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龍神様に口説かれてしまいました!

10、龍脈

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あっけにとられる私にレンは鼻をふふんと鳴らした。

「例えるならば龍脈とは気が流れる道のようなもの。
気は……そうさな、命を育む力とでも言おうか。ここのように、龍脈が吹き出てくる場所は龍穴というのだ」

「吹き出る……?」

視線を露天風呂へと向ければ、とくとくと次々に湯が溢れている。源泉掛け流しと言うやつだ。

「きっとこれから忙しくなるぞ。きりきり働くといい」
「え? なんで?? 露天が使えるようになったくらいで急に人は来ないでしょう?」

首をかしげると、レンはくっくっと低く笑った。

「ああ。最近閑古鳥が泣いておったのだろう? 龍脈が途絶えては人も寄り付かなくなるものよ。まあ……、昔のようにとは言わなんだがそれなりに客足も戻るだろうさ」

レンはカラカラと得意そうに笑った。

「え……!」 

お客さんがいっぱい来て、宿が繁盛したらお母さんでも切り盛りできるようになるかも! 
そうすれば私は家から出て留学することを認められるかもしれない。
急に視界が開けたような気がして胸が踊る。

「あ……ありがとう!」

はっとしてお礼を言おうとするも、目の前には誰もおらず。

(あ……あれ?)

きょろきょろと辺りを見回してみても、レンの姿はどこにもいない。

「ちょ……! ちょっと待ってよ」

私は急いで引き返すと、ちょうどレンが部屋の中へと戻ろうとしていたところだった。

「そのまま部屋に上がるのは禁止! ちゃんと足の裏まで拭いてから上がってよ!」
「細かいのう」

嫌がるレンにタオルを押し付けると、しぶしぶ手にとって足の裏を綺麗にした。
この部屋は私の部屋なのだ。大切に扱ってくれなきゃ嫌だ。

「ほう……、これが夕餉か。なかなかだな」

近海で取れた鮑のつぼ焼きに刺身の盛り合わせ。
それに小さくはあるが釜揚げしらすの丼とお味噌汁。

本当はもっと豪勢なものをと、張り切る母を必死に止めたのは私だ。
これでも本来の夕食コースから全然品数を減らしている。
早く誤解を解かなければ毎晩のようにご馳走を作ってくるに違いなかった。

「今日は誰もお客さんがいないからそもそもそんなに仕入れてないんだよ。
せっかくだからさっき急いで懇意のところから買って来たみたい」
「ふむ。それなら明日からは大変だと伝えておけ。これから忙しくなるだろうよ。
今日は俺だからいいが、人間はわがままだからな。飯がないのであれば騒ぎ立てるだろうよ」

それを自分で言うのか? と言うツッコミはさておき私もご飯に箸をつける。
神様が言うのであればそれなりに説得力があるのかもしれないけど、よくよく考えて見ると露天ができたくらいで客足が戻るのだろうか。

「……本当かなあ?」

急に繁盛するとも思えなくて首をかしげる。

正直今日は色々と慌ただしすぎて頭がまだついていけない。

考えてもみたら、いきなりあやかしに襲われて神様と許嫁になって、温泉が湧いて……
とものの数時間で色々起きすぎている気がする。

頼むからこのまま少し落ち着くことができればなあと思い、お椀を取った。


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