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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る
105.悪役令嬢の父親と王女の父親の酒盛り談議
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「よいな。これはよい……」
ランパードはそう言いながら、塩茹でした落花生を放り込む。確かにこの酒はかなりのクオリティだ、酒精も強めではあるがそれを感じさせない口当たりがさらに酒を進ませる。
「そういえば、先程の話だが」
「ああ、クリフトの事だな。私の時間があった時くらいだがな、どうやら随分と強くなることに拘りがあるようだ。しかし、まぁ、自分の息子の事だけど彼が何を考えているかは分からないね」
ランパードはそう言いながら、再びクイッとグラスに入れた酒を呑み、酒精をはらんだ息を吐いた。まぁ、かくいう私も娘が何を考えているのか、分からない事も多い。彼女の我儘なら何でも叶えたくなるのは普通の事だと思っているけどね。
「婚約に関してはランパードはどう思っている?」
「まぁ、情勢上で言えば我々のような貴族社会では当たり前の話だな。ただ、そうだなぁ。クリフトの動きは色々と問題があると思っているよ。女性は大事にするべきだからね。特に美しい女性は特にね。我妻は強いし可愛いし、美しい」
それは双子の姉を妻としている私から言っても、同じだ。だが、どうやらクリフト殿下は女王陛下や我が妻――そして、我が娘であるエステリアの事も苦手なようなのだ。それに以前はもっと大人しい雰囲気のあったクリフト殿下だが、最近は何かに追い立てられているようにも見えるのだ。
「クリフト殿下は何に焦っているのだろうね」
「んー、そういう部分はあるよなぁ。ハッキリ言って分からんなぁ。血統、力、財力はある――人心に関してはその行いによる部分が大きいからなぁ。確かに今のままだと、近しい周囲は良くても国の上に立つには人がついて来ない可能性はある。キャロラインはアリエルを女王にしたいと思っているが、まぁ、私としてはどちらでも良いと思っているんだ。誰が王となったとしても、実力がなくとも、周囲が付いてくれば何とかなる。一番の問題はそこだ」
それは確かにそうだが、周囲のきな臭さから考えると王は戦闘でも指揮官としても、戦える人間の方が好ましい。それを考えるとアリエル王女は天才だ。ただし、彼女を抑える人間がいなければどこまでも突っ走って行きそうな不安はある。
「君の娘が王になると言っても私は反対はしないよ」
「ははは、それは私が全力で阻止させて貰うよ。我が娘をこんな魔境に置くなど出来ないよ」
「と、いう事は君もクリフトとの婚約には反対ということか……」
「正直、あの二人にとってお互いにあまり良いとは言えないだろう。出来れば子供達には立場や政治的な判断とは別に幸せになって欲しいと願うのが親心という奴だろう?」
私がそう言うと、ランパードは苦笑する。彼も私も政略結婚では無い。確かに貴族しての家格で言えばお互いに上位貴族でも特に大帝国基準で考えても上位に位置する貴族同士の結婚だったから問題は無かったのだが。
「ウィングレーはそう思うだろうが、少数派なのは理解しているのだろう?」
「それは当然理解しているよ。君はどうなんだい?」
そういうとランパードは酒の入ったグラスをテーブルに置き、ソファにもたれ掛かって大きな溜息を吐く。
「そりゃ私だって君と同じ気持ちは持っているが、そんな事をいえる立場の人間では無いのは君が最も理解しているだろう? それに君のところは三人ともとても優秀で文句なしでは無いか。まぁ、クリフトにしてもアリエルもとても優秀な子ではある――いや、アリエルが優秀過ぎてクリフトは劣等感に苛まれているのやもしれん。そう考えるとアヤツの焦りも分からんではない」
「しかし、我が娘を蔑ろにする理由にはならんよ?」
「それを言われると困る。どうやら、勝手にお茶会を開こうとしていたようだな」
やっと本題がやって来たわけだが、ランパードも関わってはいなかったようだな。周囲の貴族連中で誰がクリフト殿下に意見をしているのか、どこから攻めるべきかねぇ。
「ランパードはクリフト殿下の独断と思うかい?」
「どうだろうな。アイツの周囲と言えば、最近はパルプスト公爵に近い者が幾人かいるようだが……かと言ってアレに操られている風では無いがな。それに一応はこちらでも素性調査もして問題が無かったのでな。現状では判断し難いな。そういえば、あちらの工作員の件はどうなった?」
「スートリアやアフタリアスの工作員はかなり厳しく取り締まったのだが、南方の教会《カテドラル》の宣教師が入り込んでいてな。どうやらそいつらがピーストリオやビギタリアに随分と影響を与えているらしい」
現状、ミストリア内にも入っているのは確認しているが、そこまで大きな影響を与え無さそうだったので、現状は監視程度に留めているが、国外の工作員や冒険者と接触があるような報告があったので、注視している。
「問題山積だな……とりあえず、今日は呑んで全部忘れて明日から考える事にするよ」
「いやいや、今日決済の件もあるだろうが! 忘れるな!」
結局、私が家に帰れたのは夜が随分更けてからとなった。
ランパードはそう言いながら、塩茹でした落花生を放り込む。確かにこの酒はかなりのクオリティだ、酒精も強めではあるがそれを感じさせない口当たりがさらに酒を進ませる。
「そういえば、先程の話だが」
「ああ、クリフトの事だな。私の時間があった時くらいだがな、どうやら随分と強くなることに拘りがあるようだ。しかし、まぁ、自分の息子の事だけど彼が何を考えているかは分からないね」
ランパードはそう言いながら、再びクイッとグラスに入れた酒を呑み、酒精をはらんだ息を吐いた。まぁ、かくいう私も娘が何を考えているのか、分からない事も多い。彼女の我儘なら何でも叶えたくなるのは普通の事だと思っているけどね。
「婚約に関してはランパードはどう思っている?」
「まぁ、情勢上で言えば我々のような貴族社会では当たり前の話だな。ただ、そうだなぁ。クリフトの動きは色々と問題があると思っているよ。女性は大事にするべきだからね。特に美しい女性は特にね。我妻は強いし可愛いし、美しい」
それは双子の姉を妻としている私から言っても、同じだ。だが、どうやらクリフト殿下は女王陛下や我が妻――そして、我が娘であるエステリアの事も苦手なようなのだ。それに以前はもっと大人しい雰囲気のあったクリフト殿下だが、最近は何かに追い立てられているようにも見えるのだ。
「クリフト殿下は何に焦っているのだろうね」
「んー、そういう部分はあるよなぁ。ハッキリ言って分からんなぁ。血統、力、財力はある――人心に関してはその行いによる部分が大きいからなぁ。確かに今のままだと、近しい周囲は良くても国の上に立つには人がついて来ない可能性はある。キャロラインはアリエルを女王にしたいと思っているが、まぁ、私としてはどちらでも良いと思っているんだ。誰が王となったとしても、実力がなくとも、周囲が付いてくれば何とかなる。一番の問題はそこだ」
それは確かにそうだが、周囲のきな臭さから考えると王は戦闘でも指揮官としても、戦える人間の方が好ましい。それを考えるとアリエル王女は天才だ。ただし、彼女を抑える人間がいなければどこまでも突っ走って行きそうな不安はある。
「君の娘が王になると言っても私は反対はしないよ」
「ははは、それは私が全力で阻止させて貰うよ。我が娘をこんな魔境に置くなど出来ないよ」
「と、いう事は君もクリフトとの婚約には反対ということか……」
「正直、あの二人にとってお互いにあまり良いとは言えないだろう。出来れば子供達には立場や政治的な判断とは別に幸せになって欲しいと願うのが親心という奴だろう?」
私がそう言うと、ランパードは苦笑する。彼も私も政略結婚では無い。確かに貴族しての家格で言えばお互いに上位貴族でも特に大帝国基準で考えても上位に位置する貴族同士の結婚だったから問題は無かったのだが。
「ウィングレーはそう思うだろうが、少数派なのは理解しているのだろう?」
「それは当然理解しているよ。君はどうなんだい?」
そういうとランパードは酒の入ったグラスをテーブルに置き、ソファにもたれ掛かって大きな溜息を吐く。
「そりゃ私だって君と同じ気持ちは持っているが、そんな事をいえる立場の人間では無いのは君が最も理解しているだろう? それに君のところは三人ともとても優秀で文句なしでは無いか。まぁ、クリフトにしてもアリエルもとても優秀な子ではある――いや、アリエルが優秀過ぎてクリフトは劣等感に苛まれているのやもしれん。そう考えるとアヤツの焦りも分からんではない」
「しかし、我が娘を蔑ろにする理由にはならんよ?」
「それを言われると困る。どうやら、勝手にお茶会を開こうとしていたようだな」
やっと本題がやって来たわけだが、ランパードも関わってはいなかったようだな。周囲の貴族連中で誰がクリフト殿下に意見をしているのか、どこから攻めるべきかねぇ。
「ランパードはクリフト殿下の独断と思うかい?」
「どうだろうな。アイツの周囲と言えば、最近はパルプスト公爵に近い者が幾人かいるようだが……かと言ってアレに操られている風では無いがな。それに一応はこちらでも素性調査もして問題が無かったのでな。現状では判断し難いな。そういえば、あちらの工作員の件はどうなった?」
「スートリアやアフタリアスの工作員はかなり厳しく取り締まったのだが、南方の教会《カテドラル》の宣教師が入り込んでいてな。どうやらそいつらがピーストリオやビギタリアに随分と影響を与えているらしい」
現状、ミストリア内にも入っているのは確認しているが、そこまで大きな影響を与え無さそうだったので、現状は監視程度に留めているが、国外の工作員や冒険者と接触があるような報告があったので、注視している。
「問題山積だな……とりあえず、今日は呑んで全部忘れて明日から考える事にするよ」
「いやいや、今日決済の件もあるだろうが! 忘れるな!」
結局、私が家に帰れたのは夜が随分更けてからとなった。
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