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第一章 悪役令嬢は動き出す

38.悪役令嬢は気になっていたことを話し始める

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「まず、王家という存在があるのに国名に王国が入っていない。これはリンリィ様に指摘されたことで分かったわけだけど、そのことで私は色々と疑問が浮かんだわ。まず冒険者ギルドの存在ね。冒険者ギルドは聖イーフレイ帝国の下部組織で周辺国……いいえ、帝国が領土と考えている国には全てあるのでしょう。そうであるとすれば、ミストリアも帝国の中にある一つの国と、いうことになる」
「え、ええっと、ちょっと……難しいです」

 と、ウィンディ嬢。首を傾げまくっている。そんなに曲げたら折れないかしら。折れなくとも筋違えそうよ。

「まぁ、難しいかもしれないけど。そもそも、3作目の話をしている時に東から魔王が攻めてくるって言って、ソシャゲでは帝国周辺は魔王の国となっていたわけよね?」
「ストーリーが間違っていなければそうですね」
「どうして、帝国は滅んでいないのかしら? 歴史書から言っても聖イーフレイ帝国は万世一系の血筋の方が天帝として君臨している帝国よね?」
「そうなんですか?」
「ウィンディ様、歴史の勉強はちゃんとしています? 一応、私は大事な歴史だからしっかり覚えるように教わりました。と、いうかだからこそ、不思議に思っていたのです」

 私がそう言うと隣で「なるほど……」と、マリーの呟きが聞こえる。

「なんだか、まるで戦国時代みたい……いや、でも結構戦争も起こってないよね。なんだか奇妙な感じ」
「そうなのよ。たぶん、広い世界でみればこの国も聖イーフレイ帝国なのよ。そして、歴史書ではちょろちょろ出て来るんだけど、近年機能していない組織があるわよね?」
「国府連合ですね」

 リンリィ嬢がポンッと手を叩いてそう言った。古代史では帝国がもっと力を持っていた的な話が多く出て来るのだけど、近代史では周囲の国の話くらいしか出てこなくなるのが不思議だった。でも、時折、国府連合の話は出て来るのだ。

 そもそも国府連合とは帝国周辺の国々の代表が集まってまつりごとをどういう方向で行っていくかを決める機関で、これによって周辺国では一貫性を持った国造りがされていく仕組みなのだ。

「まさに国府連合が幕府って感じなんですね」
「でも、国府連合って各国の王が代表として集まって話をする国連みたいな組織じゃないの?」
「マリー、私もはじめはそう思ってたんだけど実はスケールが違うんじゃないかなって、思ったのよ。帝国が朝廷とすれば、国府連合は幕府。国王が武士……みたいに思えば分かりやすいかなぁ」

 大人達がたまに大帝国って言葉をよくよく使っている事を不思議に思っていたんだけど、謎が解けたって感じだわ。

「じゃぁ、魔王っていうのはノブっち的な人が現れたってことですか?」

 ウィンディ嬢は目を丸くしてそう言った。うん、ノブっち……ね。言いたいことは分かるけど、どうなのそれ。

「時代的にどれくらいの猶予があるか分からないけど、『とにキラ』の時代っていうのは周辺国でも戦争の可能性があるということになるわ」
「なんだか、全く持って想像できないわね」
「アリエルの言う通りよね。私達は随分と今の環境と考え方のズレがあると思うのよね」

 実際、ゲームの中では伝わらなかった国内の政争とかもそうだけど、国同士の対外的な部分なんかもゲームと現実では随分と分からない事が多い。

「エステリア様の言う通りではあると思いますけど……私達がそれより先に考えなければならないのは断罪回避ではないでしょうか?」

 それは確かにだ。正直、ゲーム内の知識で言えば1作目、2作目の時には戦争があったような内容は一切無かった事を考えれば、まずは断罪回避を主軸に考えないといけない。

「確かにリンリィ様の言う通りね。この中……えっとマリー以外でメインキャラが推しって人はいる?」
「アンネマリーはメインキャラが推しなの? 誰、誰なの?」
「え、えっと……ファルリオ様」
「ヒロインの行動次第ってことね」

 アリエルは楽しそうにそう言い、マリーは恥ずかしさに俯く。強制力があるならば、マリーは今後ファルリオと婚約する事になると思うけど、結局はヒロインの行動次第でどうなるか分からないところが最大の不安要素といえる。

「さっき、ウィンディ様も、わ、私が推しって言っていたけど……」
「はい! 私は基本、悪役令嬢推しなんです! あ、でも、女の子が好きってわけじゃないので、大丈夫ですよ」
「そ、そう……なら、いいんだけど……リンリィ様は?」
「私はメインキャラには推しはいませんね。しいて言えばアーネスト様ですが、最推しで言えばゲオルグ・リーデンバルト様です」

 おおっ、マニアックなところがキタ。ゲオルグ・リーデンバルトはネームドモブの一人で腐の淑女達に人気のキャラだ。カップリングで言えば、クリフト×ゲオルグかサブの近衛騎士ミッシェル・マッケインとのカプが鉄板と言われている。

 実は私の最推しのクーベルト辺境伯とのカプもあるんだけど、私としてはそれは違う! と、ツッコミを入れたい。

「またマニアックなところね。もしかしてリンリィはBとLな人?」

 アリエルは悪戯な笑顔でリンリィ嬢を見る。リンリィ嬢は周囲を確認した上で小さく息を吐いた。

「殿下は大丈夫なタイプですか?」
「これは語らねばならない時が――」

 と、聞こえた瞬間に私は停止を示すように手を前に出す。

「アリエル。それはリンリィ様とお二人の時に宜しくお願いします」
「エステリアはそっちじゃない人か」
「人の好き嫌いを否定はしないし、アリかナシかを問われれば、アリだけど……今はその話をする時では無いわよ」

 多分だけど、彼女確実にこの場を保護者達が監視していることを忘れているに違いない。と、いうか私もちょっと忘れてたくらいだもの。考えると後が怖いわ。

「確かに……あ、でも一つだけ聞きたいことがエステリアにあったんだよね」
「それくらいなら、大丈夫よ」
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