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中学編。
なくしたもの 6
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湊斗が迷子の幼い子供のように見えた。ずっと探して待っていた人に出会えて安堵した表情を浮かべ梅と名乗った年配の女性に抱き締められている。
ハリスと勇治はその光景をそっと見守っていた。
友達、になりつつある関係であり、穏やかなこの場では言葉を発するには不適切なように感じてハリスは13歳にして初めて遠慮、というマナーを知った。
梅がもし湊斗を罵ることがあったら話は別であったが、そんな悲しいことにはならなくて安心する。
映画のワンシーンのような目の前の美しい光景。
話の内容は駆け落ちとか、中々ヘビーな内容であったが嫌な人間の1面が面に出ていない。
(血の繋がったばーちゃんと孫みたい。湊斗の生い立ちが見えてきちゃった。どーしよ…つか、俺も湊斗をぎゅうってしたい!)
涙で睫毛を重くしている儚い湊斗の横顔は可憐な少女達よりも花に例えるのが似合っている。
強く咲き誇る1輪の花。
嵐に負けないように、たった一人でぐっと土に根を張って咲いている。いつも湊斗は窓の外を眺めていた。心を現実から逃がすように…それが美しくもあり悲しかった。
今の湊斗は幼い無垢な心を剥き出しにしている。
母親を亡くした傷は深く、その痛みを堪えてなくしたものが大切なのにそれがなくても平気な顔をしていた。
母を知る人物に出会って漸く湊斗はなくしたものをなくなって悲しいと泣けたのだ。
心が自分では傷ついていると気づけない時もある。
ハリスは湊斗を眺めて胸がきゅん、と締め付けられる感覚を感じていた。
(あー、なんで俺は女の子の恰好をしているんだ!)
声を外に出していない分、ハリスの心の中は騒がしい。もし、女装していなかったら格好よく抱き締めて……と妄想仕掛けて我に返る。
(いやいや、俺が俺だとしても湊斗を抱き締められないじゃん。恋人じゃああるまいし…って、恋人…)
カアーっとハリスの顔が赤くなる。湊斗とキスをする等々破廉恥な妄想をしてしまい、ぶんぶんと顔を横に振って低く唸る。百面相を一人でしているのを自覚している。湊斗と出会ってからハリスは心を乱されることが多くなった。
一人で妄想する趣味なんかなかったのに。
(俺、湊斗とやっぱり恋人同士になりたいのかぁ)
やっぱりなぁ、と納得する。
湊斗と梅は携帯電話を取り出すと連絡先を交換していた。今時のお年寄りはLINEもお手の物。使いこなしている。
「おばあちゃん、ここに居たんだ!」
一人の男の子が梅の元へ駆け寄ってきた。意思の強そうな腕白小僧っていう感じ。ハリスと目が合うとぽーと見つめると段々と頬が赤くなる。ほんのりと頬を赤らめた。
「こ、こんにちは…いいお天気ですね。俺、斎藤弘毅っていいます!小学5年生!よかったらお姉さんのお名前を教えてください」
勢いよく弘毅はハリスに挨拶する。
(あ、やべぇ初恋されちゃった感じ?)
「私は七原はり美よ。中学1年生のお姉さんだわよ」
名乗れと言われたら名乗るしかない。声を上擦らせてハリスは名乗った。
ハリスの女の子なりきり度が低迷しているため何だか残念な事になっている。
「はり美さん!俺、…いえ、僕と結婚を前提におつきあいしてください!」
突然のプロポーズ。初めてのプロポーズ。しかもそれは女装時で同性で年下。
そして、そして、弘毅にとっての初めてのプロポーズは本人が気づいていたいが同性である。ハリスは汗を掻いていた。
「わ、私は湊斗君とお付き合いしておりますのよ!ね?湊斗君!」
ハリスは湊斗の腕をぎゅ、っと掴んで抱き付いた。しんみりと温かな空気が崩れる。
涙が滲んできらきらと光っている瞳を丸くして湊斗は驚くが、設定を思い出して言葉を発せずにこくりと頷いた。
「……美人!で、でも俺は負けない。絶対はり美と付き合ってみせる。俺の女にするからな!って、いてぇよ、おばあちゃん」
湊斗の顔を見て弘毅は頬を赤くする。ハリスは明るく目立つタイプの華やかな美しさを持つが湊斗は日陰にそっと咲く儚さを持つ美しさを持っている。
孫の頭をこれ、と言って梅は軽く叩いた。
「俺の女、なんて乱暴な言葉はおやめなさい。そろそろ迎えに来る時間ね。帰りますよ」
梅は時計をちらり、と見て弘毅の手をやんわりと掴んだ。
「では、湊斗さん。いつでも連絡して下さい。私にできることがあったら何でも言ってくださいね。」
「梅さん、ありがとうございます」
二人を見送ると何となく静かになった。
何度も弘毅は未練たらしく振り向いてハリスを見ていた。
「おい、妹よ」
勇治がなんとも言えない顔でハリスに声をかける。
「なによ、お兄ちゃん。分かってるわよ。私が罪深い女だってことは!」
ハリスが頭を抱えて叫んだ。純粋な男の子の恋心を結果弄ぶことになった、もう彼は2度とはり美には会えない。
はり美はハリスの女装の姿。幻の女の子なのだから。
湊斗が迷子の幼い子供のように見えた。ずっと探して待っていた人に出会えて安堵した表情を浮かべ梅と名乗った年配の女性に抱き締められている。
ハリスと勇治はその光景をそっと見守っていた。
友達、になりつつある関係であり、穏やかなこの場では言葉を発するには不適切なように感じてハリスは13歳にして初めて遠慮、というマナーを知った。
梅がもし湊斗を罵ることがあったら話は別であったが、そんな悲しいことにはならなくて安心する。
映画のワンシーンのような目の前の美しい光景。
話の内容は駆け落ちとか、中々ヘビーな内容であったが嫌な人間の1面が面に出ていない。
(血の繋がったばーちゃんと孫みたい。湊斗の生い立ちが見えてきちゃった。どーしよ…つか、俺も湊斗をぎゅうってしたい!)
涙で睫毛を重くしている儚い湊斗の横顔は可憐な少女達よりも花に例えるのが似合っている。
強く咲き誇る1輪の花。
嵐に負けないように、たった一人でぐっと土に根を張って咲いている。いつも湊斗は窓の外を眺めていた。心を現実から逃がすように…それが美しくもあり悲しかった。
今の湊斗は幼い無垢な心を剥き出しにしている。
母親を亡くした傷は深く、その痛みを堪えてなくしたものが大切なのにそれがなくても平気な顔をしていた。
母を知る人物に出会って漸く湊斗はなくしたものをなくなって悲しいと泣けたのだ。
心が自分では傷ついていると気づけない時もある。
ハリスは湊斗を眺めて胸がきゅん、と締め付けられる感覚を感じていた。
(あー、なんで俺は女の子の恰好をしているんだ!)
声を外に出していない分、ハリスの心の中は騒がしい。もし、女装していなかったら格好よく抱き締めて……と妄想仕掛けて我に返る。
(いやいや、俺が俺だとしても湊斗を抱き締められないじゃん。恋人じゃああるまいし…って、恋人…)
カアーっとハリスの顔が赤くなる。湊斗とキスをする等々破廉恥な妄想をしてしまい、ぶんぶんと顔を横に振って低く唸る。百面相を一人でしているのを自覚している。湊斗と出会ってからハリスは心を乱されることが多くなった。
一人で妄想する趣味なんかなかったのに。
(俺、湊斗とやっぱり恋人同士になりたいのかぁ)
やっぱりなぁ、と納得する。
湊斗と梅は携帯電話を取り出すと連絡先を交換していた。今時のお年寄りはLINEもお手の物。使いこなしている。
「おばあちゃん、ここに居たんだ!」
一人の男の子が梅の元へ駆け寄ってきた。意思の強そうな腕白小僧っていう感じ。ハリスと目が合うとぽーと見つめると段々と頬が赤くなる。ほんのりと頬を赤らめた。
「こ、こんにちは…いいお天気ですね。俺、斎藤弘毅っていいます!小学5年生!よかったらお姉さんのお名前を教えてください」
勢いよく弘毅はハリスに挨拶する。
(あ、やべぇ初恋されちゃった感じ?)
「私は七原はり美よ。中学1年生のお姉さんだわよ」
名乗れと言われたら名乗るしかない。声を上擦らせてハリスは名乗った。
ハリスの女の子なりきり度が低迷しているため何だか残念な事になっている。
「はり美さん!俺、…いえ、僕と結婚を前提におつきあいしてください!」
突然のプロポーズ。初めてのプロポーズ。しかもそれは女装時で同性で年下。
そして、そして、弘毅にとっての初めてのプロポーズは本人が気づいていたいが同性である。ハリスは汗を掻いていた。
「わ、私は湊斗君とお付き合いしておりますのよ!ね?湊斗君!」
ハリスは湊斗の腕をぎゅ、っと掴んで抱き付いた。しんみりと温かな空気が崩れる。
涙が滲んできらきらと光っている瞳を丸くして湊斗は驚くが、設定を思い出して言葉を発せずにこくりと頷いた。
「……美人!で、でも俺は負けない。絶対はり美と付き合ってみせる。俺の女にするからな!って、いてぇよ、おばあちゃん」
湊斗の顔を見て弘毅は頬を赤くする。ハリスは明るく目立つタイプの華やかな美しさを持つが湊斗は日陰にそっと咲く儚さを持つ美しさを持っている。
孫の頭をこれ、と言って梅は軽く叩いた。
「俺の女、なんて乱暴な言葉はおやめなさい。そろそろ迎えに来る時間ね。帰りますよ」
梅は時計をちらり、と見て弘毅の手をやんわりと掴んだ。
「では、湊斗さん。いつでも連絡して下さい。私にできることがあったら何でも言ってくださいね。」
「梅さん、ありがとうございます」
二人を見送ると何となく静かになった。
何度も弘毅は未練たらしく振り向いてハリスを見ていた。
「おい、妹よ」
勇治がなんとも言えない顔でハリスに声をかける。
「なによ、お兄ちゃん。分かってるわよ。私が罪深い女だってことは!」
ハリスが頭を抱えて叫んだ。純粋な男の子の恋心を結果弄ぶことになった、もう彼は2度とはり美には会えない。
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