9 / 48
龍神様に口説かれてしまいました!
8、私の部屋
しおりを挟む
ポットから急須にお湯を注ぐ。
きっちり七十度のお湯で蒸らし時間もバッチリだ。
これはおばあちゃんの教え。
この部屋で実際に教えたもらったからよく覚えている。
「少し狭いがいい部屋ではないか」
「狭いは余計でしょ?」
黙って茶でも啜ってろと言わんばかりに、無言で茶碗をレンに寄越した。
六畳一間にベッドと、そして勉強机と本棚。
こうして、折りたたみのテーブルを広げてしまえば少し窮屈には感じてしまう。
(でも気にいってるしね)
何よりも飾り障子の向こうに見える庭が好きなのだ。
祖母が生きていた頃は水仙やチューリップが植えられていた。
季節の花々に詳しくて、事あるごとに教えてもらったっけ。
とはいえ手入れに関しては私はそんなに明るくはない。
今はあんまり手入れができていなくて見栄えが悪すぎないように整えるだけだけなのが少し忍びない。
しかしなんとなくこの庭を見ていると、祖母との思い出が思い起こされてなんだか心がほっこりするのだ。
「ん? あれはなんだ?」
レンがふと呟いた。
その視線の先は、竹でできた覆いだった。庭の橋を取り囲むかのように建てられている。
「ああ……、あれはね。露天だったみたい」
小さいながらも大浴場のあるたつみ屋だったが、昔は海を一望できる露天が売りだったらしい。
使えなくなってから仕方なしにああやって囲いを強いて、内湯からも私の部屋から(もちろんだけど)も見えないようにしてしまった。
それは私が随分幼い頃だったからに思えたけど、そういえばその頃からたつみ屋の客足が遠のいたように思えた。
潰してしまう案もあったらしいが、祖母がきっとまた温泉が湧くからと言って譲らなかったため今もそのままにしてあるのだ。
「ふむ? 風呂か」
「そう……、でもだいぶ前に枯れちゃったみたいで……、ううん。そんなことよりも!」
考え込むそぶりのレンにぐっと詰め寄る。
「ん?」
「やっぱり結婚のこと、考え直して」
「嫌だ」
きっぱりと断ったレンに思わず詰め寄る。私は諦めるわけにはいかないのだ。
「なんでよ? 神様なんだから普通に遊べるでしょ? 私と結婚する必要なんて……」
「ある。言っただろう? 八百万の神々の掟があるのだ。ようやっと、解放されたのにみすみすお前を手放すわけにはいかない」
「は……?」
声も出ない私に、レンは向き直る。
「考えても見よ。人智を超えた神々がみだりに人の世界に干渉してみろ。人の世の均衡が崩れてしまうわ」
「……確かに」
先ほどのあやかしとの戦闘でもそうだったけど、あんな風に暴れられたらひとたまりもない。
でもこんな荒くれ者と言わんばかりの龍神が素直にその掟とやらに従っているのがとにかく意外だった。
「だからの、神々はお互いに誓っておるのだ。
人の目の前には現れない、手を出さない。
神在月以外は自分が祀られている場所から動いてはならない……」
「え……? でも」
私には確かにレンの姿が見えたのだ。
嘘をついているようには見えない。しかし、人の前に現れないというのになぜ?
私の疑問を感じ取ったのだろう。レンは頬杖をつきながらニヤリと笑った。
「普通の人間には見えない。ただたまに、いるのだ。お前のような人ならざるものが見えてしまう人間がな」
「あ……」
不可抗力とはいえ、なんだか大層面倒なことに巻き込まれてしまったようだ。
「はあ……、じゃあもしかして。諦めては……」
「たわけ。神との契りをそんな簡単に出来るわけなかろう」
きっちり七十度のお湯で蒸らし時間もバッチリだ。
これはおばあちゃんの教え。
この部屋で実際に教えたもらったからよく覚えている。
「少し狭いがいい部屋ではないか」
「狭いは余計でしょ?」
黙って茶でも啜ってろと言わんばかりに、無言で茶碗をレンに寄越した。
六畳一間にベッドと、そして勉強机と本棚。
こうして、折りたたみのテーブルを広げてしまえば少し窮屈には感じてしまう。
(でも気にいってるしね)
何よりも飾り障子の向こうに見える庭が好きなのだ。
祖母が生きていた頃は水仙やチューリップが植えられていた。
季節の花々に詳しくて、事あるごとに教えてもらったっけ。
とはいえ手入れに関しては私はそんなに明るくはない。
今はあんまり手入れができていなくて見栄えが悪すぎないように整えるだけだけなのが少し忍びない。
しかしなんとなくこの庭を見ていると、祖母との思い出が思い起こされてなんだか心がほっこりするのだ。
「ん? あれはなんだ?」
レンがふと呟いた。
その視線の先は、竹でできた覆いだった。庭の橋を取り囲むかのように建てられている。
「ああ……、あれはね。露天だったみたい」
小さいながらも大浴場のあるたつみ屋だったが、昔は海を一望できる露天が売りだったらしい。
使えなくなってから仕方なしにああやって囲いを強いて、内湯からも私の部屋から(もちろんだけど)も見えないようにしてしまった。
それは私が随分幼い頃だったからに思えたけど、そういえばその頃からたつみ屋の客足が遠のいたように思えた。
潰してしまう案もあったらしいが、祖母がきっとまた温泉が湧くからと言って譲らなかったため今もそのままにしてあるのだ。
「ふむ? 風呂か」
「そう……、でもだいぶ前に枯れちゃったみたいで……、ううん。そんなことよりも!」
考え込むそぶりのレンにぐっと詰め寄る。
「ん?」
「やっぱり結婚のこと、考え直して」
「嫌だ」
きっぱりと断ったレンに思わず詰め寄る。私は諦めるわけにはいかないのだ。
「なんでよ? 神様なんだから普通に遊べるでしょ? 私と結婚する必要なんて……」
「ある。言っただろう? 八百万の神々の掟があるのだ。ようやっと、解放されたのにみすみすお前を手放すわけにはいかない」
「は……?」
声も出ない私に、レンは向き直る。
「考えても見よ。人智を超えた神々がみだりに人の世界に干渉してみろ。人の世の均衡が崩れてしまうわ」
「……確かに」
先ほどのあやかしとの戦闘でもそうだったけど、あんな風に暴れられたらひとたまりもない。
でもこんな荒くれ者と言わんばかりの龍神が素直にその掟とやらに従っているのがとにかく意外だった。
「だからの、神々はお互いに誓っておるのだ。
人の目の前には現れない、手を出さない。
神在月以外は自分が祀られている場所から動いてはならない……」
「え……? でも」
私には確かにレンの姿が見えたのだ。
嘘をついているようには見えない。しかし、人の前に現れないというのになぜ?
私の疑問を感じ取ったのだろう。レンは頬杖をつきながらニヤリと笑った。
「普通の人間には見えない。ただたまに、いるのだ。お前のような人ならざるものが見えてしまう人間がな」
「あ……」
不可抗力とはいえ、なんだか大層面倒なことに巻き込まれてしまったようだ。
「はあ……、じゃあもしかして。諦めては……」
「たわけ。神との契りをそんな簡単に出来るわけなかろう」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
あやかしの長と人柱の少女〜家族から酷い扱いを受けたあげく人柱になりましたが、これからは幸せに生きていいことになったそうです。
鯨井イルカ
恋愛
とある時代の、とある地方の、とある村。
一人の少女が、疫病を封じる人柱として、社の下に埋められていた。
そんな少女を救い出したのは、山本玉葉と名乗る美青年の姿をしたあやかしだった。
玉葉は少女に明と名付け、行き場所がないなら、自分の元に来ればいいと提案した。そこから、二人の生活が始まったのだった。
※本作品は「【R-18】あやかしの長に執着される退治人と、人工ドッペルゲンガー」の前日譚となりますが、前作を読まなくても問題はありません。
みちのく銀山温泉
沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました!
2019年7月11日、書籍化されました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
天界アイドル~ギリシャ神話の美少年達が天界でアイドルになったら~
B-pro@神話創作してます
キャラ文芸
全話挿絵付き!ギリシャ神話モチーフのSFファンタジー・青春ブロマンス(BL要素あり)小説です。
現代から約1万3千年前、古代アトランティス大陸は水没した。
古代アトランティス時代に人類を助けていた宇宙の地球外生命体「神」であるヒュアキントスとアドニスは、1万3千年の時を経て宇宙(天界)の惑星シリウスで目を覚ますが、彼らは神格を失っていた。
そんな彼らが神格を取り戻す条件とは、他の美少年達ガニュメデスとナルキッソスとの4人グループで、天界に地球由来のアイドル文化を誕生させることだったーー⁉
美少年同士の絆や友情、ブロマンス、また男神との同性愛など交えながら、少年達が神として成長してく姿を描いてます。
あまつきつね♀の花嫁♂
犬井ぬい
キャラ文芸
山神様への生贄に、花嫁を差し出そう。
◇
日照りと飢餓にあえぐ村を救うため、明(アケル)は花嫁として山神である狐のあやかしへ嫁入りすることになった。獰猛な獣神に魅入られれれば、非力な人間の花嫁など無残に喰い殺されるだろう。震えながら入った社の中で見た、銀の髪に金の瞳。鉱物のように美しい狐に、人の子は声を漏らす。「お、女……?」狐も答える。「そう言うお前は男だな」
◇
これは、お狐様の少女と、生贄花嫁になった少年の、ちょっと変わった異種婚姻譚。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる