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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る
115.悪役令嬢は旅行する その3
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王都から立って直轄領の端にあるバラダインの街へ続く街道で幾度か休息を取りながら進み、また休息の為に馬車が止まる。因みに時間的には既に夕方といっていい時間だ。
「さすがに馬車の中でジッとしているとしんどいわね」
「姫様、その発言は年寄り臭いのでおやめください」
街道の端で馬車をバリケードにし、その奥で簡易のテーブルとイスを用意して、くつろぐ私達の後ろからアリエルのカップにお茶を注ぎながら、アリエル専属のメイドであるナスターシアがジト目でそう言った。
王宮の王女付メイドの発言としてもどうかと思うのだけど、それなりにアリエルと良い関係を築けていると考えればいいか。
「それにしても、他領を幾度も通る必要の無いハーブスト公爵領ってミストリアの中でも本当に広い領地を持ってるよね」
それは歴史的にハーブスト家はミストリアの中では特殊な立ち位置であるからとも言える。ミストリアが現在の国府となった切っ掛けを作ったのはハーブスト家の進言があったから、と伝えられているし、三大公爵家の中で元々ハーブスト家は独立した豪族でその血統を追って行けば天帝の一族に当たる。故に昔からミストリアでは広い領地を持っているのだ。
「単純に領地の広さでいえばレシアス領の方が広いけどね」
「あそこはマーフィアナ山があるし、樹海の影響もあって広いだけでしょ?」
「まぁ、そうね」
単純にミストリアの地図を見ると、ミストリア南部の所領を持つ貴族の領地は広めではある。特に南東部側の領地を持つ、レシアス侯爵領、ハフルスト伯爵領は領地としては広いが山地である為に使用可能な土地は狭い。南部では無いが似たような場所で言えばリンガロイ伯爵領も似ている。
逆に北東部は小さい領地の家が多く、当然ではあるけれど領主となっている者の爵位も低い傾向にある。南西部にあってハーブスト領に隣接している領地も小さい家が多いが、こちらは山地では無いために一部街道の要所もあって、栄えている。そういった領地の中で南部に向かう街道の一つにハーブスト領と直轄領を繋ぐように伸びている場所があるおかげで他領を通る必要が無い。
基本的に他領を通るのに問題というものは存在しない――ハズなんだけど、一部の領では関所や検閲が行われている場合があり、他にも盗賊の類が出る場所もあるらしい。今回もそういう情報があった為に他領を通らないルートを選択してしたと聞いている。急ぎの場合はジェスベル子爵領を通り、クラースト伯爵領を経由してレシアス侯爵領からハーブスト公爵領。と、いう経路の方が時間は掛からない。
しかし、ジェスベル子爵とクラースト伯爵は非常に仲が悪い事で有名なのだが、そもそも原因はジェスベル子爵にある。ジェスベル子爵は元々パルプスト公爵家から分家した家で、爵位は低いが気位は高い事で有名である。これが優秀であれば、多少の気位の高さに目を瞑る事も出来ただろう。
残念ながら、特に現当主は無能と言っても差し支えない。ジェニーの家であるクラースト伯爵は多少日和見なところはあるけど、非常に努力家で有能な方なのよ。故にジェスベル子爵とは全てが噛み合わない。と、いった具合なのだけど、この両家を複雑な状態にしているのは水源地などの問題で領地的な意味でも長年揉めているのだ。
その所為でジェスベル子爵領やクラースト伯爵領では領地境界の街道に関所を設けてかなり厳しい検問をしているらしい。直轄領に面していないクラースト伯爵領の人達が王都へ向かう場合、ジェスベル子爵領を通らないルート選択をする場合、東側から回るか、南側のハーブスト公爵領に一度入ってから北上するルートが主流らしい。
まぁ、おかげで領内を通る馬車の数が増えているのは良い事だとは思うけど、複雑な気持ちになるわね。
「お嬢様方、このまま進んで夜半にはバラダインの街に到着しますが、私とエルーサの側からは絶対に離れないようにお願いします」
「んぅ? なに? 危険な場所なのかしら?」
と、アリエルが訝し気な顔をする。正直言って私達を襲ってくるとかあったとしてもオーバーキルなんじゃないかな? と、思っていたのを察したのかエルーサは苦笑する。
「エルーサ、表情に出ています。姫様含め皆様方の実力は分かっています。どちらかというと我々に手を出してくるようなバカが出ないようにするのが目的です。以前よりバラダインには変な輩がいるような情報があり、さすがにハーブスト公爵家の一団を襲うような愚物は居ないと思いますが、念のためです。この話を聞いてワザと一人だけフラリと我々から離れたりなども考えないようお願いします」
「はいはい」
と、アリエルが言うとナスターシアがキッと彼女を睨む。
「姫様が一番心配だから、敢えて言ったのですよ!」
「分かってますぅー、いいこちゃんにしておきますぅー」
うん、楽しそうで何より。
「さすがに馬車の中でジッとしているとしんどいわね」
「姫様、その発言は年寄り臭いのでおやめください」
街道の端で馬車をバリケードにし、その奥で簡易のテーブルとイスを用意して、くつろぐ私達の後ろからアリエルのカップにお茶を注ぎながら、アリエル専属のメイドであるナスターシアがジト目でそう言った。
王宮の王女付メイドの発言としてもどうかと思うのだけど、それなりにアリエルと良い関係を築けていると考えればいいか。
「それにしても、他領を幾度も通る必要の無いハーブスト公爵領ってミストリアの中でも本当に広い領地を持ってるよね」
それは歴史的にハーブスト家はミストリアの中では特殊な立ち位置であるからとも言える。ミストリアが現在の国府となった切っ掛けを作ったのはハーブスト家の進言があったから、と伝えられているし、三大公爵家の中で元々ハーブスト家は独立した豪族でその血統を追って行けば天帝の一族に当たる。故に昔からミストリアでは広い領地を持っているのだ。
「単純に領地の広さでいえばレシアス領の方が広いけどね」
「あそこはマーフィアナ山があるし、樹海の影響もあって広いだけでしょ?」
「まぁ、そうね」
単純にミストリアの地図を見ると、ミストリア南部の所領を持つ貴族の領地は広めではある。特に南東部側の領地を持つ、レシアス侯爵領、ハフルスト伯爵領は領地としては広いが山地である為に使用可能な土地は狭い。南部では無いが似たような場所で言えばリンガロイ伯爵領も似ている。
逆に北東部は小さい領地の家が多く、当然ではあるけれど領主となっている者の爵位も低い傾向にある。南西部にあってハーブスト領に隣接している領地も小さい家が多いが、こちらは山地では無いために一部街道の要所もあって、栄えている。そういった領地の中で南部に向かう街道の一つにハーブスト領と直轄領を繋ぐように伸びている場所があるおかげで他領を通る必要が無い。
基本的に他領を通るのに問題というものは存在しない――ハズなんだけど、一部の領では関所や検閲が行われている場合があり、他にも盗賊の類が出る場所もあるらしい。今回もそういう情報があった為に他領を通らないルートを選択してしたと聞いている。急ぎの場合はジェスベル子爵領を通り、クラースト伯爵領を経由してレシアス侯爵領からハーブスト公爵領。と、いう経路の方が時間は掛からない。
しかし、ジェスベル子爵とクラースト伯爵は非常に仲が悪い事で有名なのだが、そもそも原因はジェスベル子爵にある。ジェスベル子爵は元々パルプスト公爵家から分家した家で、爵位は低いが気位は高い事で有名である。これが優秀であれば、多少の気位の高さに目を瞑る事も出来ただろう。
残念ながら、特に現当主は無能と言っても差し支えない。ジェニーの家であるクラースト伯爵は多少日和見なところはあるけど、非常に努力家で有能な方なのよ。故にジェスベル子爵とは全てが噛み合わない。と、いった具合なのだけど、この両家を複雑な状態にしているのは水源地などの問題で領地的な意味でも長年揉めているのだ。
その所為でジェスベル子爵領やクラースト伯爵領では領地境界の街道に関所を設けてかなり厳しい検問をしているらしい。直轄領に面していないクラースト伯爵領の人達が王都へ向かう場合、ジェスベル子爵領を通らないルート選択をする場合、東側から回るか、南側のハーブスト公爵領に一度入ってから北上するルートが主流らしい。
まぁ、おかげで領内を通る馬車の数が増えているのは良い事だとは思うけど、複雑な気持ちになるわね。
「お嬢様方、このまま進んで夜半にはバラダインの街に到着しますが、私とエルーサの側からは絶対に離れないようにお願いします」
「んぅ? なに? 危険な場所なのかしら?」
と、アリエルが訝し気な顔をする。正直言って私達を襲ってくるとかあったとしてもオーバーキルなんじゃないかな? と、思っていたのを察したのかエルーサは苦笑する。
「エルーサ、表情に出ています。姫様含め皆様方の実力は分かっています。どちらかというと我々に手を出してくるようなバカが出ないようにするのが目的です。以前よりバラダインには変な輩がいるような情報があり、さすがにハーブスト公爵家の一団を襲うような愚物は居ないと思いますが、念のためです。この話を聞いてワザと一人だけフラリと我々から離れたりなども考えないようお願いします」
「はいはい」
と、アリエルが言うとナスターシアがキッと彼女を睨む。
「姫様が一番心配だから、敢えて言ったのですよ!」
「分かってますぅー、いいこちゃんにしておきますぅー」
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