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第2話 炎の子
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暑い。羽織っている服はひんやりとした生地だが、それでも暑い。
顔の周囲に熱がこもっているような気がする。頬から落ちた汗が、首筋に滑り落ちてそれも気持ちが悪い。
それに何より、さっきちょっと気になった左の足首が何よりも熱を持っている気がする。
足首に触れようと手を動かそうとしたが、手は鉛のように重くなって動かせなかった。
耳鳴りがするし、なんだか吐き気がする気もする。
どうしよう。
砂漠では誰でもこんな感じなのか。俺がこの土地に慣れていないせいか。
「灰簾! どうした?」
琥珀の声がして、俺は自分は体を完全に琥珀に預けてしまっていることに気がついた。
「すみませ……」
言い終わらないうちに、俺の体は大きく傾いで、琥珀が抱きとめてくれなかったら、らくだから落ちてしまうところだった。
楽になって、俺はらくだから下ろされて横にされたことに気がついた。
「おまえ、蠍に刺されたな?」
琥珀が俺の足首をつかむ。裾から見える足元が腫れあがっている。あれ? こんなになってたっけ? 蠍? さそりってなんだ?
琥珀の舌打ちが聞こえて、俺の胸は痛む。
役に立ちたかったのに、これじゃ足手まといだ……。
琥珀はそのまま裾をナイフで切り裂くと、俺の足首に唇を押しつけた。
俺は悲しかったけれど、その意識も保てない。遠ざかっていく意識の中で、琥珀の唇の触れる足首の熱だけが感じられた。
「隙ありだ」
ぽんと、何かがぶつかる音がした。
頭の後ろに枕をぶつけられて振り返る琥珀は、昨日の夢とは違って、少し大人びた雰囲気を持っている。十五、六歳くらいだろうか。大人になりかけの子供っぽさを残した彼は、思わず抱きしめたくなるくらいかわいかった。
「こら」
彼は微笑んで、弟に枕を投げられた枕をベッドに投げる。
また、琥珀の夢だ。
彼の後ろの窓から遠くに見える火山は同じだけれど、昨日とは少し違って、部屋の中のようだった。
窓から見ると、家々の窓辺にランタンが飾られて、華やかな雰囲気だ。何か、祭の準備だろうか。
「すごいね、兄ちゃん。卒業試験、<居留地>で一番だったね! 本当に留学しちゃうんだ」
彼の弟が、琥珀の隣に立った。琥珀は微笑んで弟を見ている。
琥珀が一緒に寝ていないのに、俺は彼の夢を見ているんだろうか? 俺は不思議に思う。さっき、意識を失ったのは俺だけだ。
だけど、俺の妄想にしてはあまりに奇妙だ。こんな、火山の見える土地なんて俺は知らないし、そもそも、<居留地>なんてものも知らない。居留地ってなんだ? 一番の子供が留学できるってどういうことだ? どこに? 昨日の夢で言ってたっけ?
「<白き氷の国>。どんなところだろう? 兄ちゃんもあっちの名前を持つのかな?」
彼の弟は、首をかしげながら言う。琥珀は首を振った。
「そんなことはしないよ。確かに俺は<純血>じゃない。ずっと<居留地>に住んでるし、言葉もしゃべれないし、遊牧民の魂もあるとはいえない。それでも、自分が<火の一族>であることに誇りを持っている。そんな、自分を偽るようなことなんかしない。俺は<光>のやつらに、飼い慣らされたりしない」
弟は微笑んで、兄に抱きついた。
「そうだね、兄ちゃんは僕たちの誇りで、希望だもの」
俺はその少年の表情が、悲しそうなのに気がついた。兄と離れることになって寂しいのだろう。
琥珀もそれに気づいたのだろう。やさしく、少年の頭を撫でた。いつも俺にするように。
「泣くな、アミアータ。俺はちゃんと戻ってくるよ」
俺は昨日、眠りながら泣いていた琥珀のことを思い出す。きっとその約束は果たされなかったに違いない。
そのときの琥珀の気持ちを想像すると、俺の胸はいっぱいになる。
「かわいそうな琥珀……」
顔の周囲に熱がこもっているような気がする。頬から落ちた汗が、首筋に滑り落ちてそれも気持ちが悪い。
それに何より、さっきちょっと気になった左の足首が何よりも熱を持っている気がする。
足首に触れようと手を動かそうとしたが、手は鉛のように重くなって動かせなかった。
耳鳴りがするし、なんだか吐き気がする気もする。
どうしよう。
砂漠では誰でもこんな感じなのか。俺がこの土地に慣れていないせいか。
「灰簾! どうした?」
琥珀の声がして、俺は自分は体を完全に琥珀に預けてしまっていることに気がついた。
「すみませ……」
言い終わらないうちに、俺の体は大きく傾いで、琥珀が抱きとめてくれなかったら、らくだから落ちてしまうところだった。
楽になって、俺はらくだから下ろされて横にされたことに気がついた。
「おまえ、蠍に刺されたな?」
琥珀が俺の足首をつかむ。裾から見える足元が腫れあがっている。あれ? こんなになってたっけ? 蠍? さそりってなんだ?
琥珀の舌打ちが聞こえて、俺の胸は痛む。
役に立ちたかったのに、これじゃ足手まといだ……。
琥珀はそのまま裾をナイフで切り裂くと、俺の足首に唇を押しつけた。
俺は悲しかったけれど、その意識も保てない。遠ざかっていく意識の中で、琥珀の唇の触れる足首の熱だけが感じられた。
「隙ありだ」
ぽんと、何かがぶつかる音がした。
頭の後ろに枕をぶつけられて振り返る琥珀は、昨日の夢とは違って、少し大人びた雰囲気を持っている。十五、六歳くらいだろうか。大人になりかけの子供っぽさを残した彼は、思わず抱きしめたくなるくらいかわいかった。
「こら」
彼は微笑んで、弟に枕を投げられた枕をベッドに投げる。
また、琥珀の夢だ。
彼の後ろの窓から遠くに見える火山は同じだけれど、昨日とは少し違って、部屋の中のようだった。
窓から見ると、家々の窓辺にランタンが飾られて、華やかな雰囲気だ。何か、祭の準備だろうか。
「すごいね、兄ちゃん。卒業試験、<居留地>で一番だったね! 本当に留学しちゃうんだ」
彼の弟が、琥珀の隣に立った。琥珀は微笑んで弟を見ている。
琥珀が一緒に寝ていないのに、俺は彼の夢を見ているんだろうか? 俺は不思議に思う。さっき、意識を失ったのは俺だけだ。
だけど、俺の妄想にしてはあまりに奇妙だ。こんな、火山の見える土地なんて俺は知らないし、そもそも、<居留地>なんてものも知らない。居留地ってなんだ? 一番の子供が留学できるってどういうことだ? どこに? 昨日の夢で言ってたっけ?
「<白き氷の国>。どんなところだろう? 兄ちゃんもあっちの名前を持つのかな?」
彼の弟は、首をかしげながら言う。琥珀は首を振った。
「そんなことはしないよ。確かに俺は<純血>じゃない。ずっと<居留地>に住んでるし、言葉もしゃべれないし、遊牧民の魂もあるとはいえない。それでも、自分が<火の一族>であることに誇りを持っている。そんな、自分を偽るようなことなんかしない。俺は<光>のやつらに、飼い慣らされたりしない」
弟は微笑んで、兄に抱きついた。
「そうだね、兄ちゃんは僕たちの誇りで、希望だもの」
俺はその少年の表情が、悲しそうなのに気がついた。兄と離れることになって寂しいのだろう。
琥珀もそれに気づいたのだろう。やさしく、少年の頭を撫でた。いつも俺にするように。
「泣くな、アミアータ。俺はちゃんと戻ってくるよ」
俺は昨日、眠りながら泣いていた琥珀のことを思い出す。きっとその約束は果たされなかったに違いない。
そのときの琥珀の気持ちを想像すると、俺の胸はいっぱいになる。
「かわいそうな琥珀……」
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