上 下
136 / 154
第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

136.悪役令嬢の仲間達は調査する

しおりを挟む
「で、エステリア様が使っていた離れた相手と会話する魔道具を持っていないか? ですか――」
「ええ、この状況について伝えておかなければいけないと思うのよ」

 と、私がいうとエルーサは難しそうな表情を浮かべる。

「残念ながら……私は持っておりません」
「そう――なのね」
「はい、アレは持つ事自体に制限がかかっております。陛下のお許しを頂けませんでしたので、残念ながら……」

 なるほど、そこは少し考えどころね。私も許可を貰って手に入れる――しかないか、じゃぁ、今出来る事を考えないといけないわね。

「じゃぁ、私が調査に出ましょうか?」

 と、言ったのはウィンディだ……けど、私は即否定した。

「残念だけど、私とウィンディはダメよ」
「どうしてですかぁ?」
「認識阻害の魔道具、もしくは魔法だけど、効かない相手がいた場合は目立ちすぎるのが理由かな。もし、動くのであれば全員で動くのが一番いいと思うのだけど、ナスターシアはどう思う?」

 突然に振られたナスターシアは驚きの表情を一瞬だけして、小さく咳払いをする。ちょっと油断していたわね。

「出来れば、姫様とウィンディ様はここでジッとしていただいている方が良いとは個人的に思っております。私やエルーサで当たるのが正しい判断かと……」
「ま、そうよね。正直言って人員が足りてないと思うのよね。何か良い方法は無い?」

 私がそう言うと、エルーサが「提案が御座います」と静かに言った。まぁ、色々と動いていたようなので、手ぶらで帰ってきているとは思っていなかったので敢えて聞いてみたのだ。

「ご報告とこれからのところをお伝え致しますので、その後にご意見を頂けましたらと思いますが、如何でしょう」
「よい、では聞かせて貰おう」

 すると、エルーサは綺麗な所作で礼をした。さすがエステリアの専属ね。私達より少し年齢が上なだけだというのに凄い洗練された所作だ。まぁ、ウチのナスターシアだって負けてはいないけどねっ!

「まずは私の方から――」

 と、ナスターシアが前に出てエルーサと同じように綺麗な所作で礼をする。うん、やっぱりウチのナスターシアも素敵だわ。

「頼む」
「有難う存じます姫様。私の方は逃げた不埒者達の情報を集めておりました。排除した者達も含め下の階層に降りた者達の中で戻って来ていた人間は居なかったようです。しかし、残念な事に私達が遭遇した人数と、管理上計上されていた人数には差異がありました――これに関しては安全地帯セーフゾーンの管理を行っている冒険者ギルド側の落ち度と言えるでしょうが、他の冒険者から聞いた話によると、人数に関しては申告制となっている為に実際の人数を確認しているわけでは無さそうでした」
「それは杜撰としか言えぬな。して、どれくらいの差異があったのだ?」
「はい、約3名から4名だと思われます。ただし、その中には上位の冒険者らしき姿は確認されていないようなので、認識阻害の魔法や別の方法で出入りをしている可能性も考えられます」

 『幻魔』だったか。【白金】クラスの冒険者で名前の通り幻術系の魔法を得意とするヤツなのは確かだけど、目的が分からないわね。暗殺? 人攫い? 情報が足りてないとしか言えないわ。

「『幻魔』の情報は得られなかった……と、言う事?」
「はい、申し訳御座いません」
「いいのよ。ナスターシアも慣れない事をしているのだから、気にしなくてもいいわ」
「有難う御座います。しかし、いっそう警戒が必要だと思いましたわ」
「確かに――ではエルーサの報告も聞こうか」

 私は視線をエルーサに向けると彼女は静かに立ち上がり、話始める。

「私の方は【白金】冒険者である『黒狼』殿の連に接触しました」
「ほう?」
「先方も私達の事を探していたようでした。それで、彼らは準備が整い次第下層へ向かうつもりだと言っておりましたが、私がしばし待つように言っておきました」

 エルーサは涼しい顔でさらりとそう言った。謎の少女に言われただけで、冒険者――特に【白金】クラスの冒険者に付いて来ていた者達が簡単に言う事を聞くのだろうか? 私はそんな事を考えつつエルーサが彼等に待つように言った理由を聞く。

「出来れば、私も共に行こうと思っていますので、まずは殿下に許可を頂きたいと――」
「何かあれば、エステリアになんと言い訳をすればよい?」
「言い訳など必要御座いません。それに私、これでもお嬢様よりも強いので」

 さらりと彼女はそう言った。エステリアより強い……とはなかなか言うじゃない。でも、ハーブスト公爵家の者だものねぇ。あそこは騎士団もおかしな強さだと噂になっていたし、あり得るのかもしれない。戦闘中に随分と余裕があったのも確かだ。

「証明出来るか?」
「――そうですね、では此処に居る皆で一斉に私に向けて魔法を唱えて頂きましょうか? あ、魔銃でも構いませんよ」

 そう言って彼女は冷たく微笑んだ。私はウィンディとナスターシアに視線を送ると皆はコクリと頷き、素早く攻撃態勢を取り魔銃を構え術式を――

「あれ?」
「発動しない……」
「ま、魔法が霧散しました……」

 エステリアも同じことをしていたが、彼女の方がより早く精度が高いと言える。魔法陣がチラリと出ただけで砕け散るなんて出来るのだろうか?

「因みにですが、奥様はもっと強いですよ?」
「お母様や伯母様と比べるのは間違いよ……アレは人の領域を軽く超えてるんだから」
「そうですね。ですが、今はお嬢様や殿下よりも私の方が上だと言わせて頂きます。『黒狼』様の部下達にもして頂いているので大丈夫かと思います」

 うーん、多分この人、国内でも上位クラスの強さに到達しているみたいね。っていうかハーブスト公爵家はこんなのを何人も育ててるのよね? 一体、何と戦ってるのよ。

「因みにですが、『黒狼』様もといクーベルト辺境伯閣下の部下達も辺境伯領の騎士でした。それに中々にお強い方々でしたし、忠誠心も高く信頼出来るかと思われました」
「そ、そうか……」

 クーベルト辺境伯は一体何をやってるのよ。もしかして、部下を鍛える為に色んな魔導洞窟ダンジョンに連れまわしてたりするの? あの人、アホなの?

 そんな事を私は考えながら、エルーサに許可を出すのだった。
しおりを挟む

処理中です...