悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

第一章 悪役令嬢は動き出す

23.悪役令嬢のメイド達は主人の事を考える

　深夜になり、ハーブスト公爵家の中はやっと静寂に包まれる。

　しかし、その中でもまだ起きている者達は意外と多い。エルーサ・トンプソンなど家中の貴人専属の使用人達は就寝前に情報交換を行う事を日課としている。

「やはり、お嬢様は天才なのでしょうな」

　そう言ったのはウィングレー・ハーブスト公爵の専属執事であり、公爵家筆頭執事でもあるレナード・マクマスター。彼はマクマスター伯爵の次男で公爵家の右腕として長年使えている壮年の男であり、専属使用人達の師匠的存在である。

「はい、恐ろしいほどに……特に魔術の才能は桁外れです。まだ７歳にして、魔術への理解度で言えば我々などでは到底およびません」

　私、エルーサ・トンプソンはトンプソン子爵家の三女として生を受け、故合って公爵家にお世話になることになったわけですが、魔法・魔術においてはトンプソン家は騎士や宮廷魔導士を幾人も排出している家でそちら方面の腕を特に買われているわけですが、お嬢様と真面目に戦ったとして、既に勝てる気がしない……と、いうくらい天才的なのです。

「さすがにステファニー様には及びはしないと思いますが、エルーサはそこのところ、どう思っているのかしら？」

　そう言ったのは公爵夫人であり、元王族であるステファニー・ハーブスト公爵夫人専属のメイドであるバネッサ・ミュレル男爵。ミュレル男爵家当主でありながら、ステファニー様に長年仕えている色々と変わった方です。

「そうですね。ステファニー様はさすが王族――いいえ、王族の中でもトップクラスの魔法力を持つ魔導師ですから、７歳のお嬢様と比べるのは……」
「まぁ、それは当然ですわね。でも、将来は大帝国中に名を馳せるほどの魔導師になられるのではなくって？」
「それは楽しみですな……」

　こうやって、深夜のお嬢様や自分の主を称える時間は専属達において重要な時間なのです。己の忠誠心を測り、相手の忠誠心を見る。多くの上位貴族の間で行われているとレナードから聞いているので、それが当たり前だと私は思っているし、別に知りたいとも思わない。

　お嬢様の専属メイドは私だけなのだから、他の者にこの立場を譲る？　何を言っているのでしょう……って、レベルの話です。

　お嬢様は天使なのですから、私はお嬢様に付き従い、どこまでも行くだけです。

　先日、奥様がお嬢様の魔術理論から編み出した技術も日々、我々は特訓し、旦那様、奥様に太鼓判を押して貰えるまでに高まってきております。ただ、先日、お嬢様に教えたことは黙っておかないとマズそうです――が、既にお嬢様はそこからさらなる高みに向かっているのです。

　流石に相手の魔法・魔術を無効化した上で倍返しなんて……理論を聴いても、どうしてそうなった！？　と、思わず心の中で叫んでしまいました。

　お嬢様の中にある魔法・魔術理論はズレているというか、飛びぬけているというか。それでも、構築理論から言えば間違っていないところが恐ろしい。本当にあの発想はどこからくるのでしょう。

　どんなことがあっても、あの人だけは私が……何事に変えても守らねばなりません。

　そんな事を思いつつ、専属達の夜の茶会を終え自室に戻ります。

　そこから、小一時間かけて魔術の訓練を行って、ストレッチをして……湯あみを終わらせてから、お嬢様がご友人となられたレシアス侯爵家のアンネマリー様から頂いた化粧水や乳液を使い――こちらも凄い効果のモノです。奥様や他の一部メイド達も使用しているそうです。値段は怖くて聞けませんでしたが、素晴らしい物です。

　さぁ、明日もお嬢様の為に頑張らないと。そう思いながら、ベッドに入り目を閉じるのです。