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第一章 悪役令嬢は動き出す

9.悪役令嬢は魔術回路について説明する

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「新しい商品?」

 皆が不思議そうな声を上げる。見た目はどうみてただの木箱でパッと見では何か分かる人がいれば逆に凄い。

「これは氷室の魔道具です」

 皆の顔がポカンとする、この中身をしっているのは本日は誰もいないので、私はしてやったりとドヤ顔を決める。

「まず、氷室の魔道具がなぜ実現出来ていなかったか? なのですが、氷を作る魔法を込めると温度が下がりすぎ、中の物を凍らせてしまう為に冷やしておく、というのが非常に困難であったという点です」
「そうでございます。そして、氷を作る魔法を弱めても結果温度が下がりすぎ、入れたものがある程度凍ってしまいます。そこそこに冷たくする……という魔法が存在せず、調整することが出来ない為に研究が行き詰っていると聞き及んでおります」

 ダナンが食い入るように小箱を見つめながらそう言った。

 まさにその通りで、組み込む魔法が一つしか使えないと結果そうするしかないのだ。

「この箱の中には極小の魔石が幾つか配置されています。氷を作り出す術式ではなく、温度を下げる術式を組み込みました。また、箱の中には金属で出来たパイプが入っており、その中には水が入っております。こちらは水流を生み出す術式によって、パイプの中を水が常に流れている状態を維持しております。これによって、冷やされた水は凍結せず箱の中を一定の温度に保ちます」
「エステリア。魔石に込めることが出来る術式は一つだ。複数の魔石を使うのは分かるが、魔力を流す際に各魔石ごとに補充せねばならんだろう?」
「ええ、アイザックお兄様。私、気が付いたのです。魔石を加工して他の魔石を繋げることが出来れば、いくつもの魔石を組み合わせた回路を制御できるのではないかと」

 そう、実際にこの箱の中には簡単な制御盤があって、魔石がはめ込んである。その魔石に魔力を補充すれば各魔石に魔力が送られ、術式が発動する仕組みになっている。

「分かりやすいように見て頂ければ……」

 と、視線をエルーサに向けるとエルーサが小箱の蓋を開け、皆に見えるように向きを変える。

「箱の中に魔石の付いた板に金属パイプ……ふむ、小さい魔石が幾つか付いているな……一つだけサイズの違う魔石があるが、これが中核となっている魔石なのだろうか?」

 お父様がそんな事を言った。さすがお父様です。見ただけである程度お判りになるなんて、本当に凄いです。

「はい、さすがお父様です。その魔石に魔力を込めれば魔力回路を通って各魔石の術式が動きだします」
「試してもよいか?」
「是非に」

 私の返事を聞き、お父様は満足気に笑い魔石に少しだけ魔力を通す。

 小さくブォンと音がして魔石が光り、静かに水が流れる音がして箱から冷気を生み出していく。

「ほぅ? この魔石にも術式が込められているのか……」
「はい、メインの魔石には出力を操作する術式を入れてあります。これによって、温度をある程度の範囲で変える事が出来ます」
「まて、エステリア。出力を操作?」
「はいお父様。魔力を込めたまま手を右に捻ってください」
「こう……か? 逆に捻ると出力が下がる?」
「その通りです」
「いやいや、まて我が愛娘よ。魔石に込めることが出来る魔法は一つであろう?」

 お父様もそこに気が付いたみたいだね。

「実は、この2年間色々と試した結果なんですが、魔石に込めることが出来るは一つです」

 皆が不思議そうな表情を浮かべる。あ、でもお母様は違和感に気が付いたみたい。

「まさか、魔法が一つでは無く、術式が一つ?」
「はい。なので魔法に必要な術式を色々と確認して、術式を分解する実験をしました。冷蔵庫に使われている術式の中で温度を下げる術式は氷を作る魔法に使用される術式の中にある、『水を生み出し温度を急激に下げて氷にする』という部分の『温度を下げる』ところだけ魔石に込めました」
「確かに魔術というのは魔法を術式を用いて再現するというモノですが……」

 中々気が付かない話だけど、魔術というのは魔法をプログラムみたいに術式で組んだモノなんだよね。だから、術式の中を読み解いていったら色々と分かったのだ。
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