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第2話 炎の子

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 思っていた以上に言葉に棘が生まれてしまった。
「どうした、灰簾? どうしてそんな、不満そうなんだ?」
 不思議そうに、琥珀が聞いた。
「わからない。わからないけど、あなたがイラスをかわいがるのを見ているのはいやです」
 琥珀の笑う声。頭を撫でられる。
「おまえは、仲間だろ。特別だ」
 とくべつ。その言葉を、俺はもう一度胸の中で転がした。苦しい。胸がきゅうっとする。誰にもその言葉を渡したくない。
「特別……本当ですね?」
「ああ、本当だ」
 そう言って覗き込んできた彼の首をつかまえて、俺は抱きついた。
「どうしたんだ、灰簾。子供みたいだな」
 俺の背中をとんとんと叩いて、彼は言う。ずっと子供扱いしているくせに。
 俺は、最初の夜にイラスが話していたことを思い出す。
 そうだ。
「たぶん、俺は、あなたに恋する呪いがかかっています」
「何?」
 琥珀の手の動きが止まった。俺は、彼の首に回していた腕に力をこめる。
「イラスが言ってたんです。誰かを独占したくなる呪いがあると」
「灰簾。イラスはそう言ったかもしれないけど、独占欲は恋以外にもあるよ」
「琥珀、俺はあなたにイラスに触れてほしくないです。イラスはかわいそうだと思うけど、やさしい顔で見てほしくないし、あなたの苦しみについても彼じゃなくて、俺に話してほしいです。イラスのことが嫌いなわけじゃないんです。でも、琥珀が誰にでもやさしいのがいやです。これは、恋とは違うものですか?」
 俺は腕をゆるめて、琥珀の顔を覗き込んだ。困ったような表情。
「……俺にも、よくわからない。俺にはいらないものだから」
 イラスも言っていた。恋は<火の一族>のみんなにとって、とてもよくない呪いなのだと。
 だから、琥珀が困るのも無理はない。
「はい。我慢するしかないと、イラスも言ってました。だけど、さっき、特別って言われたとき、苦しかったです」
「苦しかった?」
「違う、そうじゃなくて……」
 俺は慌てて言葉を探す。さっき、俺が思ったのは、俺がその言葉を独占したいということで、だから、つまり……。
「苦しくなるほど、うれしかった」
 俺は彼の首の周りに回していた腕をほどいて、片方のてのひらで、彼の頬を撫でる。
「灰簾」
 途方に暮れたような、琥珀の声がその唇から漏れた。俺が困らせている。わかるけど、どうしたらいいのか。
 俺はそっと、自分の唇で彼の唇に触れた。
 その瞬間、今までに感じたことのない悦びが俺の胸を駆け抜ける。
 励ましたいわけじゃない。そうだ、こうやって、彼に触れたいだけ。こんな風に彼に触れるのは、俺だけにしたい。
 なんだっけ。『私の炎を、あなたのために消したい』。イラスは、それが火の一族の言葉で、愛しているという意味だと言った。
 俺には炎はないから、よくわからない。俺に、そんな気持ちがあるとは思えないけど──。
「琥珀……」
 どうしたらいいのかわからないまま、うっとりとした気分でその端整な顔を眺めていると、琥珀が言った。
「灰簾。さっき話したけど、俺は<火の一族>を解放するんだ。誰かに独占されたりはできない」
 それは、俺にもわかっていた。琥珀は独占できない。
「わかっています。あなたはみんなのもの。でもお願い、少しだけ。あなたを俺に独占させてください」
「灰簾」
 琥珀はまだ、困っている顔のままだった。
「少しだけです。しばらくこうしてください」
 そう言って、俺は自分の頭を彼の胸に預ける。
 やがて、ため息とともに琥珀の声がした。
「……ん、少しだけな」
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