25 / 41
第2話 炎の子
3-1
しおりを挟む
それから、月が姿を消して、また新しく生まれるころまで、俺と琥珀は彼らとらくだの食べ物を探して、砂漠を行ったり来たりした。琥珀はいつもみんなに人気だったし、俺はそれを見るたびになんだかいやな気持ちになったけれど、それでもだいぶこの生活に慣れてきた。
そんなある夜のことだった。
「起きろ、灰簾!」
隣に眠っていたはずの琥珀に体を揺さぶられて、俺は目を覚ました。
天空の高いところに三日月が見え、俺は目をこすった。眠い。まだ深夜だろう。
「逃げるんだ、襲われてる!」
意識がはっきりしてくるとともに、周囲が騒然としていることに気づいた。無理やり連れてこられたらくだも叫んでいるし、周りのひとも慌てて荷物をらくだに積んだり、らくだに乗ろうとしていた。そして、そのひとたちを襲っている、体格のいい見知らぬ男たち。
「灰簾!」
後ろからイラスの声がして、俺は振り返った。後ろにらくだに乗っているイラスがいた。
「イラス、灰簾を頼む!」
琥珀がそう言うとともに、俺を抱き上げ、らくだの上のイラスに押しつける。
「琥珀、あなたはっ」
イラスがその場を離れようとしているのに気づいて、俺は慌てて琥珀を見る。彼は剣を抜いていて、その上衣は血に汚れていた。返り血だろうか。
「大丈夫、すぐ追いつく」
「琥珀、俺も戦えます! 仲間はおいていけません!」
俺は楔をおいてきたことを思い出して、今度は誰もおいていきたくないと思った。しかも琥珀は、俺の仲間なのに。
俺がそこから飛び降りようとするのを押し戻して、琥珀は微笑んだ。どうしてそんな顔をするんだろう、こんなときなのに。
「灰簾。これは、おまえには関係ないことなんだ。イラス、頼む」
イラスがさっと手綱を引いて、らくだを動かした。琥珀はその隙に走り出していってしまう。
「イラス、俺を戻して!」
俺がイラスに訴えると、彼は言った。
「大丈夫。エトナさまが負けるわけがない」
「だけど、ひとりでは限界があるよ!」
「灰簾、きみのような子供がいても、足手まといだよ。蠍のことを忘れたの?」
そのイラスの言葉に、俺は蠍に噛まれたときのことを思い出した。彼がくれた薬のせいか、もう全然調子は悪くないけれど、たしかに彼の言うように、それ以外でも俺はこの砂漠について詳しくないから、足手まといになるようなことをまたしてしまうかもしれない。
そう思うと悔しくて、ちょっと目がしばしばした。いや、砂漠の砂が目に入り込んできたせいがほとんどだけど。
黙ってしまうのは子供っぽくて嫌だったけれど、何を言っていいのかわからなくて、俺は黙って何度か自分の目をこすった。
俺たちの周りには、ジャイマのほか、子供たちややや高齢のひとを中心として、四匹ほどのらくだが一緒に歩いている。
しばらく行って、らくだがゆっくりとしたペースになった。イラスは何度か後ろを振り返って、ほっとしたように息をつく。彼の雰囲気が少しやわらいでいた。追っ手がいないことを確認できたのかもしれない。
「ねえ、灰簾」
イラスのやさしい声がした。無視するのも子供っぽい気がして、俺は答える。
「何?」
俺の背中に、らくだの手綱を握るイラスの体温があって、俺は彼に後ろに抱きかかえられているような状態になっていた。
「さっき、エトナさまがおっしゃっていたことは本当なんだよ」
そんなある夜のことだった。
「起きろ、灰簾!」
隣に眠っていたはずの琥珀に体を揺さぶられて、俺は目を覚ました。
天空の高いところに三日月が見え、俺は目をこすった。眠い。まだ深夜だろう。
「逃げるんだ、襲われてる!」
意識がはっきりしてくるとともに、周囲が騒然としていることに気づいた。無理やり連れてこられたらくだも叫んでいるし、周りのひとも慌てて荷物をらくだに積んだり、らくだに乗ろうとしていた。そして、そのひとたちを襲っている、体格のいい見知らぬ男たち。
「灰簾!」
後ろからイラスの声がして、俺は振り返った。後ろにらくだに乗っているイラスがいた。
「イラス、灰簾を頼む!」
琥珀がそう言うとともに、俺を抱き上げ、らくだの上のイラスに押しつける。
「琥珀、あなたはっ」
イラスがその場を離れようとしているのに気づいて、俺は慌てて琥珀を見る。彼は剣を抜いていて、その上衣は血に汚れていた。返り血だろうか。
「大丈夫、すぐ追いつく」
「琥珀、俺も戦えます! 仲間はおいていけません!」
俺は楔をおいてきたことを思い出して、今度は誰もおいていきたくないと思った。しかも琥珀は、俺の仲間なのに。
俺がそこから飛び降りようとするのを押し戻して、琥珀は微笑んだ。どうしてそんな顔をするんだろう、こんなときなのに。
「灰簾。これは、おまえには関係ないことなんだ。イラス、頼む」
イラスがさっと手綱を引いて、らくだを動かした。琥珀はその隙に走り出していってしまう。
「イラス、俺を戻して!」
俺がイラスに訴えると、彼は言った。
「大丈夫。エトナさまが負けるわけがない」
「だけど、ひとりでは限界があるよ!」
「灰簾、きみのような子供がいても、足手まといだよ。蠍のことを忘れたの?」
そのイラスの言葉に、俺は蠍に噛まれたときのことを思い出した。彼がくれた薬のせいか、もう全然調子は悪くないけれど、たしかに彼の言うように、それ以外でも俺はこの砂漠について詳しくないから、足手まといになるようなことをまたしてしまうかもしれない。
そう思うと悔しくて、ちょっと目がしばしばした。いや、砂漠の砂が目に入り込んできたせいがほとんどだけど。
黙ってしまうのは子供っぽくて嫌だったけれど、何を言っていいのかわからなくて、俺は黙って何度か自分の目をこすった。
俺たちの周りには、ジャイマのほか、子供たちややや高齢のひとを中心として、四匹ほどのらくだが一緒に歩いている。
しばらく行って、らくだがゆっくりとしたペースになった。イラスは何度か後ろを振り返って、ほっとしたように息をつく。彼の雰囲気が少しやわらいでいた。追っ手がいないことを確認できたのかもしれない。
「ねえ、灰簾」
イラスのやさしい声がした。無視するのも子供っぽい気がして、俺は答える。
「何?」
俺の背中に、らくだの手綱を握るイラスの体温があって、俺は彼に後ろに抱きかかえられているような状態になっていた。
「さっき、エトナさまがおっしゃっていたことは本当なんだよ」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
少年はメスにもなる
碧碧
BL
「少年はオスになる」の続編です。単体でも読めます。
監禁された少年が前立腺と尿道の開発をされるお話。
フラット貞操帯、媚薬、焦らし(ほんのり)、小スカ、大スカ(ほんのり)、腸内洗浄、メスイキ、エネマグラ、連続絶頂、前立腺責め、尿道責め、亀頭責め(ほんのり)、プロステートチップ、攻めに媚薬、攻めの射精我慢、攻め喘ぎ(押し殺し系)、見られながらの性行為などがあります。
挿入ありです。本編では調教師×ショタ、調教師×ショタ×モブショタの3Pもありますので閲覧ご注意ください。
番外編では全て小スカでの絶頂があり、とにかくラブラブ甘々恋人セックスしています。堅物おじさん調教師がすっかり溺愛攻めとなりました。
早熟→恋人セックス。受けに煽られる攻め。受けが飲精します。
成熟→調教プレイ。乳首責めや射精我慢、オナホ腰振り、オナホに入れながらセックスなど。攻めが受けの前で自慰、飲精、攻めフェラもあります。
完熟(前編)→3年後と10年後の話。乳首責め、甘イキ、攻めが受けの中で潮吹き、攻めに手コキ、飲精など。
完熟(後編)→ほぼエロのみ。15年後の話。調教プレイ。乳首責め、射精我慢、甘イキ、脳イキ、キスイキ、亀頭責め、ローションガーゼ、オナホ、オナホコキ、潮吹き、睡姦、連続絶頂、メスイキなど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる