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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

120.悪役令嬢は冒険者ギルドで揉める

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 色々と予定外の事はあったけれど、本日はやっと公爵令嬢の旅行気分からお忍び令嬢の冒険が始まるのだ。と、息まいていたのだけど、まずはリーニアンの街にある冒険者ギルドへ向かう。

 はぁ、まさか一日掛けてアリエルとウィンディの空間収納アイテムボックス内を整理、不用品の処分なんかを行うとは思っていなかった。しかも、前回彼女達が行った『マーフィアナの樹海』産の魔物の死体が出るわ出るわ。公爵家別邸の裏庭で出して貰ったのだけど、その量が半端なくて、正直言って空間収納アイテムボックスが崩壊寸前だった。

 しかも、王都に戻ってから処分すりゃよかったのに、何かあったと時に出して『すげぇー』っていうシチュエーションをやりたかったらしくて、解体もせずにそのまま放り込んでいたって――もう、小一時間説教してやったわ。

 別の空間収納アイテムボックスに大量の魔物の死体を放り込んで、後に処分する方向で話をまとめた。

 その後、エルーサとナスターシアを先導に私達は冒険者ギルドへ歩きで向かった。

 リーニアンの街は先に一泊したバラダインの街と比べて、落ち着いた雰囲気の街――まぁ、城がある城塞都市っていうのもあるんだけど、あからさまに印象が違うのが街を歩いている人の身なりが意外と整っていることだ。聞いた話では王都や領都と同じように区画でのすみ分けをしているらしいので、城の中心街はあまり荒くれ者が闊歩するような事は無いらしい。

 因みに冒険者ギルドがあるのは外周の城壁にほど近い場所でそこも非常に活気のある場所らしいけれど、全く雰囲気が違うらしい。

 私達は街を歩く事、だいたい半時くらい。街の中心街から再び小さい城壁を越えると街の様子が一変する。

「この辺りから先程の中心街に比べると様々な者達がいるので、お気を付けを」

 と、エルーサが言った。確かに先程に比べると襤褸を纏った者から、あからさまに冒険者といった雰囲気の者や旅商人など、様々な人達がいた。それに商店の数も豊富で大通りには屋台なども出ており、賑やかな街という印象が非常に強い。

 その中でひと際目立つ建物が冒険者ギルドだ。他の街でも似たような造りになっている建物である為に、建物を見ただけで冒険者ギルドだと分かる。

 ギルドの建物に入ると視線が一気に私達に集中する。まぁ、これもいつもの事だけど、私としてはあまり心地よい視線では無い。ただし、アリエルやウィンディは少し楽しそうである。因みにエルーサとナスターシアは超絶不機嫌そうだ。

「全く、不快極まりませんね」
「ええ、その通りですね」

 と、小声でやり取りをしているのを私は苦笑しつつ見守る。すると、お約束の如く荒くれ者の一団がこちらへ向かってやって来る。って、いうか――こんなテンプレ現象が本当に起こるのか疑問だったけど、あるのね。

「よぉよぉ、ねーちゃん達。子供連れでおままごとでもしに来たのかい? 場違い感ッパなくないかぁ?」

 まぁ、ハッキリ言ってエルーサとナスターシアは同世代だけど、年齢的には学園に通っていてもおかしくない。彼女達は学園に通うだけの実力を持っているのは当然だけど、王家や公爵家が後見している特別な存在――ってのはあるけど、まぁ、冒険者として成人前の娘と子供ばかりの集団が来れば、心優しい人間なら心配して声を掛けてくることもあるかもしれない。

「ってか、俺達が色々と面倒みてやっからさー、とりあえず……ねぇーちゃん達は俺達と楽しく冒険しちゃおうぜぇー」
「俺は小さいお嬢ちゃんのがいいんだけどぉー」

 くっ、変態がいるぞ! やってもいいんじゃない???

 と、私は皆に視線を向けるがアリエルは小さく溜息を吐くだけ、ウィンディはニッコリ微笑んだ。ちなみにギルド職員がこちらの様子を伺っているんだけど、止めには来ないのか?

「とりあえず。これ以上、何も言わずに元居た席に戻れば不問とします。一歩でもこちらに近づけば死なない程度に排除しますが、よろしいですか?」

 エルーサは私は聞いたことがないくらいに冷たい声でそう言った。と、いうか魔力漏れてますよエルーサさん!

「あぁ? 舐めてんのか? 鋼の烈斧れつふと言やぁ、俺様このウィン・バルクのことだぜ? そこいらの女子供が生意気に冒険者気取ってんでじゃねぇーっての!」
「……潰す」

 と、エルーサが動こうとした――が、割って入った人物がいた。

「ったく、ここはそうやって騒ぐ場所じゃねーの。分かる?」
「チッ――」
「ウィンくん、舌打ちしたの? オジサン聞こえちゃったんだけどぉ?」

 鋼のなんちゃらって、ちょっとチャラい感じのアホが、屈強そうなオジ様に睨まれて素早く距離を取る。ふーん、意外といい動きするのね、アホのクセに。

「それにお嬢ちゃん達も、ここは遊びに来る場所じゃないぜ?」
「あら? 私達はこれでも冒険者ですわ。なんなら模擬戦でもして、実力を見てみたら如何かしら?」

 と、私は思わず前に出てそう言ってしまう。皆が私に対して何をやっているんだ。って視線を送って来ているけど、エルーサは妙に楽しそうね。ま、まぁ、ついついやってしまったけど、私が何とかしてあげますわ。おほほほほ!

「冗談はよしてくれ、お嬢ちゃんが戦う? 風貌からして魔法使いのようだが……コイツはアホだが実力は【金】だぞ?」
「……誰がアホだ?」
「お前は黙っとれ! と、ともかくだ。お嬢ちゃん……どうせお貴族様の気まぐれとかだろう? そんな危険な遊びを止めてやるのが大人ってヤツだろ? どうだい? ここは俺の顔に免じて手を引いて貰えんだろうか?」
「あら? 私、これでも【鋼】の冒険者ですけど? まぁ、実力的にはもっと上だと自覚もあります。正直、実力を試すのであれば貴方でもいいのですけど?」

 私がそう言うとアホな男が何やら言ってはいけないような事を叫んでいますが、華麗にスルーして冒険者ギルドの責任者であろうオジ様を注視する。

「……本気か? 俺はこれでも元【白銀】の冒険者だぞ?」
「あら、ちょうどよくってよ。私ってば、最近色々と忙しかったので冒険など出れない間にお友達は小学ずる休みしてまで魔導洞窟ダンジョンに行っていたので、ちょっぴり不満でしたのよ」

 そう言いながらオジ様を威圧する。彼は少し驚きの表情を見せつつも小さく咳払いをしてから、ロマンスグレーの髪の毛を無骨な手でガシガシと掻いて大きな溜息を吐いた。

「はぁ、後悔すんなよ。模擬戦を受けようじゃないか。ウィンくんは見学はオーケーだが手出し無用だ。絶対に暴れんなよ? 殺すからな? 仲間の奴らもそうだぞ?」

 と、オジ様はアホ達を威圧して黙らせる。

「って、大丈夫なの?」
「大丈夫よ、エル。即死はさせないから――」

 そう言ったら、少し考える様子を見せて「ま、いっか……」とアリエルは言った。ま、ちょうど実験にもいいでしょう。アリエル達にも見せておきましょう。と、私はニッコリと微笑んだ。

 って、なんで皆怖がるのよ?
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