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真っ直ぐな忠犬みたいな真摯な瞳が私をうつしている。
一番、古い記憶から変わらない幼馴染み。

「俺は宮崎柊さんが好きです。幼馴染み兼彼氏彼女になりたいです。」

穏やかで揺るぎない涼太の声。
緊張の気配がない、ずっと前からの想いが込められた意志がある声だ。
私は戸惑った。ごくり、と唾を飲み込む。

「ごめん、好きかわかんない。幼馴染みとして好きだけど、彼女的に好きかっていうとわからない。」

涼太はどんな時も側に居てくれた。
私はとても我儘で面倒な人間なのに、泣きそうになって唇を噛み締めている時、涼太は一番最初に駆け寄ってきてくれて「泣いてもいいんだよ」と頭を撫でてくれるのだ。

私も涼太が好きだ、大好きだ。

でも、彼女とはキスとかそれ以上、ちょめちょめするものである。

あの少女漫画やドラマが本当なら……。

私は女の子と自分を思ってもいないし、全然女子力がない。果たして、涼太の彼女として接することができるのだろうか。
自信がないし、彼女になる覚悟が足りない状態でお付き合いしたら涼太を傷つけてしまうのではなかろうか。

「じゃあ、柊ちゃんのここが俺にきゅんってしたら教えてください。」

眉をハの字に下げて唸り出した私を見て涼太が笑った。
そして、指鉄砲を作って私の胸元にむけて言った。

「俺が柊ちゃんを幸せにしたいし守りたいです。だから、この世で唯一柊ちゃんの乙女スイッチを押せる男になります。」

きゅん、となりかける。
私は慌てて話題を変えた。

「私の男性のタイプは髭のおっさんだぞ」

「好きなタイプと結婚する人は違うって俺の姉ちゃんが言ってました。」

20時だ。母が帰宅する時間。ベンチから立ち上がるとマンションへと歩き始めた。

「涼太、じゃん。彼女連れとか生意気じゃん」

分かりやすい絡み方だ。
いかにも不良少年が目の前に現れた。

「柿崎、お前には関係ないだろ」

涼太は私以外に対する言葉使いと態度が滅法悪い。柿崎と呼ばれた少年が涼太の低い声と睨みに一瞬怯んだのが分かった。

「柿崎さん、私は宮崎柊といいます。涼太の幼馴染みで彼女ではございません。」

一応、訂正する。

「柿崎さんって呼ばれるとかうける。かっきーって気軽に呼んじゃって。うざ絡みしちゃってめーんご。」

手を合わせて柿崎が謝った。
金髪でナイフを隠し持っていそう、と偏見を持ったことを心の中で謝ろう。こちらこそごめんなさい。

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