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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

132.悪役令嬢の仲間達は悪役令嬢の帰りを待つ

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「それにしても、ただ待つだけというのも非常に辛いわ……」
「姫様、自身で言ったのですから、ぼやかないで頂けますか?」

 くっ、ナスターシアめっ! ここぞとばかりに嫌味を言ってくる。ちなみにアレから既に三日ほど経っている。私達は――と、いうよりもエルーサが予定以上の量になる食料を空間収納アイテムボックスに入れてあるおかげとも言えるが、食料などには困らない状態である。

 ただし、狭い部屋から一歩も出る事が出来ず、正直言ってやる事が無くて暇を持て余している最中なのである。

 出歩く場合には必ず認識阻害の魔道具を使用した状態でのみだ。エステリアが作った魔道具の効果は当然だけどピカイチなのだ。この手の魔法のスペシャリストがいたとしても、看破することは容易ではないと断言出来る――と、いうかお母様からの受け売りだ。と、言っても私は外に出る事をエルーサとナスターシアは許してくれないので、本当に暇を持て余している。

「あー、アリエル様。すっかり忘れていたんですけど、アレってリア様だけが持ってるんですかね?」
「アレ?」
「そう、アレです!」

 と、ウィンディは力いっぱい言ってユルふわな髪の毛を揺らした。アレとは? 如何に? エステリアだけ……が持ってる??? と、私は疑問符を大量に浮かばせながらウィンディの言わんとすることを考える。

「あー、アレか。確かに――私は持ってないけど、エルーサなら持ってる可能性はあるわね。彼女が戻ってきたら確認しよっか」
「そーだ! 忘れてたついでなんですが、コレで遊びませんか?」

 ウィンディはそう言って空間収納アイテムボックスから小さな箱を取り出す。

「本当に忘れてたわ。魔物素材から作ったって自慢されて遊んだ記憶はあったけど……」
「いやぁー、私もそうなんですよね。空間収納アイテムボックスを整理した時に見つけたんですけど、色々と忘れてたんですよねー」

 そう言いながら、ウィンディは箱を開けて中のカードの束を取り出す。リンガロイ伯爵領以外でも様々な場所にいるスライム系の魔物の被膜を乾燥させた物らしい。またインクはハーブスト領の海の魔物から採っているとかなんとか――

「で? 何して遊ぶの?」
「んー、二人でするなら七並べかスピード?」
「じゃ、スピードかな……」

 そう言って、私達の仁義なき戦いが始まった――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「只今戻りました――」

 部屋の惨状を見てナスターシアが固まってしまっています。そして、私達に気が付いたアリエル王女殿下とウィンディ嬢も固まります。

「えー、何があったのか教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

 気まずい時の動きは皆似たようなものですね。などと私は思いつつ、結界が壊れていないかを確認します。お嬢様が今までの認識阻害と防音の魔道具をさらに調整した登録者のみが出入り可能な結界の魔道具です。さすがお嬢様と奥様が作った物です、キチンと動作しています。

 さて、テーブルや色々なところが破損しているのですが、このような狭い場所で激しい遊びをするなどと――大丈夫でしょうか?

「あ、え、えっと……トランプ?」

 トランプというのはお嬢様とアンネマリー嬢が作ったカード遊びをする道具です――が、部屋を破壊するような遊びのルールは無かったと思うのですが。

「どのような遊び方をすれば、こうなるのか――お教え願えますか?」

 と、私が言うとアリエル王女殿下はスピードという1対1で対戦するゲームのルールを説明し始めます……が、まさか、身体強化を使って超高速で遊ぶという、どこから何を言えばいいのか分からない遊びをしていたようで、衝撃で色々部屋の中が大変な事になっていた事は気が付いていたそうですが、夢中になって戦っていたそうです。

「とりあえず、以後は身体強化など魔法や魔術を使ってトランプで遊ぶのは禁止です。ナスターシアも固まっていないで、しっかりとしてください」
「あ、そ、そうねっ、姫様。とりあえず部屋を片付けますので、お待ちを……」

 ナスターシアってば、甘くありませんか? まぁ、さすがに王女に片付けをさせるというのも……確かに微妙な気はしますけど、もう少し厳しくしても良いのではないかしら。

「あ、そうだ! エルーサが帰ってくるのを待っていたのよ!」

 と、アリエル王女殿下は思い出したようにそう言った。

「とりあえず、部屋を片付けてからお話を聞きます。もし手伝われるというのであれば、お手伝い願えますか? お嬢様方」
「は、はいっ!」

 アリエル王女とウィンディ嬢は素直にそう言って私の指示のもと手伝って貰う事にしました。因みにナスターシアは驚きの表情で固まっていたましけど。年下の女の子達が素直なのは良い事ですね――全くお嬢様も少しは見習って頂きたい。と、私は少し思いつつ共に皆で部屋を片付けるのでした。
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