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第一部
第20話 降臨、魔王の影
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一行は次の冒険に向けて、荷造りの準備に追われていた。
『砂漠の街・カシュタン』近くの『ピラミッド』、その地下にある『死者の宮殿』。
そこに『伝説の武器』があるという噂を聞きつけたのだ。
「ん~、荷造りはこんなもんかな」
「ずいぶん少ないね」
「そうか? まあ最低限の物にしたしな」
「ウチなんか着替えばっかで荷物運ぶの大変だよ」
「フェイは服持ちすぎなんだよ」
「リノっち、そのケースは?」
「『M16』です。やはり必要な時に武器が無いと困りますから」
「どこの軍と戦うんだろう……?」
そんな話をしつつ、四人は荷造りを終え、『砂漠の街・カシュタン』へ向かった。
――『砂漠の街・カシュタン』
砂漠のオアシスで古代から続く街である。
この街の近くに『ピラミッド』があり、多くの観光客や冒険者で賑わっている。
そのピラミッドの地下には、数多くの死者に守られている『死者の宮殿』がある。
死者達は冒険者などに墓を荒らされないように、永遠にここを守り続けているのだ。
そして一行は、カシュタンに宿を取ると、ピラミッドの探索に向かった。
ピラミッド内部では『マミー』と呼ばれるミイラが次々と襲ってくる。
彼らは力が強いわけでも動きが早いわけでもない。ただ、死なない。
彼らはすでに死んでいるので、体をバラバラにするか、燃やすしかないのである。
そんな敵を相手に、一行はうんざりしていた。
「マミーは数多いし、なかなか死なないな~」
「もう死んでるからね~」
「こんな所で火をつけまくったら、窒息しちゃうよ?」
「そうですね、体を破壊するのが無難ですね」
「地下までどれくらいあるんだろ?」
「さあ? マミーに聞いてみたら?」
「マミーに答えられても困るけどな」
そうこう話していると、通路の先に小部屋が見つかり、一行はその中を様子見た。
小部屋にいたのは『巨人族のマミー』だった。
彼の身長は四メートル程あり、その頭まで剣が届きそうに無い。
「うわっ、デカイな」
「でも、やるしかないですよね」
四人は小部屋の中に入り、戦闘を始める。
クロウとエリーは武器を振るうも、彼の腹までしか武器が届かない。
「氷結飛針!」
フェイの魔法が飛ぶも、マミーには効きにくいようだ。
彼はフェイの魔法を振り払い、腕を振り上げて襲ってくる。
その瞬間、マミーの片方の腕がドサッと落ちた。
リノが『アダマント製高枝切りバサミ』を使い、彼の腕を切り落としたのだ。
(剪定かよ!)
クロウはそう思いつつ、再びマミーに斬りかかる。
リノがもう一本の腕も器用に切り落とし、次にクロウとエリーが両脚を斬る。
いくら巨人族のマミーでも、手足が無ければ動きようがない。
最後にはフェイの魔法で氷漬けにされてしまったのだ。
一行はその後もピラミッドの通路を、マミー達と戦いながら進んで行く。
クロウは『雷神剣』で斬り、エリーは『オルトロスの短剣』で斬る。
リノは『アダマント製高枝切りバサミ』を器用に使い、マミーを解体する。
これはもう戦闘ではなく、庭木の剪定をしてるようだった。
そんな感じでピラミッド内部を降りて行き、ついに最下層らしい場所に着いた。
そこはかなり広い空間となっていて、天井も高く、二十メートルはあるようだ。
この広い場所の奥の方に建物らしきものがあり、四人はそこ目指して進んで行く。
その建物の前に立つと、そこはどうやら神殿らしく、古い装飾がなされていた。
この神殿の内部に『伝説の武器』があるのだろうか。
彼らはそう思いつつ、神殿に入って行った。
神殿の内部はいたって簡素で、広間の奥に一つ鉄格子がみえる。
その鉄格子の前に誰かいるようだ……。近づいて声をかけてみた。
「なによ、アンタ達も来たの?」
神殿内にいたのは、『マオ』であった。
「ただ目的が同じなだけだって」
クロウがうんざりしつつ、答えた。
「仕方ないわね、アンタ達にも手伝わせてあげるから、感謝しなさい」
マオはそう言い、鉄格子の中を指差す。
「あそこにいるのは『ペルーダ』という火を吹くカメよ。その後ろにあるのは『斧』。そして奥にも鉄格子があって、先に進めるのよ」
「なるほど、『伝説の斧』を守ってるんだな」
「多分、あのカメを倒さないと、奥にはいけないと思うわ。さあ、行きなさい!」
「えっ? マオが行くんじゃないの?」
「アタシは関節技が得意だけど、カメとかは論外なのよね」
「何とかビームは?」
「アンタ達は時間稼ぎよ、さっさと行きなさい!」
マオにそう言われ、四人は渋々鉄格子の扉を開け、中に入る。
「氷結飛針!」
フェイの魔法で先手を取り、クロウ達はペルーダに斬りかかる。
ペルーダは口から火を吹くが、
「氷柱障壁!」
と、フェイの氷魔法に防がれてしまう。
その隙に、リノの銃撃とマオの『魔法少女ビーム』で彼の四本の足を撃ち抜く。
クロウが頭めがけて斬り下ろすと、魔物は頭と手足を甲羅に引っ込めてしまった。
「霜霧凍結!」
だがそこへ、フェイの魔法がペルーダを包み込み、凍結させて倒した。
戦い慣れた四人と一人にとっては、造作もないことであった。
「アンタ達、なかなかやるじゃない。次行くわよ!」
マオはそう言い放ち、次の鉄格子へと向かった。
「ちょっと待て、斧取ってくる」
クロウが斧を取ってくる。『ペルーダの斧』というものだった。
「なにやってんの! 速くしなさい!」
マオにせっつかれ、彼女の後を追った。
次の鉄格子の中にいたのは、翼の生えた大蛇である。
その後ろに『槍』が見えた。
「あれは『ヤクルス』ね。見ての通りの空飛ぶヘビよ。毒をもってるし、動きが速いから気をつけなさい!」
マオはそう言って先に中へ入って行く。
彼女の『魔法少女ビーム』で戦いが始まり、五人はヤクルスに攻撃を始めた。
マオの光線、フェイの魔法が思うように当たらず、上空を取られて苦戦する。
しかし、リノの『M16』の狙撃でヤクルスが羽を撃たれると、形勢は逆転した。
クロウとエリーが地に落ちたヤクルスを斬りつけて、ついに倒したのだ。
「さあ、次よ!」
マオはそう言い、次の鉄格子へ向かう。
エリーが槍を手に取った。『ヤクルスの槍』という物だった。
四人はマオについて行き。鉄格子の中を覗いた。
鉄格子の中には美しい女性の精霊がいた。
その後ろにあるのは『短い杖』のようである。
「やっと見つけたわ! アレはアタシのもの、いい?」
「あ、うん、それでいいよ」
「よしよし、いい子ね。ちなみにアレは『ルサールカ』という妖精よ。じゃあさっさと片付けてくるから、そこで見てなさい」
「人型相手には強気だよね……」
エリーはそうボソっと言ったが、マオには気づかれなかったようだ。
マオは鉄格子の中に入るとすぐ、『魔法少女ビーム』を撃ち、先制する。
怒ったルサールカがマオめがけて襲ってくるが、逆にマオは彼女の体を掴み、関節技をかけ始めた。
「48の殺人魔法のナンバー3、『魔法少女風林火山』!」
マオはそう叫ぶと、相手をダブルアームに捕らえて回転し、床に叩き付けた。
次にローリングクレイドルの体勢で空中へ飛び上がる。
さらにパイルドライバーで落下し、最後にロメロスペシャルを決めた。
ルサールカはマオの四連続の基本関節技に耐えきれず、動かなくなってしまった。
「これで……、ついに……!」
マオは目を輝かせ、『短い杖』を手に取った……。
するとどうだろう、彼女の体から暗黒の空気のようなものが出始め、揺らいでゆく。
「フハハハハハ! 魔力が漲り体が動く!! すがすがしい気分だ!!」
マオは手にした杖を頭上に高く掲げ、叫ぶ。
「なじむ! 実に! なじむぞ! フハハハハハフハハフハフハフハフハハ!」
「これほどまでにッ! 絶好調のハレバレとした気分はなかったなァ……フハハハ!」
「最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアハハハハハハハーッ!」
マオが体中から暗黒の魔力を振り撒きつつ、こちらを振り向く。
……彼女の額には『魔』の文字が刻まれていた。
「アタシは魔王『マオ』! この世界を滅ぼし、アタシこそが勝利者となるのよ!!」
突然の出来事に呆然とする一行。
四人がマオを見つめたまま全く動けないように見えた。
だが……、
「知ってた。顔に書いてあったし」
エリーはあっさりとそう言った。
「なにっ!?」
マオは驚きを隠せなかった。
エリーは肘でフェイを小突き、合図を送る。
「知ってたわ。背中に『私は魔王』って紙が貼ってあったし」
フェイはとぼけてそう言った。
「なんだとっ!?」
マオは動揺してしまう。
フェイはリノを肘で小突き、合図を送る。
「知ってました。名前が『マオ』ですから」
リノは真顔で言った。
「バレていたのか……!?」
マオは額に冷や汗を浮かべてしまう。
リノはクロウに肘で合図を送る。
「知ってた。俺達のギルド名が『我々の中に裏切り者ガイル』だし」
クロウは普通に言った。
(((あれか……?)))
「くっ……」
マオは悔しさに顔を歪める。
「ウソだよ~ん!」
エリーはおどけてマオをバカにしてみせた。
マオはこめかみに血管を浮き上がらせ、怒りに満ちた表情で叫んだ。
「ぜったいに許さんぞ虫けらども!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!」
「そのネタもうやったし~」
さらにフェイがふざけてマオをからかった。
マオが怒りのあまり、顔を赤く染めてこちらを睨んで言った。
「ア、アンタ達……。だけど知っていたからと言ってどうなるわけでは無いわ! まずアンタ達から始末してあげるわ!!」
マオは懐から何かを取り出し、口に入れた。
「これはニンニクよ……、これでアタシは十倍……」
徐々にマオの身長が伸び始め、五メートル……十メートル……、それ以上となった。
神殿の天井が崩れ始め、四人は神殿の外へ走って避難した。
「おい……、成長期が過ぎるぞ……」
クロウはマオを見上げて言った。
「ちょっとバカにしすぎたかな……」
エリーは反省していないようだ。
「そういやアレ、連載初期はあんな感じだったわね……」
フェイが呟いた。
「結構大きいですね」
リノはマオを見上げて言った。
だがそこでフェイが、一歩前に出てキメ顔で言う。
「こんなこともあろうかと思って取っておいた、ウチの新魔法、見せてあげるわ!」
そして召喚魔法の挙動を始め、叫ぶ。
「召喚! 出でよ! 炎の精霊!」
全身に炎を纏い続ける元テニスの選手を呼び出した。
「召喚! 出でよ! 土の精霊!」
足元に犬を連れて石化されてしまった幕末の偉人が現れた。
「召喚! 出でよ! 水の精霊!」
ハゲ散らかした貧相なおっさんを呼び出した。
「大召喚! 精霊融合!」
彼女がそう叫ぶと、三体の精霊が円陣を組み、光りを放ち徐々に大きくなっていく。
そしてそこに現れたのは、巨大なロボット、だが脚の無いもの、だった。
「これがウチの新魔法、精霊融合『ガソダム』よ!」
フェイは得意げな顔でそう言った。
だが、そのロボの出来は非常に悪く、似ているかどうか怪しいものだった……。
「フェイ……、これ、どっかでみたことある……」
エリーは呆れて言った。
「大丈夫よ、かなり似てないわ」
「それに脚もついてないよ……?」
「あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのです」
「はぁ~、もういいからやっちゃって……」
「翔べ! ガソダム!」
フェイの掛け声で、残念なロボが巨大化マオに立ち向かって行った。
巨大化マオと残念ロボが戦いを始める。
十メートル以上の大きさのぶつかり合いは、地面を激しく揺らした。
両者は互いに殴り合いを始め、どちらも引くことをしないようだ。
その様子を四人はお茶を飲みながら、この戦いの行く末を見守っていた。
「フェイ、この戦いいつまで続くの?」
エリーが訪ねた。
「そうね、マオっちが先に力尽きて背が縮んでくれるといいんだけど」
フェイはそう答えた。
「ブービートラップでも仕掛けておきましょうか?」
リノが皆に尋ねた。
「多分、俺達が引っかかりそうだ」
クロウがそう言って、二匹の戦いを見守った。
そんな話をしていると、巨大化マオと残念ロボの戦いの終わりが見えてきた。
巨大化マオの指からの光線が、残念ロボの頭部を貫き、吹き飛ばす。
残念ロボはそのダメージで精霊融合を解除され、小さくなり消えてしまった。
だが、マオの方も力を消費しすぎたのか、少し背が縮んだように見える。
「よし、いっちょやるか!」
クロウが気合を入れた。
「そうだね、ここまで来たら何とかしないとね」
エリーも腹を決めたようだ。
「これが最後の戦いね、いいとこ見せないとね」
フェイもやる気になったようだ。
リノは少し離れた瓦礫の陰からM16を構え、巨大化マオの額を狙い、狙撃した。
その銃弾はマオに当たったものの、かすり傷しか与えられなかった。
「ちッ、ネズミ共が……」
巨大化マオはこちらへ注意を向け始め、指から光線を出してくる。
リノは一発撃つと場所を変え、瓦礫に隠れながら次の狙撃ポイントを探す。
クロウは巨大化マオへ向けて雷神剣を振り、電撃を放出しながら斬りつけた。
フェイは彼女の顔めがけて氷魔法を放ち、牽制する。
エリーは隠れてタイミングを見ながら、彼女のかかとを狙い、斬りつける。
今まで何度も彼らがやってきた四人の連携攻撃で、巨大化マオは少しずつ背が縮んでいくように見えた。
だが、このまま消耗戦が続くのはマズイ。
先に削り潰されるのはこちらだ、とクロウは思った。
クロウは巨大化マオの正面に立ちはだかり、
「みんな、ちょっと暴れるぞ!」
そう叫んだ。
彼の意図を察知した三人は、巨大化マオから離れ、物陰に身を隠した。
クロウは雷神剣のリミッターを外し、気合を入れて剣を頭上に掲げた。
「うおおおっっ! 俺の小宇宙が真っ赤に燃える! お前を倒せと輝き叫ぶ!! 『雷神剣・ナントカ斬り』!!!」
そう叫びながら、激しい突きを繰り出した。
(何かネタが混ざってるぞ……?)
(技の名前、思いつかなかったの……?)
(斬りと言いながら突き技でしょうか……?)
三人はそれぞれツッコミたかったが、そんな暇もない。
クロウの雷神剣の突きは、剣先から十三本の雷撃が飛び出し、蛇のように彼女に絡みついた。
「うぐっ! なんだこれは……?」
マオはその技に意表を突かれ、体中を雷で縛られ、大きなダメージを受けてしまう。
「ぐああっ!」
彼女は何とか指先を伸ばしてクロウに光線を出そうとするも、リノに手を狙撃され、狙いが外れてしまう。
「チィッ!」
蛇の形の雷がさらに彼女を締め上げ、閃光と共に爆発霧散した。
「ぐああああっ!」
辛うじてそこに立っているマオは、背が縮んで元の身長に戻ってしまったようだ。
……思わず片膝をついてしまったマオ。
その目前にクロウが立ちはだかる。
「終わりだ、マオ……」
「くっ……」
マオは何とか立ち上がり、指を上げようとするも、今度はエリーにナイフを投げられ、手を刺されてしまう。
そこへリノの狙撃がマオの額をかすめ、額の『魔』の文字をかすり、消してしまう。
その衝撃で彼女は仰向けに倒れてしまい、もう動く力は無さそうだった……。
「マオ、敗北を認めるんだ……」
クロウは雷神剣をマオの顔に向け、言った。
辺りが静寂に包まれる……。
突如、マオはその剣を払って上体を起こし、指から光線を出す。
「バカめ!」
その光線はエリーに向かって飛び、彼女の胸に当たり、彼女を突き飛ばした。
「ッ!」
三人は驚いてエリーの方を見る。
だが、エリーはゆっくり起き上がると、胸元から『詐欺師の短剣』を取り出した。
「いって~、危なく親友のハゲみたいに殺されるところだった……」
エリーの無事を確認し、安堵する三人。
クロウはマオを突き倒し、再び彼女にに剣を向けた。
「じゃあな、マオ」
そう言って、彼女の顔の横に雷神剣を突き刺した。
再度蛇のような電撃が剣から出て、彼女の体を包み込んでいった。
「ぐあああああぁっ!」
その時、辺りに何かの音が流れ始めた。
【パンピンプンペンポン♪
『ブラックスワン』、開発チームです。
『魔王・マオ』は、クロウ、リノ、エリー、フェイによって倒されました。
勝利者に祝福を。
『シーズン3』はこれで終了となります。
このサーバーは二十四時間以内に停止されるので、
プレイヤーの皆さんは用事が済み次第ログアウトしてください。
以上、システムメッセージでした。
パンピンプンペンポン♪】
「あれ? 終わり?」
クロウは驚いてみんなの顔を見た。
「そうみたいですね。私達が勝ったみたいです」
リノは微笑んで言った。
「全く、人騒がせだな……」
エリーは立ち上がり、みんなのほうへ歩いて行く。
「これでウチらが賞金ゲットだね」
フェイも喜んでそう言った。
……こうして彼らはシーズン3の勝利者となり、リベルタスの街に凱旋した。
一行はリベルタスの街へ戻ると、祝宴をあげた。
彼らのギルド拠点には大勢の人が詰めかけ、中に人が入りきれないので、街中がお祭りのような騒ぎになった。
過去に一緒に戦った者達、グレイス、ウィグラフ、ヒナ、ドルフなども、そこへ顔を出し、四人を祝った。
その祝宴はサーバーが閉じるまで続き。そこにいた全員が大きく楽しんだ。
ついに四人は『シーズン3』の勝利者となり、見事賞金を獲得したのであった……。
――第一部・完
『砂漠の街・カシュタン』近くの『ピラミッド』、その地下にある『死者の宮殿』。
そこに『伝説の武器』があるという噂を聞きつけたのだ。
「ん~、荷造りはこんなもんかな」
「ずいぶん少ないね」
「そうか? まあ最低限の物にしたしな」
「ウチなんか着替えばっかで荷物運ぶの大変だよ」
「フェイは服持ちすぎなんだよ」
「リノっち、そのケースは?」
「『M16』です。やはり必要な時に武器が無いと困りますから」
「どこの軍と戦うんだろう……?」
そんな話をしつつ、四人は荷造りを終え、『砂漠の街・カシュタン』へ向かった。
――『砂漠の街・カシュタン』
砂漠のオアシスで古代から続く街である。
この街の近くに『ピラミッド』があり、多くの観光客や冒険者で賑わっている。
そのピラミッドの地下には、数多くの死者に守られている『死者の宮殿』がある。
死者達は冒険者などに墓を荒らされないように、永遠にここを守り続けているのだ。
そして一行は、カシュタンに宿を取ると、ピラミッドの探索に向かった。
ピラミッド内部では『マミー』と呼ばれるミイラが次々と襲ってくる。
彼らは力が強いわけでも動きが早いわけでもない。ただ、死なない。
彼らはすでに死んでいるので、体をバラバラにするか、燃やすしかないのである。
そんな敵を相手に、一行はうんざりしていた。
「マミーは数多いし、なかなか死なないな~」
「もう死んでるからね~」
「こんな所で火をつけまくったら、窒息しちゃうよ?」
「そうですね、体を破壊するのが無難ですね」
「地下までどれくらいあるんだろ?」
「さあ? マミーに聞いてみたら?」
「マミーに答えられても困るけどな」
そうこう話していると、通路の先に小部屋が見つかり、一行はその中を様子見た。
小部屋にいたのは『巨人族のマミー』だった。
彼の身長は四メートル程あり、その頭まで剣が届きそうに無い。
「うわっ、デカイな」
「でも、やるしかないですよね」
四人は小部屋の中に入り、戦闘を始める。
クロウとエリーは武器を振るうも、彼の腹までしか武器が届かない。
「氷結飛針!」
フェイの魔法が飛ぶも、マミーには効きにくいようだ。
彼はフェイの魔法を振り払い、腕を振り上げて襲ってくる。
その瞬間、マミーの片方の腕がドサッと落ちた。
リノが『アダマント製高枝切りバサミ』を使い、彼の腕を切り落としたのだ。
(剪定かよ!)
クロウはそう思いつつ、再びマミーに斬りかかる。
リノがもう一本の腕も器用に切り落とし、次にクロウとエリーが両脚を斬る。
いくら巨人族のマミーでも、手足が無ければ動きようがない。
最後にはフェイの魔法で氷漬けにされてしまったのだ。
一行はその後もピラミッドの通路を、マミー達と戦いながら進んで行く。
クロウは『雷神剣』で斬り、エリーは『オルトロスの短剣』で斬る。
リノは『アダマント製高枝切りバサミ』を器用に使い、マミーを解体する。
これはもう戦闘ではなく、庭木の剪定をしてるようだった。
そんな感じでピラミッド内部を降りて行き、ついに最下層らしい場所に着いた。
そこはかなり広い空間となっていて、天井も高く、二十メートルはあるようだ。
この広い場所の奥の方に建物らしきものがあり、四人はそこ目指して進んで行く。
その建物の前に立つと、そこはどうやら神殿らしく、古い装飾がなされていた。
この神殿の内部に『伝説の武器』があるのだろうか。
彼らはそう思いつつ、神殿に入って行った。
神殿の内部はいたって簡素で、広間の奥に一つ鉄格子がみえる。
その鉄格子の前に誰かいるようだ……。近づいて声をかけてみた。
「なによ、アンタ達も来たの?」
神殿内にいたのは、『マオ』であった。
「ただ目的が同じなだけだって」
クロウがうんざりしつつ、答えた。
「仕方ないわね、アンタ達にも手伝わせてあげるから、感謝しなさい」
マオはそう言い、鉄格子の中を指差す。
「あそこにいるのは『ペルーダ』という火を吹くカメよ。その後ろにあるのは『斧』。そして奥にも鉄格子があって、先に進めるのよ」
「なるほど、『伝説の斧』を守ってるんだな」
「多分、あのカメを倒さないと、奥にはいけないと思うわ。さあ、行きなさい!」
「えっ? マオが行くんじゃないの?」
「アタシは関節技が得意だけど、カメとかは論外なのよね」
「何とかビームは?」
「アンタ達は時間稼ぎよ、さっさと行きなさい!」
マオにそう言われ、四人は渋々鉄格子の扉を開け、中に入る。
「氷結飛針!」
フェイの魔法で先手を取り、クロウ達はペルーダに斬りかかる。
ペルーダは口から火を吹くが、
「氷柱障壁!」
と、フェイの氷魔法に防がれてしまう。
その隙に、リノの銃撃とマオの『魔法少女ビーム』で彼の四本の足を撃ち抜く。
クロウが頭めがけて斬り下ろすと、魔物は頭と手足を甲羅に引っ込めてしまった。
「霜霧凍結!」
だがそこへ、フェイの魔法がペルーダを包み込み、凍結させて倒した。
戦い慣れた四人と一人にとっては、造作もないことであった。
「アンタ達、なかなかやるじゃない。次行くわよ!」
マオはそう言い放ち、次の鉄格子へと向かった。
「ちょっと待て、斧取ってくる」
クロウが斧を取ってくる。『ペルーダの斧』というものだった。
「なにやってんの! 速くしなさい!」
マオにせっつかれ、彼女の後を追った。
次の鉄格子の中にいたのは、翼の生えた大蛇である。
その後ろに『槍』が見えた。
「あれは『ヤクルス』ね。見ての通りの空飛ぶヘビよ。毒をもってるし、動きが速いから気をつけなさい!」
マオはそう言って先に中へ入って行く。
彼女の『魔法少女ビーム』で戦いが始まり、五人はヤクルスに攻撃を始めた。
マオの光線、フェイの魔法が思うように当たらず、上空を取られて苦戦する。
しかし、リノの『M16』の狙撃でヤクルスが羽を撃たれると、形勢は逆転した。
クロウとエリーが地に落ちたヤクルスを斬りつけて、ついに倒したのだ。
「さあ、次よ!」
マオはそう言い、次の鉄格子へ向かう。
エリーが槍を手に取った。『ヤクルスの槍』という物だった。
四人はマオについて行き。鉄格子の中を覗いた。
鉄格子の中には美しい女性の精霊がいた。
その後ろにあるのは『短い杖』のようである。
「やっと見つけたわ! アレはアタシのもの、いい?」
「あ、うん、それでいいよ」
「よしよし、いい子ね。ちなみにアレは『ルサールカ』という妖精よ。じゃあさっさと片付けてくるから、そこで見てなさい」
「人型相手には強気だよね……」
エリーはそうボソっと言ったが、マオには気づかれなかったようだ。
マオは鉄格子の中に入るとすぐ、『魔法少女ビーム』を撃ち、先制する。
怒ったルサールカがマオめがけて襲ってくるが、逆にマオは彼女の体を掴み、関節技をかけ始めた。
「48の殺人魔法のナンバー3、『魔法少女風林火山』!」
マオはそう叫ぶと、相手をダブルアームに捕らえて回転し、床に叩き付けた。
次にローリングクレイドルの体勢で空中へ飛び上がる。
さらにパイルドライバーで落下し、最後にロメロスペシャルを決めた。
ルサールカはマオの四連続の基本関節技に耐えきれず、動かなくなってしまった。
「これで……、ついに……!」
マオは目を輝かせ、『短い杖』を手に取った……。
するとどうだろう、彼女の体から暗黒の空気のようなものが出始め、揺らいでゆく。
「フハハハハハ! 魔力が漲り体が動く!! すがすがしい気分だ!!」
マオは手にした杖を頭上に高く掲げ、叫ぶ。
「なじむ! 実に! なじむぞ! フハハハハハフハハフハフハフハフハハ!」
「これほどまでにッ! 絶好調のハレバレとした気分はなかったなァ……フハハハ!」
「最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアハハハハハハハーッ!」
マオが体中から暗黒の魔力を振り撒きつつ、こちらを振り向く。
……彼女の額には『魔』の文字が刻まれていた。
「アタシは魔王『マオ』! この世界を滅ぼし、アタシこそが勝利者となるのよ!!」
突然の出来事に呆然とする一行。
四人がマオを見つめたまま全く動けないように見えた。
だが……、
「知ってた。顔に書いてあったし」
エリーはあっさりとそう言った。
「なにっ!?」
マオは驚きを隠せなかった。
エリーは肘でフェイを小突き、合図を送る。
「知ってたわ。背中に『私は魔王』って紙が貼ってあったし」
フェイはとぼけてそう言った。
「なんだとっ!?」
マオは動揺してしまう。
フェイはリノを肘で小突き、合図を送る。
「知ってました。名前が『マオ』ですから」
リノは真顔で言った。
「バレていたのか……!?」
マオは額に冷や汗を浮かべてしまう。
リノはクロウに肘で合図を送る。
「知ってた。俺達のギルド名が『我々の中に裏切り者ガイル』だし」
クロウは普通に言った。
(((あれか……?)))
「くっ……」
マオは悔しさに顔を歪める。
「ウソだよ~ん!」
エリーはおどけてマオをバカにしてみせた。
マオはこめかみに血管を浮き上がらせ、怒りに満ちた表情で叫んだ。
「ぜったいに許さんぞ虫けらども!! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!!!」
「そのネタもうやったし~」
さらにフェイがふざけてマオをからかった。
マオが怒りのあまり、顔を赤く染めてこちらを睨んで言った。
「ア、アンタ達……。だけど知っていたからと言ってどうなるわけでは無いわ! まずアンタ達から始末してあげるわ!!」
マオは懐から何かを取り出し、口に入れた。
「これはニンニクよ……、これでアタシは十倍……」
徐々にマオの身長が伸び始め、五メートル……十メートル……、それ以上となった。
神殿の天井が崩れ始め、四人は神殿の外へ走って避難した。
「おい……、成長期が過ぎるぞ……」
クロウはマオを見上げて言った。
「ちょっとバカにしすぎたかな……」
エリーは反省していないようだ。
「そういやアレ、連載初期はあんな感じだったわね……」
フェイが呟いた。
「結構大きいですね」
リノはマオを見上げて言った。
だがそこでフェイが、一歩前に出てキメ顔で言う。
「こんなこともあろうかと思って取っておいた、ウチの新魔法、見せてあげるわ!」
そして召喚魔法の挙動を始め、叫ぶ。
「召喚! 出でよ! 炎の精霊!」
全身に炎を纏い続ける元テニスの選手を呼び出した。
「召喚! 出でよ! 土の精霊!」
足元に犬を連れて石化されてしまった幕末の偉人が現れた。
「召喚! 出でよ! 水の精霊!」
ハゲ散らかした貧相なおっさんを呼び出した。
「大召喚! 精霊融合!」
彼女がそう叫ぶと、三体の精霊が円陣を組み、光りを放ち徐々に大きくなっていく。
そしてそこに現れたのは、巨大なロボット、だが脚の無いもの、だった。
「これがウチの新魔法、精霊融合『ガソダム』よ!」
フェイは得意げな顔でそう言った。
だが、そのロボの出来は非常に悪く、似ているかどうか怪しいものだった……。
「フェイ……、これ、どっかでみたことある……」
エリーは呆れて言った。
「大丈夫よ、かなり似てないわ」
「それに脚もついてないよ……?」
「あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのです」
「はぁ~、もういいからやっちゃって……」
「翔べ! ガソダム!」
フェイの掛け声で、残念なロボが巨大化マオに立ち向かって行った。
巨大化マオと残念ロボが戦いを始める。
十メートル以上の大きさのぶつかり合いは、地面を激しく揺らした。
両者は互いに殴り合いを始め、どちらも引くことをしないようだ。
その様子を四人はお茶を飲みながら、この戦いの行く末を見守っていた。
「フェイ、この戦いいつまで続くの?」
エリーが訪ねた。
「そうね、マオっちが先に力尽きて背が縮んでくれるといいんだけど」
フェイはそう答えた。
「ブービートラップでも仕掛けておきましょうか?」
リノが皆に尋ねた。
「多分、俺達が引っかかりそうだ」
クロウがそう言って、二匹の戦いを見守った。
そんな話をしていると、巨大化マオと残念ロボの戦いの終わりが見えてきた。
巨大化マオの指からの光線が、残念ロボの頭部を貫き、吹き飛ばす。
残念ロボはそのダメージで精霊融合を解除され、小さくなり消えてしまった。
だが、マオの方も力を消費しすぎたのか、少し背が縮んだように見える。
「よし、いっちょやるか!」
クロウが気合を入れた。
「そうだね、ここまで来たら何とかしないとね」
エリーも腹を決めたようだ。
「これが最後の戦いね、いいとこ見せないとね」
フェイもやる気になったようだ。
リノは少し離れた瓦礫の陰からM16を構え、巨大化マオの額を狙い、狙撃した。
その銃弾はマオに当たったものの、かすり傷しか与えられなかった。
「ちッ、ネズミ共が……」
巨大化マオはこちらへ注意を向け始め、指から光線を出してくる。
リノは一発撃つと場所を変え、瓦礫に隠れながら次の狙撃ポイントを探す。
クロウは巨大化マオへ向けて雷神剣を振り、電撃を放出しながら斬りつけた。
フェイは彼女の顔めがけて氷魔法を放ち、牽制する。
エリーは隠れてタイミングを見ながら、彼女のかかとを狙い、斬りつける。
今まで何度も彼らがやってきた四人の連携攻撃で、巨大化マオは少しずつ背が縮んでいくように見えた。
だが、このまま消耗戦が続くのはマズイ。
先に削り潰されるのはこちらだ、とクロウは思った。
クロウは巨大化マオの正面に立ちはだかり、
「みんな、ちょっと暴れるぞ!」
そう叫んだ。
彼の意図を察知した三人は、巨大化マオから離れ、物陰に身を隠した。
クロウは雷神剣のリミッターを外し、気合を入れて剣を頭上に掲げた。
「うおおおっっ! 俺の小宇宙が真っ赤に燃える! お前を倒せと輝き叫ぶ!! 『雷神剣・ナントカ斬り』!!!」
そう叫びながら、激しい突きを繰り出した。
(何かネタが混ざってるぞ……?)
(技の名前、思いつかなかったの……?)
(斬りと言いながら突き技でしょうか……?)
三人はそれぞれツッコミたかったが、そんな暇もない。
クロウの雷神剣の突きは、剣先から十三本の雷撃が飛び出し、蛇のように彼女に絡みついた。
「うぐっ! なんだこれは……?」
マオはその技に意表を突かれ、体中を雷で縛られ、大きなダメージを受けてしまう。
「ぐああっ!」
彼女は何とか指先を伸ばしてクロウに光線を出そうとするも、リノに手を狙撃され、狙いが外れてしまう。
「チィッ!」
蛇の形の雷がさらに彼女を締め上げ、閃光と共に爆発霧散した。
「ぐああああっ!」
辛うじてそこに立っているマオは、背が縮んで元の身長に戻ってしまったようだ。
……思わず片膝をついてしまったマオ。
その目前にクロウが立ちはだかる。
「終わりだ、マオ……」
「くっ……」
マオは何とか立ち上がり、指を上げようとするも、今度はエリーにナイフを投げられ、手を刺されてしまう。
そこへリノの狙撃がマオの額をかすめ、額の『魔』の文字をかすり、消してしまう。
その衝撃で彼女は仰向けに倒れてしまい、もう動く力は無さそうだった……。
「マオ、敗北を認めるんだ……」
クロウは雷神剣をマオの顔に向け、言った。
辺りが静寂に包まれる……。
突如、マオはその剣を払って上体を起こし、指から光線を出す。
「バカめ!」
その光線はエリーに向かって飛び、彼女の胸に当たり、彼女を突き飛ばした。
「ッ!」
三人は驚いてエリーの方を見る。
だが、エリーはゆっくり起き上がると、胸元から『詐欺師の短剣』を取り出した。
「いって~、危なく親友のハゲみたいに殺されるところだった……」
エリーの無事を確認し、安堵する三人。
クロウはマオを突き倒し、再び彼女にに剣を向けた。
「じゃあな、マオ」
そう言って、彼女の顔の横に雷神剣を突き刺した。
再度蛇のような電撃が剣から出て、彼女の体を包み込んでいった。
「ぐあああああぁっ!」
その時、辺りに何かの音が流れ始めた。
【パンピンプンペンポン♪
『ブラックスワン』、開発チームです。
『魔王・マオ』は、クロウ、リノ、エリー、フェイによって倒されました。
勝利者に祝福を。
『シーズン3』はこれで終了となります。
このサーバーは二十四時間以内に停止されるので、
プレイヤーの皆さんは用事が済み次第ログアウトしてください。
以上、システムメッセージでした。
パンピンプンペンポン♪】
「あれ? 終わり?」
クロウは驚いてみんなの顔を見た。
「そうみたいですね。私達が勝ったみたいです」
リノは微笑んで言った。
「全く、人騒がせだな……」
エリーは立ち上がり、みんなのほうへ歩いて行く。
「これでウチらが賞金ゲットだね」
フェイも喜んでそう言った。
……こうして彼らはシーズン3の勝利者となり、リベルタスの街に凱旋した。
一行はリベルタスの街へ戻ると、祝宴をあげた。
彼らのギルド拠点には大勢の人が詰めかけ、中に人が入りきれないので、街中がお祭りのような騒ぎになった。
過去に一緒に戦った者達、グレイス、ウィグラフ、ヒナ、ドルフなども、そこへ顔を出し、四人を祝った。
その祝宴はサーバーが閉じるまで続き。そこにいた全員が大きく楽しんだ。
ついに四人は『シーズン3』の勝利者となり、見事賞金を獲得したのであった……。
――第一部・完
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