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第二章 悪役令嬢は暗躍する

62.悪役令嬢は女王と契約をする

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「それは一体……」

 私は女王キャロラインを正面から見る。彼女の瞳はまるで揺らめくような紫紅でアリエルと本当によく似ている。って、私もそっくりなんだよね見た目は。

「私としてはアリエルを次代の女王にと考えている。そして、お主にはそれを近くにて支えて欲しいと思っている。しかし、アリエルに何かあった時、次の女王として相応しい人物は誰だ?」

 分かってはいるけど嫌な質問が来たわ。現状で王家と女系で血がつながっていて、女王という限定で考えた時の継承権があるのは、お母様の娘である私と、先代女王の妹が嫁いでいるヴィジタリア公爵家で今年生まれたばかりの子と、継承権がかなり下がるけれどグラファス侯爵家の末の子で名前はミリアリアだったかしら。

 まぁ、女王キャロラインの言葉から言えば、私以外に当てはまる人物がいないんだよねぇ。

「自分とは言いたくありませんが、継承権を持つ女性でアリエルと近しい年代で言えば、私が最も該当する人物に近いと思います」
「故に再度言わせて貰う。クリフトとの婚約は絶対だ。拒否する事は許さん」
「でも、陛下は先程は婚約破棄しても良いと言いましたよね?」

 政治的判断だから、婚約する流れは絶対だけど婚約破棄しても良いって意味が実は分からないんだよね。事情は国内にも外国のスパイみたいなのが入り込んでいて、色々と昔からの風習や価値観が変わってきている中で、出来るだけ穏便に国を運営する為ってのは分かるんだけど、結局のところ婚約破棄しても良い理由にはならないんだよ。

「そうだ。アリエルが女王として立太子出来る環境が整った上で国内の派閥や外敵からの調略を防げる環境が整った場合、エステリアがクリフトと婚姻を結ぶ理由は無くなるからな。婚約解消でも婚約破棄でも好きにすると良い。本当のところを言うとエステリアでは血が濃くなりすぎるのだ。お主の父であるハーブスト公も先々代は王家から王女が入って当主となった経緯がある。パルプスト公爵家以外は随分と婚姻を繰り返しているからな。私としては出来れば避けたい」

 ああ、婚約破棄って言ったのは私とクリフト殿下が婚約解消とかの場合だと、第二王子を担ぐ派閥が出て来る可能性を考慮しての判断なのか。さすがに婚約破棄した娘を再度王家になんて、あり得ないものね。

 確かに血が濃くなりすぎるのは問題だよね。インブリードによって様々なデメリットが発生するのは前世でも同じだし、この世界だと魔法的な要因でも問題とかありそうだ。

「避けたいと思っても、現状は避けれない。と、いうことですか?」
「ああ、そうだ。まぁ、我が息子でもクリフトは性格も穏やかだから、エステリアともある程度は上手くやっていくとは思う。ただ、次代の王としては難しいところが多いな」

 と、女王キャロラインは苦笑しつつ言った。ゲームでのクリフト殿下は冷静沈着でクールなキャラではあったけど、言われてみれば温厚で穏やかな性格だ。それに可愛いモノが好きで、私や女王キャロラインみたいなキツめの見た目の女性が苦手なんだよね。成績優秀で剣術も王配であるランパード閣下譲りの腕前だったハズ。

 一点、クリフト殿下に問題があるとすれば、アリエルや私、女王キャロラインやお母様などに比べると魔力量が少ない。たぶんだけど、ランパード閣下やお父様より魔法に関してはそこまで……なのかもしれない。ゲーム内のダンジョン探索のミニゲームでも魔力は王子系のキャラより他のキャラの方が高い傾向にあったのが少し気になってたんだよね。

 ゲームだと物理とか魔法とかの括りなんてミニゲームにおいてはあまり関係なかったし、結局のところ、戦闘はおまけレベルのゲームだったから。

 でも、さすがに他の貴族と比べて王子二人の魔力量が少ない。と、いうことは無いと思うんだよね。国内上位の戦闘力を持つ貴族や冒険者に比べて少ない。なら、納得は出来るんだけど……ランパード閣下も男性にしては遥かに多い魔力量を持っていると聞いているし、先日会ったクーベルト閣下もかなりの魔力を有してらしたし。

 んー、やっぱりアレかな。女王キャロラインはこれから確実に国が荒れる、もしくは周辺国との戦も踏まえて考えているってことなのかな。

「ともかくだ。ステフやハーブスト公爵とも話はついている。エステリア自身が問題なければ、クリフトが10歳になった時点で婚約を公にする。これで少しでも国内の怪しげな動きを抑えれればいいのだけどな」

 はぁ、やっぱりそうなるのか。10歳で婚約――でも、婚約までの流れがゲームの内容とは随分と変わっているし、条件が揃えば婚約破棄しても問題ないということを約束してもらっていると考えれば断罪回避も可能といえるのではないだろうか?

「あ、一応、婚約破棄に関しての約束ですが、契約書を作って貰っても大丈夫ですか?」

 と、私が言ったら女王キャロラインは楽しそうに笑った。げせぬ……。
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