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第二章 悪役令嬢は暗躍する
75.悪役令嬢の両親は溜息を吐く
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忙しい時間の中、愛する我が娘の入学式を楽しみに講堂に向かい夫と共に保護者用の観覧席へ座る。当然、周囲は護衛騎士達に囲まれているので、ある程度の安全は確保されている。子供たちの人数に比べて保護者関係者の席が多いのはこの所為ではあるけど、長年、そうしてきたので、誰も文句は言わない。
相変わらず、激しい圧を放つ婆――言葉が悪いわね――の挨拶は例年が如くというヤツです。あの人、もう結構な歳なのに一定期から老けなくなったわね。魔術師の中で、特に優れた者達には色々なパターンが存在するけれど、ゆっくりと歳を取っていく事が多い。私や旦那様も大人になってから、非常にゆっくりと歳を取るので見た目より常に若く思われている。
ベスティンハーフ学長の場合、5、60代の頃からその傾向が出始めて今に至るわけだけど、下手をすると後、何十年も学院長をやっていそうね。
そして、その後、先日のお茶会でキャロルとランパードにこっぴどく説教されたクリフト殿下の挨拶が始まったのだけれど、どうしてあんな愚かしい事を堂々と話せるのだろうか。私は思わず旦那様に何度も視線を向けてしまったわ。旦那様の苦笑いが何とも可愛らしかったけど、アレはまた城に戻ったら説教されるのではなくって?
「うーん、我が娘が凄いポカーンとした顔をしているね。これは帰ってから注意をしておかないとダメだね」
と、旦那様が楽しそうに言った。エステリアどころか、その付近に座っている娘達も皆、似たような顔をしているわよ。私も顔に出てたりしないか心配になって、思わず深呼吸しちゃったわ。
「幼い時はもっと素直な子だったと記憶しているけど、この間のお茶会もそうだけど、彼ってば誰の影響を受けていると思います?」
「なんとも言えないんだよね。ただ、考え方としてはもっと古い時代の流儀に近いと思っているんだよ。古典文献の中では、貴ばれるのは王家の血で、そのころは男尊女卑のような考え方が貴族の間であった事はあるんだけど、ここ百年の流行りではないよね。天帝の血統は女系によって保たれているけど、その考え方も国府の者達からすれば、数百年前から流行らない形ではあったハズだ。ただし、ここ百年から二百年の間では復古していた流れなのは君もよく分かっているだろう」
伝統的に女王を立てる国府は実のところ随分と減っているのは周知の事実で、古い時代に一度廃れかけていた時期もあったけれど、ミストリアではここ百年は古くからの伝統を重んじる傾向にあった。あったけれど、もしかして――が、グルグルと私の思考を巡る。
「古い考え方を教えた人間がいる? 殿下の身辺にはそういう輩はいないハズなのだけど……近年周辺国に広がっている思考とも、随分とズレている感じがあるのは私も感じてはいるのだけど、周囲の情報と齟齬があるような気がしてならないわね」
「私もそう思うよ。何か見落としがあるのかもしれないね。私の方で少し調査をしてみよう」
「お願いするわ。私も周囲の情報を洗い直してみることにしましょう」
「では、急ぎ戻ろうか――」
「ですわね」
と、私達は静かに席を立ち移動する。まだ講堂では妙なざわつきが収まってはいないけれど、そろそろ教員の紹介などもあるだろうから、立ち去るには今の内しか無い。もう少し愛娘を見ていたかったけれど、そうもいかないでしょう。
王家までに侵食している何かを見つけなければ、夜も安心して眠れませんもの。
相変わらず、激しい圧を放つ婆――言葉が悪いわね――の挨拶は例年が如くというヤツです。あの人、もう結構な歳なのに一定期から老けなくなったわね。魔術師の中で、特に優れた者達には色々なパターンが存在するけれど、ゆっくりと歳を取っていく事が多い。私や旦那様も大人になってから、非常にゆっくりと歳を取るので見た目より常に若く思われている。
ベスティンハーフ学長の場合、5、60代の頃からその傾向が出始めて今に至るわけだけど、下手をすると後、何十年も学院長をやっていそうね。
そして、その後、先日のお茶会でキャロルとランパードにこっぴどく説教されたクリフト殿下の挨拶が始まったのだけれど、どうしてあんな愚かしい事を堂々と話せるのだろうか。私は思わず旦那様に何度も視線を向けてしまったわ。旦那様の苦笑いが何とも可愛らしかったけど、アレはまた城に戻ったら説教されるのではなくって?
「うーん、我が娘が凄いポカーンとした顔をしているね。これは帰ってから注意をしておかないとダメだね」
と、旦那様が楽しそうに言った。エステリアどころか、その付近に座っている娘達も皆、似たような顔をしているわよ。私も顔に出てたりしないか心配になって、思わず深呼吸しちゃったわ。
「幼い時はもっと素直な子だったと記憶しているけど、この間のお茶会もそうだけど、彼ってば誰の影響を受けていると思います?」
「なんとも言えないんだよね。ただ、考え方としてはもっと古い時代の流儀に近いと思っているんだよ。古典文献の中では、貴ばれるのは王家の血で、そのころは男尊女卑のような考え方が貴族の間であった事はあるんだけど、ここ百年の流行りではないよね。天帝の血統は女系によって保たれているけど、その考え方も国府の者達からすれば、数百年前から流行らない形ではあったハズだ。ただし、ここ百年から二百年の間では復古していた流れなのは君もよく分かっているだろう」
伝統的に女王を立てる国府は実のところ随分と減っているのは周知の事実で、古い時代に一度廃れかけていた時期もあったけれど、ミストリアではここ百年は古くからの伝統を重んじる傾向にあった。あったけれど、もしかして――が、グルグルと私の思考を巡る。
「古い考え方を教えた人間がいる? 殿下の身辺にはそういう輩はいないハズなのだけど……近年周辺国に広がっている思考とも、随分とズレている感じがあるのは私も感じてはいるのだけど、周囲の情報と齟齬があるような気がしてならないわね」
「私もそう思うよ。何か見落としがあるのかもしれないね。私の方で少し調査をしてみよう」
「お願いするわ。私も周囲の情報を洗い直してみることにしましょう」
「では、急ぎ戻ろうか――」
「ですわね」
と、私達は静かに席を立ち移動する。まだ講堂では妙なざわつきが収まってはいないけれど、そろそろ教員の紹介などもあるだろうから、立ち去るには今の内しか無い。もう少し愛娘を見ていたかったけれど、そうもいかないでしょう。
王家までに侵食している何かを見つけなければ、夜も安心して眠れませんもの。
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