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第一章 悪役令嬢は動き出す
45.悪役令嬢は王女と久しぶりにお茶をする
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どうも、私、エステリア・ハーブスト公爵令嬢(7歳)はアリエル・ミストリア(5歳)に呼ばれて数週間ぶりに登城しております。
「エステリア、待っていたわ」
「本日は王女殿下、お呼びいただき、ありがとうございますわ」
と、礼儀正しく挨拶を交わし、離宮の庭に用意されたテーブルの席へ着く。
「あら? 今日は二人きりでは無いのね」
私がそう言うと、アリエルは「まぁね。後から来ると思うから」と、楽しそうに微笑んで既に用意されていたお茶を飲む。その仕草は5歳児と考えると驚くほどに洗練されている。
「誰が来るのかしら?」
「前回のメンバー全員を招集したわ。中々に許可が出なかったけど、お母様を拝み倒してやっと許可を貰えたのよ」
でも、私とだけは何か話をしたかったから、先に呼んだということかな。
「エステリアのことだから察していると思うけど、先に話しておきたいことがあってね」
と、彼女はそう言ってから視線を周囲に向けてから、小さく息を吐く。
「周囲が気になるのかしら?」
「そういう時もあるわ。あの時の件だから、出来れば貴女の力に頼りたいのだけど」
初めて会った時に使った魔道具を使って欲しいということだろうけど、私が持ってきていると思っているところがアリエルらしい。
「私が持ってきていると思っていると?」
「持ってるんでしょ?」
まぁ、さすがアリエルということよね。私は周囲をチラリと見てから最新アップデートした防音の魔道具に魔力を流し術式を発動させる。
魔術波動も極限まで隠蔽出来る術式を追加したお陰で魔力消費量が上がってしまったけれど、周囲の人間が魔術を使っていると認識するのは非常に難しいと思う。
「ありがとう」
「気にしないで、周囲に怪しまれる可能性も高いから、手短にお願いね」
「そうね。あの日は本当にごめん。私は強制力を馬鹿にしてた……」
彼女は握った両手を震わせてそう言った。と、いうことはあの不自然な状況はアリエルにとっても予想外の何かがあったのね。
「一体、何があったの?」
私の質問に彼女は少し視線を逸らして悔しそうな表情を浮かべながら言った。
「分からないの。頭が真っ白になって……とにかく、アイツを殺さないと……って、思考に支配されて……そこからは全く覚えてない」
「精神支配系の魔法とか?」
可能性としては無いとはいえないんだけど、たぶん――無いわね。魔導師同士は魔法や魔術を使うための魔力感知に長けている。私やアリエルが気が付かないなんてこと、普通ではあり得ない。
「分からないとしか言えないんだよね。残念ながら……それに、ごめんね。エステリアの断罪回避を潰しちゃったよ」
「まだ、時間はあるわよ。他にも手立ては絶対あるハズよ」
そうだ、現状まだ私は7歳で彼女は5歳なのだ。強制力はどこまで働くのか分からないけど――この辺りは学園に入ってからというより、ゲーム開始時くらいから、より気を付けないとダメなのだろうけど。
「あと、ひとつだけ、ちょっと考えている事があるんだけどいい?」
と、アリエルは申し訳なさそうな雰囲気を醸し出す。
「貴女が私に遠慮することなんてあるの?」
「んー、たぶん、言ったら怒られる気がしてるから」
「とりあえず、言ってみて」
「怒らない?」
「それは内容次第だけど、アリエルが望むなら私は出来るだけ協力する。と、誓うわ」
本当に内容次第だけどね。たぶんだけど、冒険者になりたい――とか、言うんだろうなぁ。でも、これって結構問題山積だと思うんだよね。そもそも5歳で冒険者登録可能か? とか、城を抜け出すにしても護衛どうする? とか、色々だよ。
ちなみに実力で言えば、そこらの冒険者よりアリエルの方がたぶん強いと思うんだよね。それに魔法や魔術の実験も兼ねて私もいつか挑戦したい気持ちはあるのよね。
「私さ、たぶんかなり強いよね?」
「そうね。たぶんだけど、そこら辺の騎士や魔導師より強いと思う。ただ、上位に存在する化け物クラスの人間にはまだまだ劣っていると思うわ。それは私がお母様には現状勝てる気がしないのと同じで」
「と、いうか私のお母様も伯母様もそうだけど、アレはちょっと特殊よね?」
謹慎前までは女王姉妹と訓練も何度かしたけれど、あの二人は多分別格なんだよね。魔力量の高さもそうだけど、知識とセンスの高さ、女王キャロラインの攻勢魔法、魔術の精度と豊富さ、お母様の術式対応能力、魔法や魔術の発動そのものを解除出来る技術――私でもかなりの技量だと思うんだけど、お母様は色々な意味でおかしい――全てにおいて、私とアリエルの遥か上をいっている。
軍団戦闘とかになったら、もっと色々と出来そうだけど、その辺りは考えないでおこう。あの人達はやっぱりどこか違うのだ。
「で、何にしても実戦経験を積めば、もっと強くなれるだろうし、見識も広がると思わない?」
アリエルの言いたいことは分かるけれど、やっぱり5歳でそれをするのは異常じゃない? と、いうか周囲は確実に反対すると思うけど。後、怖いのは派閥による争いがあるこの国において最上位の継承権を持つ王女を暗殺することで、得をする貴族が少なからずいそうなんだよね。
「立太子の件が白紙化された事で自暴自棄になってたりしない?」
「いやぁ、そこまでは考えてないかな。もっと魔法の技術や魔力を高めようと思うと、やっぱり実践が一番じゃないかなぁ。と、思うんだよね。私も独自に調べた話だけど、お母様達が若かった頃は幾度か戦場にも出てたハズでしょ?」
その話は20年ほど前の話になる――
「エステリア、待っていたわ」
「本日は王女殿下、お呼びいただき、ありがとうございますわ」
と、礼儀正しく挨拶を交わし、離宮の庭に用意されたテーブルの席へ着く。
「あら? 今日は二人きりでは無いのね」
私がそう言うと、アリエルは「まぁね。後から来ると思うから」と、楽しそうに微笑んで既に用意されていたお茶を飲む。その仕草は5歳児と考えると驚くほどに洗練されている。
「誰が来るのかしら?」
「前回のメンバー全員を招集したわ。中々に許可が出なかったけど、お母様を拝み倒してやっと許可を貰えたのよ」
でも、私とだけは何か話をしたかったから、先に呼んだということかな。
「エステリアのことだから察していると思うけど、先に話しておきたいことがあってね」
と、彼女はそう言ってから視線を周囲に向けてから、小さく息を吐く。
「周囲が気になるのかしら?」
「そういう時もあるわ。あの時の件だから、出来れば貴女の力に頼りたいのだけど」
初めて会った時に使った魔道具を使って欲しいということだろうけど、私が持ってきていると思っているところがアリエルらしい。
「私が持ってきていると思っていると?」
「持ってるんでしょ?」
まぁ、さすがアリエルということよね。私は周囲をチラリと見てから最新アップデートした防音の魔道具に魔力を流し術式を発動させる。
魔術波動も極限まで隠蔽出来る術式を追加したお陰で魔力消費量が上がってしまったけれど、周囲の人間が魔術を使っていると認識するのは非常に難しいと思う。
「ありがとう」
「気にしないで、周囲に怪しまれる可能性も高いから、手短にお願いね」
「そうね。あの日は本当にごめん。私は強制力を馬鹿にしてた……」
彼女は握った両手を震わせてそう言った。と、いうことはあの不自然な状況はアリエルにとっても予想外の何かがあったのね。
「一体、何があったの?」
私の質問に彼女は少し視線を逸らして悔しそうな表情を浮かべながら言った。
「分からないの。頭が真っ白になって……とにかく、アイツを殺さないと……って、思考に支配されて……そこからは全く覚えてない」
「精神支配系の魔法とか?」
可能性としては無いとはいえないんだけど、たぶん――無いわね。魔導師同士は魔法や魔術を使うための魔力感知に長けている。私やアリエルが気が付かないなんてこと、普通ではあり得ない。
「分からないとしか言えないんだよね。残念ながら……それに、ごめんね。エステリアの断罪回避を潰しちゃったよ」
「まだ、時間はあるわよ。他にも手立ては絶対あるハズよ」
そうだ、現状まだ私は7歳で彼女は5歳なのだ。強制力はどこまで働くのか分からないけど――この辺りは学園に入ってからというより、ゲーム開始時くらいから、より気を付けないとダメなのだろうけど。
「あと、ひとつだけ、ちょっと考えている事があるんだけどいい?」
と、アリエルは申し訳なさそうな雰囲気を醸し出す。
「貴女が私に遠慮することなんてあるの?」
「んー、たぶん、言ったら怒られる気がしてるから」
「とりあえず、言ってみて」
「怒らない?」
「それは内容次第だけど、アリエルが望むなら私は出来るだけ協力する。と、誓うわ」
本当に内容次第だけどね。たぶんだけど、冒険者になりたい――とか、言うんだろうなぁ。でも、これって結構問題山積だと思うんだよね。そもそも5歳で冒険者登録可能か? とか、城を抜け出すにしても護衛どうする? とか、色々だよ。
ちなみに実力で言えば、そこらの冒険者よりアリエルの方がたぶん強いと思うんだよね。それに魔法や魔術の実験も兼ねて私もいつか挑戦したい気持ちはあるのよね。
「私さ、たぶんかなり強いよね?」
「そうね。たぶんだけど、そこら辺の騎士や魔導師より強いと思う。ただ、上位に存在する化け物クラスの人間にはまだまだ劣っていると思うわ。それは私がお母様には現状勝てる気がしないのと同じで」
「と、いうか私のお母様も伯母様もそうだけど、アレはちょっと特殊よね?」
謹慎前までは女王姉妹と訓練も何度かしたけれど、あの二人は多分別格なんだよね。魔力量の高さもそうだけど、知識とセンスの高さ、女王キャロラインの攻勢魔法、魔術の精度と豊富さ、お母様の術式対応能力、魔法や魔術の発動そのものを解除出来る技術――私でもかなりの技量だと思うんだけど、お母様は色々な意味でおかしい――全てにおいて、私とアリエルの遥か上をいっている。
軍団戦闘とかになったら、もっと色々と出来そうだけど、その辺りは考えないでおこう。あの人達はやっぱりどこか違うのだ。
「で、何にしても実戦経験を積めば、もっと強くなれるだろうし、見識も広がると思わない?」
アリエルの言いたいことは分かるけれど、やっぱり5歳でそれをするのは異常じゃない? と、いうか周囲は確実に反対すると思うけど。後、怖いのは派閥による争いがあるこの国において最上位の継承権を持つ王女を暗殺することで、得をする貴族が少なからずいそうなんだよね。
「立太子の件が白紙化された事で自暴自棄になってたりしない?」
「いやぁ、そこまでは考えてないかな。もっと魔法の技術や魔力を高めようと思うと、やっぱり実践が一番じゃないかなぁ。と、思うんだよね。私も独自に調べた話だけど、お母様達が若かった頃は幾度か戦場にも出てたハズでしょ?」
その話は20年ほど前の話になる――
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