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第二章 悪役令嬢は暗躍する

73.悪役令嬢は入学式へ向かう

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 ミストリア王都に設立された、7歳から13歳までの子供達が通う『聖ビクトリアス学院』は数代前のビクトリア・ディア・フロア・ロ・ミストリア女王の時代に作られた小学と呼ばれる学園である。

 それ以前の時代は私塾か家庭教師。もしくは神殿によって多くのも子供達が学んでいたけれど『より多くの者に学びを』という理由から大規模な計画で建てられた。まぁ、実際に完成したのは女王ビクトリアの死後で、彼女の功績を遺す意味も含め『聖ビクトリアス学院』と名付けられた。

 そして、私は本日の入学式に向けて馬車の中で王都の景色を眺めていた。

「お嬢様、そのように不貞腐れた表情で頬杖をついたままというのは問題があると思います。外から丸見えですよ」

 エルーサにそう言われて、私は小さく溜息を吐いて仕方なく背筋を伸ばし、座り直した。

「貴族の子息令嬢が歩きで通うのも色々と問題があるのは分かるけど、馬車で渋滞するなんてハッキリ言って無駄な時間だわ」

 王都の中では小学の位置は王都南方にある自然豊かな地区である自然保護区にあるのだけど、あまり広くない一本道なのだけど、都市部から自然保護区に入る道が狭いせいもあり渋滞が毎朝のように発生するらしい。

 途中で進まなくなって彼是2、30分程経つだろうか。うーん、何か暇つぶしが出来るモノがあれば気にならないんだけど、さすがに暇なんだよね。

「渋滞解消に大型の車両でも作って、定時巡回させるってのはどうかしら?」
「さすがに公爵家でするのは問題になりそうな気がします」
「それは確かにそうね。アリエルに――」
「それも問題ですね。派閥的なバランスもありますが、お嬢様がクリフト殿下の婚約者でありながらアリエル殿下に傾倒しすぎるのも問題になると思います」

 と、エルーサは私の言葉に被せてそう言った。確かに、確かんなんだけど、んー、一番いい手を考えないとダメね。

「それに、本日は保護者同伴の方も多い筈ですから、その所為で通常より馬車の数が多いのも原因だと思います。普段は半時も掛からずに小学に着く筈です」

 あー確かに保護者か。因みに我が公爵家は色々と忙しいらしく、本日は泣く泣く欠席の運びとなっている。まぁ、もしかしたら後から来るかも的な事は言っていたけど、どうなるか不明だ。上位貴族ではよくある事で、逆に下位貴族の方が保護者同伴というパターンが多いとエルーサに説明される。

「お嬢様は旦那様や奥様に入学式を見に来て頂きたかったですか?」
「え、どうかな。うーん、別に……と、いう感じかしら?」
「そう……なのですか?」

 私的にはどっちでもいい話だけど、普通の子達は見に来て欲しいのかなぁ。うーん、わかんないや。

「そういえば、先の話だけど。直接、ミストリアの女王案件にしたらいけないかしら?」

 エルーサがしばらく考える仕草をして、小さく息を吐いた。

「それは全然構わないと思いますが、ひとつ問題があります」
「問題? 何かしら?」
「どのみち、国が関わる案件になるかとは思うのですが、実際にお嬢様や奥様が関わって、大型の馬車が出来たとして、それを学園生徒の送り迎えに使う事が出来るようになるまで、最低でも数年掛かると思いますので……」

 あー、なるほど。私が高学かそれ以上に進んでからでないと、実際に動かないか。渋滞が緩和されるのを体験する事は出来ないってわけか。まぁ、確かにだけど、車両の開発だけなら、そこまで時間は掛からないと思うけど、生産体制や国内のルールとか、環境整備も考えたら10年そこそこ掛かりそう。しかも、合議制の問題点は関わっている面子の利益が結構重要になるから、各派閥などに旨味が無いと中々実現しにくい、もしくは時間が掛かる傾向にある。

 王の意見が強い国なら、王の鶴の一声で決まるだろうけど、ミストリアでは厳しい。女王がそれをする事は稀で基本的には合議によって決まることが多いと聞いている。

「歴史的な背景もあるのですが、ミストリアを含めた周辺国では合議を無視して王が強権を使うと内乱が起こるという傾向がありまして、各国の王も、この辺りでは非常に慎重だと歴史学者などもにいわれているそうです」
「確かに、お父様やお母様の若い頃は戦もあったそうだけど、それ以前はさらに内乱なども多かったというのはお母様の講義でも聞いたわ」
「現在の女王陛下は今までのミストリアに比べると強権的ではありますが、それでも合議の決定を重要視しますから、内政に関する話ではどうしても優先が発生するでしょうし、中々に進むのは難しい案件だな。と、思います」

 確かにそうよね。でも、皆が幸せに便利になっていくのは大切だと思うのよね。例え私がその恩恵に与れなくても、その後の人達が満足すればいいんじゃないかしら?

「とりあえず、アレね計画案だけ作って放り投げればいいかしら?」
「そうですね。ひとまずはお嬢様が満足されるのでしたら」

 と、エルーサは楽し気に微笑んだ。
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