢は十四、五くらいだろうか? 腰まで伸びる長い黒髪をひとくくりにしている。
きつい眼差しから察するに私たちに起こっているのだろうか?
いやこれ、一体どういうシチュエーションなの?
(さっきはあんな子いなかったはずなのに……)
驚きについ見つめてしまうが、本人は私のことなど蚊帳の外のようだ。
射殺しそうなくらいに鋭い眼差しは一心にレンに注がれているように見えた。
人かと思ったが、普通であればあんな高い場所に登らないだろう。
やっぱり神様なのだろうな。
「だ……だれ?」
「ああ、そうさな。こやつはの……」
「黙れ! 五頭竜よ! あやかしの貴様が何をしに来たのだ!」
ぴいんと張り詰めたような声があたりの空気を震わせる。
降りかかる圧が強すぎて思わず、体がびくりと跳ねた。
ただ踏み入れただけでこんなにも怒らせるなんて……。
か弱そうな少女のなりをしていても語気は荒い。
恐る恐る見上げると、顔が赤く、額には青筋が浮かんでいて、レンに対する敵対心がまじまじと見えた。
しかし、当の本人はまったく気にするどころかへらりと笑って見せた。
「まあ、そうカッカするでない。それに言うとくが、もうあやかしではない。俺は曲がりなりにも神だぞ? ……まあ良い良い。俺は寛容だからな。多少の無礼は許してやろうて。今日はな、お主に話をしにきたのだ」
「私は話すことなどないわ!」
プイッと少女はそっぽを向く。
さっきからレンを相手にしたくない素ぶりを見せてるのにきちんと返事をしてることから察するに、案外生真面目な神様なのかもしれない。
しかし、なんでこんなに嫌われているんだろう。
……と言うよりも、こんな状態で話とかできるの?
絶対にレンが彼女の怒りを過去に買っていたに違いない。
「もう……レン! 彼女に何をしたの?」
「何もしておらぬよ。こやつは昔からこうでな。短気なのだ」
「なっ! 何も、私は短気ではないわ! それに私はこやつではない! 鈴白という名前がある! というか! そこの娘!」
「はっ、はいっ!!」
慌てて背筋を伸ばすと、今度は私に視線が寄せられた。
澄んだ青みの含んだ黒の瞳がじいっと見つめてくる。
距離があるというのに、まるで近くにいるような錯覚を覚えるのはやはり相手が神様だからなのだろうか?
私にはまだ敵意を向けてはいないかもしれないけど、ここで下手な反応をしてしまったら私も怒りを買ってしまうかもしれない。
隣にレンがいるから下手な手は打たないかとは思うけど、慎重にしないと。
背筋が自然とピンと伸びる。
鈴白はじっと私を見つめて数秒、ポツリと呟いた。
「お前……、私のことが見えるのか?」
「え……ええ」
どきどきしながらそう答えると、少女の瞳が大きく見開かれる。
(み……見えてるとなんかやばいのかな? というか下手に答えたら無礼に思われるとかそういうやつだった? え……ええっ! どうしよう。全然意図が見えない……!)
私は軽くパニックになる。縋るように隣のレンに視線をよこすも、まったく意に介していないらしい。
「なんと……! この比売神の姿をお前は分かると申すのか!」
「ひめ……がみ? ……ええっ!」
比売神というのは、神社の祭神のことである。
鶴岡八幡宮は三柱の祭神がおり、別名八幡神と呼ばれている。
比売神はその中の一柱なのだ。
(と……いうことは、めちゃくちゃ偉い神様なんじゃ……!)
驚く私の前に、比売神もとい鈴白が舞殿のてっぺんからふわりと飛び上がる。
「え……っ! ちょ、ちょっと!」
危ないと叫ぼうとしたが、鈴白は優雅に一回転すると音もなくふわりと地面に着地した。
あの高さから造作もなく? とあっけにとられていると、ずんずんと勢いよく私に近づいて来るではないか。
「え……! あ、あのっ!」
怒っているのだろうか? 鋭い眼差しは私に一心に向けられている。
(なになに? 私、なんかした? いやむしろなんかしたのはレンの方じゃない? 怒ってたのはレンに対してでしょう? 一緒にいるから? 私、またトラブルに巻き込まれちゃうの!?)
ぐっと顔が近づけらられて、まじまじと見つめられる。
まるで陶器のような肌は人並み外れた美しさで改めて神様なのだと感じる。
しかし、こうも見つめられてしまってはまるで蛇に睨まれた蛙が如く落ち着かない。
「お前……本当に人間なのだな?」
「は……はい?」
私は……、一体何をされてしまうのだろう?
ど……どうしよう!
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