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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

133.悪役令嬢は魔導洞窟を徘徊する

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「本当に倒すつもりなのか?」

 クーベルト辺境伯……もとい【白金】クラスの冒険者『黒狼』様は心配そうにそう言った。因みに現在地は『アンダンテール大洞窟』の下層34階になります。

 なぜ、上じゃなく下に向かっているのか?

 それはこの魔導洞窟ダンジョンの32階から38階を徘徊している危険超級指定の魔物で徘徊者と呼ばれている面倒なヤツだ。実は下の階層に移動したのは徘徊者に追われて降りるしかなかった――と、いうところだ。

「倒さなければ、いつまで経っても鬼ごっこを続けないといけないですし……何度か戦って、なんとなく特性が分かった気がします」

 徘徊者の見た目はどす黒い触手の集まりのように見える二足歩行――簡単に人型というには不定形な姿ではある。魔力の気配はとても妙で時折、魔力を感じないけれど気配はある。しかも、距離を突き放して階層を降りても、いつの間にかに追いついて来る。

 32階では二度戦った時、閣下が腕を斬り取ったけれど、いつの間にかに元通りになっていた。回復時に魔力の動きは全く感じなかったところが妙だった。また、触手の動きは非常に柔軟で素早いのは非常に危険だ。持久戦に持ち込んでも倒すことが出来そうに無く、道を塞がれてしまった所為で下の階層に移動するしか無かった。

 33階層では三度戦った。正直言って閣下が私の問いに微妙な返事をしたのはこの所為かと思ったのは四肢を切断して頭を吹き飛ばしたけれど、死ななかった。倒したと思っても、すぐに元の状態へと戻る事で、徘徊者と対峙した冒険者達の間では不死なのでは? とも、言われている。

 そして、現在、34階層まで降りて執拗に追いかけて来る徘徊者との距離を保ちつつ移動している最中である。私は奇妙な事に気が付いたのだ。

「徘徊者ですが、執拗に追ってくる習性を持つ魔物とは思っているのですが、時折、魔力検知にも掛からない時がありますよね?」
「ああ、魔力自体も感じない事が幾度もある。阻害系の能力を持っていると思うのだが……」
「私もそう思ったのですが、距離を開けても追いついてきますよね? その瞬間、魔力検知に掛からなくなっていると思うのです」

 転移系の能力だと睨んでいる。それにサイズに比べて魔力を感じない存在というのが、おかしい。非常に攻撃力の高い触手や魔法攻撃などもしてくる事を考えると、かなりの魔力を持った魔物だと思う。普通ならば認識を阻害する系統で魔力関連の系統に優れていると考えるのが普通だと私も思う。

 確かに間違ってはいないと思うけど、何かが足りない。と、いう感じなのだ。

 で、私は考えた。

「あれは1体の魔物では無く複数の集合体では無いかと思うのです。そして、これはあくまでも私の仮説なので、聞き流して貰っても構わないのですが、下層38階層以降の階層はまだ誰も行けていないのですよね?」

 私の言葉にクーベルト辺境伯は「そうだ」と、呟いた。

「そして、徘徊者と追いかけっこをしている間、他の魔物とは遭遇してませんよね?」
「……確かにそうだが、ふむ、その可能性か」
「はい。32階層から38階層というのは一つの階層だと考えるのが正解なのではないかと……で、あの魔物が突然移動するのも気配を感じ無い時があるのも、ある程度説明が出来る仮説があるのです」
「32階層に入った段階でアレは侵入者を追いかけて来る。が、31階層に戻れば追ってこなくなるのも、それが原因だと?」
「はい。そして、魔力検知に掛からないタイミングなど不自然な事が多いのはアレが本体では無いからではないでしょうか」

 非常に意地の悪い魔導洞窟ダンジョンだと私は思う。クーベルト辺境伯も似たような事を思っているでしょうね。思わず目があってお互いに苦笑する。

「この複雑な廻廊のどこかに徘徊者の本体がいて、アレを操っているということか……」
「はい、多分ですが魔力操作系に長けた魔物なのでしょうね。もしかすると、32階層から38階層自体が魔物という可能性もあるのですが、それだと閣下が私を守る為に壁を作った部屋の事が説明つかないので、この32階層から38階層のどこかになんらかの答えが隠されている。と、考えるのがよいかと思ったのです」
「と、いうことは移動しているわけでは無く、創り出している可能性もあるのか」
「そうですね。転移しているようにも感じますが、転移した場合は魔力の動きがあるハズなのですが、魔力の反応が突如として霧散する事を考えると、こちらの方が正解かと」

 私はそう言って視線を奥の方に向かわせる。話をしている間に私達の近くに徘徊者がやって来たようだ。

「では、倒すよりも逃げた方がよいか?」
「そうですね。出来れば38階層まで行きましょう」

 と、私と閣下は無言で頷いて駆けだした。
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