上 下
15 / 20

推しのためなら、解決してみせましょう!

しおりを挟む
数週間後、私はある場所にアルフレッドを呼び出していた。



「一体なんなんだ?」

「まあそう焦らずに。これからご案内します」



 私はアルフレッドを連れ出して敷地内へと入る。

 広大な土地には、煉瓦造りの大きな建物がいくつも並んでいた。



「見た所……ただの工場のようだが?」

「はい。仰る通り、先日までこの煉瓦造りの大きな建物には織物の工場が入っておりました」「先日まで?」

「ええ。私が丸ごと買い取ったんです」

「買っただと?」



 驚愕するアルフレッドに私は頷く。



「王宮から遠すぎず、近すぎもしない。それに広大な敷地だけでなく、近くの土地も買収の手はずを進めております」

「な……なぜそんなことを? お前は一体何をする気なんだ?」

「学校を作るんですわ」

「学校?」

「はい。表向きは国内から優秀な学生を集め、国益になる人材を育てるのが目的です。そしてアルフレッド様にはこの学校の後援を務めていただきます」

「なぜ俺が?」

「アルフレッド様が後援すれば、視察という名目がつきます。それにここはシャルトワース家が100パーセント出資する私学ですから。他の貴族が許可なくここに立ち入ることは絶対に許しません。つまり……、アルフレッド様は邪魔が入らずにここで勉強できるってことです」

「しかし……俺が後援になるくらいなら国の金を使っても……」



 私はきっぱりと首を振る。



「それはなりません。もし国庫を動かすのであれば他の貴族が立ち入る理由になります。今、アルフレッド様は微妙なお立場。周りをあまり刺激してはなりません。それに……、私のお金だったら好きなようにあれこれ出来ますし、貴族がもしカチコミに来てもぶっ飛ばしてみせますわ!」

「は……はあ。そうか。しかし、これだけ大きな建物だ。金もだいぶかかったことだろう?」

「ふふっ! お任せあれ! このために大口契約を立て続けに制約して参りましたの! 心配する必要はございませんよ!」

「……そうか」



 アルフレッドが建物を見上げる。

 なんだかその表情は憑き物が取れたようなそんな顔だった。



「講師の選出やら、カリキュラムやら……まだ何も決まっておりませんが商売仲間から色々と紹介していただいているので……。おそらく三ヶ月くらい後には何かしら形になるのではないかと」

「……お前はすごいな」

「へ?」



 振り返るアルフレッドの顔は穏やかだ。

 王宮で見せたどこか張り詰めた表情ではなく。

 きっとこれが彼の素の顔なのだと、感じるくらいに。



「俺はお前よりもはるかに力のある立場なのに出来ないと思って袋小路に入っていた。それをお前はいとも簡単にこうしてやってのける。何故……そこまで出来るんだ? 俺はお前に恥をかかせたんだぞ?」

「え……ええっと」



 まあ推しのために頑張るなんてそんな形では言えないけれど。



「以前お伝えした通り。私はアルフレッド様に幸せになっていただきたいのです。そのためならば私、ちょっとくらいの障害など解決してみせます!」

「そこまでされるほど……俺はお前に」

「いえ。私は支えていただきましたよ」



 画面の向こう側で何度も恋をして、味気ない日常に色をつけてもらったのだ。

 それは何度も私を励ました輝かしい事実。

 その恩返しと言ってはなんだけど、キャラクターたちの幸せのために頑張れるなら本望なのだ。



「お任せくださいませ。これからも私、ハッピーエンドのために奮闘いたしますので!」 



 そう言って私はアルフレッドと笑った。

 ちっとも疑わなかった。絶対に上手くいくと、信用していた。

 だが、この時すでに私たちを脅かす新たな火種が確実に私に近づいていたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、ヒロインが鬼畜女装野郎だったので助けてください

空飛ぶひよこ
恋愛
正式名称「乙女ゲームの悪役令嬢(噛ませ犬系)に転生して、サド心満たしてエンジョイしていたら、ゲームのヒロインが鬼畜女装野郎だったので、助けて下さい」 乙女ゲームの世界に転生して、ヒロインへした虐めがそのまま攻略キャラのイベントフラグになる噛ませ犬系悪役令嬢に転生いたしました。 ヒロインに乙女ゲームライフをエンジョイさせてあげる為(タテマエ)、自身のドエス願望を満たすため(本音)、悪役令嬢キャラを全うしていたら、実はヒロインが身代わりでやってきた、本当のヒロインの双子の弟だったと判明しました。 申し訳ありません、フラグを折る協力を…え、フラグを立てて逆ハーエンド成立させろ?女の振りをして攻略キャラ誑かして、最終的に契約魔法で下僕化して国を乗っ取る? …サディストになりたいとか調子に乗ったことはとても反省しているので、誰か私をこの悪魔から解放してください ※小説家になろうより、改稿して転載してます

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです

朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。 この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。 そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。 せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。 どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。 悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。 ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。 なろうにも同時投稿

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...