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第二章 悪役令嬢は暗躍する

60.悪役令嬢は女王と話をする

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 視察という名の私達のお出かけは三日ほど掛けて魔導洞窟ダンジョン探索を楽しみ、新兵器の実験も良いデータが取れ、大満足で王都へ帰る事になった。

 それから、数日経ったある日、女王キャロラインから招待状が届いた。はい、現在地は王城の女王の私室に呼ばれて何故か二人きりで話をする事になった。

 以前に手紙でこの日が来るのもお出かけ前に女王キャロラインからも宣言されていたので、多少の心積もりもあった――けれど、緊張感はパない!

「そこまで緊張しなくてもいいのよ」

 いつもの冷気のオーラを背負っているような雰囲気の女王では無く、どちらかと言えばお母様とよく似た雰囲気は本来の彼女ということなのだろうか。

 因みにだけど、私とお母様が作った認識阻害と防音の魔道具は当然のように稼働している。

「空調調節の魔道具のお掛けで随分と助かっているわ」

 女王キャロラインはそう言いながら、テーブルに置かれたお茶をひとくち口に含み、私にもお茶を勧めてくる。そのお母様みたいな笑顔は止めて頂きたい。と、思いながら私もお茶を口にする。

「ん、これは……レシアス侯爵のところの新しいお茶ですね。香ばしい香りがいいです」
「そうだ、このほうじ茶は何とも心落ち着くの」

 紅茶はもう少し時間が掛かりそうだと言っていたけど、意外と早く出来そうな気がするな。あまり手広くやりすぎて失敗しないか心配になるよマリー。

「で、本日は……どうされたのでしょうか陛下?」
「この場で陛下はやめてくれ、そうね。せめて、叔母上でよいのではないか?」
「わ、分かりました、叔母様」
「うん、お義母様でもよいのだが、どうだ?」

 女王キャロラインは悪戯っぽい笑顔でそう言った。冗談は止めて頂きたい――けれど、たぶんそれが今日の話だという事に気が付いて私は小さく息を飲んだ。

「エステリアが我が息子クリフトの婚約者候補というのは分かっているでしょ?」
「はい。ですが……母からも聞いているとは思いますが、私は王権には興味ありません」
「ああ、それも分かってはいる。しかし、周囲はそう思わないのも理解している?」
「それも、理解しています。叔母様としても、私がクリフト殿下と結婚した方が良いと思っている――と、いうことですよね」

 と、言うと彼女は小さく微笑んで目の前にある焼き菓子を手に女王らしからぬ所作で口に放り込んだ。

「正直なところ、そこにそこまでの拘りは無いのよ。私とステフは自分で見つけた相手と結ばれたわけで、自らの子に政略結婚を強いるほど狭量では無い――のだけど、出来るだけ良い相手と結ばれて欲しい事を考えれば、エステリアは超優良物件だから。ただね……」

 と、女王キャロラインは言い淀む。

 確かに、国内の三大公爵家で王家直系の血筋、いとこ同士というところは選択的には良い。現在、立太子の件はまだ白紙状態を考えれば、私はアリエルに何かあった時の保険的な役割が強いわけだし。

 言い淀んだ理由は政治的側面もある――のかな? より強い王家を目指すとすれば、私がアリエルを支えて盤石な態勢を作った方がいいけど、貴族派閥系が推すクリフト殿下と真逆にいる私との婚約が進めば貴族派閥も取り込める可能性も考えている……って、感じか。

 状況的には国内の派閥問題はかなり問題なのかもしれない。

「叔母様、政治的は判断が現状強い……と、考えているのですか?」
「聡くて本当に困るな。ステフも楽しくて仕方ないでしょうね……エステリアの言う通りよ。我が国はここしばらくは平和な状況が続いているようにみえて実際は色々と問題を孕んでいる。この原因は先々代くらいからジワジワと蝕んでいっている。色々と努力はしているけれど、一番の問題は大帝国の権威が小さくなっている事が要因なところが簡単にどうこう出来る問題ではないのよね」

 やっぱり、周辺国含め大帝国の権威含め国府連合が機能していない事で国内の派閥争いに影響がある状態なのね。

「で、相談なのだけど……」
「相談ですか?」

 女王キャロラインは何かを企んでいますという表情で相談があると私に言う。

「最終的に婚約破棄してもいいから、クリフトの婚約者になりなさい」
「命令形で言うのは相談では無いですよね? でも、婚約破棄してもいい……とは、どういうことですか?」

 婚約破棄されるのなら、分からなくも――いや、普通は婚約解消とか、破棄した場合は色々と家同士の関係も良くなくなる流れだったりとか、うーん、分からない。女王キャロラインの考えている事がよく分からないわ。

「事情も踏まえて説明しておくわ」

 そう言って女王キャロラインは少し悲し気に微笑んだ。
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