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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

97.悪役令嬢はテストに備える

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 忙しい日々を過ごしている今日この頃ですが、学院生活を始めてふた月ほど経ち、一週間後に各教科のテストが行われる通知を受ける。と、いうかビバル氏、試験範囲の通知をするのはいいですが、終始ヤル気の無さが漂っているところは問題があると思います。

 で、結局のところ上位貴族の皆々は初歩たる内容に微妙な気持ちになるわけですね。ただし、簡単な内容だからといって悪い点数を取ると今後の生活に響くというのが貴族社会の困ったところです。ま、私は最近勉強どころの騒ぎではないレベルで色々なところに手を出しまくって、超絶忙しいという感じです。

「と、言うワケで試験に向けて皆さんで勉強いたしましょう」

 サロンに到着してソファに座った私の第一声である。当然、まだ朝の一枠目なので下級貴族の子達は誰もいない。クラスメイトだけの状態で私の一声を予想していたのか、皆はそれぞれに筆記具と教科書である本を数冊取り出す。

「皆様、準備がよろしいようで」
「当然ですわ、エステリア様!」

 と、ジェニーがそう言って自慢げに教科書を掲げる。そして、何かを思い出したように「あっ」と、短くいってから立ち上がる。

「申し訳ありません。お茶の準備をしてまいります」

 そう言ってそそくさと、キッチンへ向かって行った。もう、とっても迂闊な子ね。面倒な性格だと思っていた時期もあるけど、ジェニーは基本的に素直で感情的なタイプだ。分かりやすいが上にコントロールしやすい――けれど、逆を返せばコントロールされやすくもあるので、その辺りは高学までにしっかりと調教しておこう。

「とりあえず、お茶が入ってからにしましょうか」

 そう言って、ジェニーが皆にお茶を用意するのを待つ。ミーリアもジェニーを手伝いに向かい、二人が戻って来て、お茶が配られてから私は皆の様子を再度伺ってから口を開く。

「小学に入ってからはじめての試験ですが、範囲を聞いたところだと、それほど難題になりそうなところは無いでしょう。一応、私は試験までに全教科の内容を復習する予定ですが、皆が心配なところなど、聞いておきたいと思います」

 今回の敵は慢心だと思っているので、私は油断はしない。と、いうか……そもそも勉強する事が苦手ではないし、前世に比べるとエステリアはとても記憶力が驚くレベルで良い。ま、完全記憶ほどでは無いだろうけど、記憶で詰まる事があまりないので、より勉強が楽しくてやり過ぎてる感はある。

「あ、私、歴史と兵法がさっぱりなんだけど、どうしたらいいか教えて貰えますか?」

 そう言ったのはウィンディだ。転生組は小学生レベルの算術は皆余裕だけど、記憶力が物をいう教科は何よりもまず覚える事が大事ではある。

「文学は大丈夫なの?」
「あー、文学と兵法って似てますよね。文学もおねしゃす!」

 だよね。兵法の中身は基本的に昔の人が書いた兵法書を元にしているし、実際の戦闘うんぬんより、こう心がけることで戦闘を如何に避けるか。みたいな内容が多いから文学に近いんだよね。

「歴史のはじめは神話だもんね。ほぼ文学というかアレよね、おとぎ話みたいなものだから」
「確かにそうですね。幼い時に習う定番の物語の多くが歴史書のはじめの方にある逸話が多いのですよね。『カミガタリ』が大帝国古事の一説だと知った時、驚きましたよ」

 と、ルアーナが楽しそうに言った。今から数千年前に編纂された大帝国の歴史書で前世で言えば古事記に似た内容になっていて、大帝国の起こりから当時の大帝国の在り様が書かれている。大スペクタルロマン本だ。因みに数千年前というのは実際に古代の年代についてはよく分かっていないので、後の歴史家達に任せた方がいいかな。と、私は無視しているけど、世間的には数千年前とされていて、年代特定は不明だけど、前世の感覚から今が戦国時代としたら千年くらい前かと思ってたけど、最近キチンと呼んで【失われし遺産アーティファクト】とかの事を考えると数千年というのは強ち嘘じゃないかも。とか、思っている。

「長い歴史を持つ国だと、始まりは神話として語られる事が当たり前ですからね。ミストリア自体の歴史も相当長いのですが、大帝国の歴史とその起こりは本当に重要な部分だと私は考えているわ」

 色々な価値観が増えるとこういった部分を失って、国が荒れ、外敵に分断されやすくなるのよ。最終的には現実主義者が残っていくのだけど、古い価値観や歴史を忘れると、現実主義者に見せかけたロマンチストな中二病達や利己主義な人間にやられちゃうんだから。

「なんだか、小難しいのを覚えるのってしんどくないですか?」

 ウィンディはそう言いながら、歴史の教科書を開いた。まぁ、言いたいことは分かるけど、それはどの教科も変わらないのではなくって?

「とりあえず、そうね……ウィンディの興味を起こす為にまずは歴史の最初にやる神話の初段を簡単に要約して話してあげるわ」

 私はそう言って、出来るだけ優雅に紅茶をゆっくり口に含んで喉を潤した。
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