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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

110.悪役令嬢の婚約者は憤る

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 私は苛立ちを感じながら王家の席へ戻る。どうして、我が婚約者はこんなにも私を苛立たせるのだろう。

 両親にも政治的な事情で婚約者が決まったと聞き、私はミストリアの王族として好きでもない相手との婚約も当たり前だと納得はしている。しかし、私は母親が苦手だ。何を考えているか分からない、あの冷たい雰囲気が苦手だ。そして、私も母に似ていると思うとゾッとするのだ。

 正直、婚約者が誰であろうと問題は無かった。だが、あのハーブスト公爵の娘――自身の従姉妹にあたるエステリアだと聞かされた時、私は何も感がられなくなってしまった。

 母が苦手なのは当然だが、母の双子の姉であるハーブスト公爵夫人も苦手だった。そして、その娘のエステリアはもっと苦手だ。何を考えているか分からない人形のような容姿、冷たい表情。寒気がする。

 バカな女であればまだ我慢出来たかもしれない、しかし、彼女はとても優秀で王位継承権からいっても私よりも下だが、古きを大事にしてきている我がミストリアでは女子の方が継承権が高い事を考えれば、あの忌々しい妹のアリエルに何かあった場合、母は絶対にエステリアを次代の女王に推すだろう。

 私は男というだけで、第一子だというのに不遇だ。それに以前から思っていたのだ、女性に継承する流れ自体がおかしいのでは無いかと。近年、他国では男性継承が普通になっているそうだが、我が国では時世に乗り遅れていると私は思うのだ。

 それに古代の文献によれば、天帝が立つ前の時代、豪族達の王は皆男性だったという話があった。本来はその形が普通なのでは無いかと私は考えるようになった。

 先代の女王も第一王子に王位を継承させようとしてたのを母上が女王と王子を倒し、王位を簒奪したのだ。私は簒奪者の子だと言われたことがある――しかし、当時は間違いだと思っていたが、知れば知るほどにその通りだと思えるようになった。

 現在は三大公爵家と言われているが元々は王家の分家筋はパルプスト公爵家だけだった、ヴィジタリア公爵家は最古参の家臣でハーブスト公爵家はミストリアに移って来た者達でミストリア黎明期に王を助けた豪族だった。ここ数代はパルプスト公爵家とは婚姻を結んではいないが、血筋で言えばパルプスト公爵家が最も王族に近い血筋だと私は考えている。

 確かにハーブスト公爵は現在で言えば王族が嫁いだのだから、最も王家に近しいと言えるがハーブスト家は特に謀が得意な者が多い、そもそも信用ができないと私は考えている。

 それにエステリアもハーブスト家らしく、色々と裏で動いている節があるのだ。そんなのが婚約者だと? 全くもってふざけるなと言いたい――が、今はまだ我慢が必要だ。

 あいつらはきっと貴族派の切り崩しを狙っているのだろう、だから、私がその貴族派を取り込んでより大きな派閥を作ればいい。

 今回、各貴族がどういう動きをするのか試してみたが、やはりハーブストだ。奴らはこの国にとって良くないとパルプストが言っていた通りだった。母上もアヤツらに騙されているのだ……なんと愚かしい。

 もっと私は強くなり、力を蓄えて、この国の王として立たねばならぬ。

 そうだ、正しい国にせねばならない。近年は南方の国々とも貿易が盛んになっていると聞くが、海沿いの領主であるハーブスト公爵やレシアス侯爵は制限をもっと強くしなければならないと言っていたが、それではダメだと私は思う。西方諸国などは貿易で巨万の富を得ていると聞いた。

 私達もそうやって強くならねばならないのが、アヤツらには分からないに違いない。

 今はまだ、動く時では無い――しかし、私は必ず王となる。

 そして自分達の愚かさを教えてやるのだ。
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