空想毒舌おとこ姫。

遊虎りん

文字の大きさ
上 下
16 / 21
中学編。

なくしたもの 6

しおりを挟む


湊斗が迷子の幼い子供のように見えた。ずっと探して待っていた人に出会えて安堵した表情を浮かべ梅と名乗った年配の女性に抱き締められている。
ハリスと勇治はその光景をそっと見守っていた。

友達、になりつつある関係であり、穏やかなこの場では言葉を発するには不適切なように感じてハリスは13歳にして初めて遠慮、というマナーを知った。
梅がもし湊斗を罵ることがあったら話は別であったが、そんな悲しいことにはならなくて安心する。

映画のワンシーンのような目の前の美しい光景。
話の内容は駆け落ちとか、中々ヘビーな内容であったが嫌な人間の1面が面に出ていない。

(血の繋がったばーちゃんと孫みたい。湊斗の生い立ちが見えてきちゃった。どーしよ…つか、俺も湊斗をぎゅうってしたい!)

涙で睫毛を重くしている儚い湊斗の横顔は可憐な少女達よりも花に例えるのが似合っている。
強く咲き誇る1輪の花。
嵐に負けないように、たった一人でぐっと土に根を張って咲いている。いつも湊斗は窓の外を眺めていた。心を現実から逃がすように…それが美しくもあり悲しかった。

今の湊斗は幼い無垢な心を剥き出しにしている。
母親を亡くした傷は深く、その痛みを堪えてなくしたものが大切なのにそれがなくても平気な顔をしていた。
母を知る人物に出会って漸く湊斗はなくしたものをなくなって悲しいと泣けたのだ。
心が自分では傷ついていると気づけない時もある。

ハリスは湊斗を眺めて胸がきゅん、と締め付けられる感覚を感じていた。

(あー、なんで俺は女の子の恰好をしているんだ!)

声を外に出していない分、ハリスの心の中は騒がしい。もし、女装していなかったら格好よく抱き締めて……と妄想仕掛けて我に返る。

(いやいや、俺が俺だとしても湊斗を抱き締められないじゃん。恋人じゃああるまいし…って、恋人…)

カアーっとハリスの顔が赤くなる。湊斗とキスをする等々破廉恥な妄想をしてしまい、ぶんぶんと顔を横に振って低く唸る。百面相を一人でしているのを自覚している。湊斗と出会ってからハリスは心を乱されることが多くなった。

一人で妄想する趣味なんかなかったのに。

(俺、湊斗とやっぱり恋人同士になりたいのかぁ)

やっぱりなぁ、と納得する。
湊斗と梅は携帯電話を取り出すと連絡先を交換していた。今時のお年寄りはLINEもお手の物。使いこなしている。

「おばあちゃん、ここに居たんだ!」

一人の男の子が梅の元へ駆け寄ってきた。意思の強そうな腕白小僧っていう感じ。ハリスと目が合うとぽーと見つめると段々と頬が赤くなる。ほんのりと頬を赤らめた。

「こ、こんにちは…いいお天気ですね。俺、斎藤弘毅っていいます!小学5年生!よかったらお姉さんのお名前を教えてください」

勢いよく弘毅はハリスに挨拶する。

(あ、やべぇ初恋されちゃった感じ?)

「私は七原はり美よ。中学1年生のお姉さんだわよ」

名乗れと言われたら名乗るしかない。声を上擦らせてハリスは名乗った。
ハリスの女の子なりきり度が低迷しているため何だか残念な事になっている。

「はり美さん!俺、…いえ、僕と結婚を前提におつきあいしてください!」

突然のプロポーズ。初めてのプロポーズ。しかもそれは女装時で同性で年下。
そして、そして、弘毅にとっての初めてのプロポーズは本人が気づいていたいが同性である。ハリスは汗を掻いていた。

「わ、私は湊斗君とお付き合いしておりますのよ!ね?湊斗君!」

ハリスは湊斗の腕をぎゅ、っと掴んで抱き付いた。しんみりと温かな空気が崩れる。
涙が滲んできらきらと光っている瞳を丸くして湊斗は驚くが、設定を思い出して言葉を発せずにこくりと頷いた。

「……美人!で、でも俺は負けない。絶対はり美と付き合ってみせる。俺の女にするからな!って、いてぇよ、おばあちゃん」

湊斗の顔を見て弘毅は頬を赤くする。ハリスは明るく目立つタイプの華やかな美しさを持つが湊斗は日陰にそっと咲く儚さを持つ美しさを持っている。
孫の頭をこれ、と言って梅は軽く叩いた。

「俺の女、なんて乱暴な言葉はおやめなさい。そろそろ迎えに来る時間ね。帰りますよ」

梅は時計をちらり、と見て弘毅の手をやんわりと掴んだ。

「では、湊斗さん。いつでも連絡して下さい。私にできることがあったら何でも言ってくださいね。」

「梅さん、ありがとうございます」

二人を見送ると何となく静かになった。
何度も弘毅は未練たらしく振り向いてハリスを見ていた。

「おい、妹よ」

勇治がなんとも言えない顔でハリスに声をかける。

「なによ、お兄ちゃん。分かってるわよ。私が罪深い女だってことは!」

ハリスが頭を抱えて叫んだ。純粋な男の子の恋心を結果弄ぶことになった、もう彼は2度とはり美には会えない。

はり美はハリスの女装の姿。幻の女の子なのだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL短編まとめ(甘い話多め)

白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。 主に10000文字前後のお話が多いです。 性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。 性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。 (※性的描写のないものは各話上部に書いています) もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。 その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。 【不定期更新】 ※性的描写を含む話には「※」がついています。 ※投稿日時が前後する場合もあります。 ※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。 ■追記 R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます) 誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...