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プロローグ
ヨリ婆ちゃん 1
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「ヨリさん、今日も元気ですね!」
「まーねぇ、私がしょんぼりしてたらただのしわくちゃだからね!」
ここは特別養護老人ホーム『さくらもち』。20代の若い介護職員で成り立ち職場は溌剌としている。もちろん、ベテランの年の功を発揮している職員もいて、上手く均衡が保たれている。職員間の連携が取れているとそこに住む利用者も安心して残りの人生を過ごせる。
御年、102才になられる佐々木ヨリは昼食が終わった食堂ホールのテーブルでおしぼりを畳んでいた。
ただぼんやりと過ごしたらボケる、と担当してくれる職員に仕事をねだったのだ。
ヨリはこの施設では最高齢だが、入所したのはほんの一週間前であり、同じテーブルで食事をする共にする3人の先輩の名前を覚えたばかりである。
話しかけても、「黄色い花だば、食べられねえど!」と何やら怒っているおじいさん、「めし、おらのめし!」と食事をしたばかりなのにご飯を催促するおばあさん、そんな予想外の反応をする方々ばかりでヨリは少し気を落ちしていた。
(いい友達が出来ると思ったんだけどねえ)
友達どころかちょっとした話し相手も作るのが困難そうだ。
おしぼりをピンク色のカゴの中に整然と入れる。そして、カゴを膝の上に置くとまだ慣れない車椅子を操縦して寮母室へと向かった。
「ごめんください。佐々木です、おしぼりをお持ちしました」
どうしても寮母室を訪ねるときはよそ行きの声が出る。
すると寮母室の中でパソコンを使い作業していた小林主任がヨリの声に気付いて手を止める。椅子からよっこらしょ、と声を洩らすとこちらに来てくれた。
「わざわざどうもありがとうございます、ヨリさん。ここの生活には慣れましたか?」
小林主任がヨリの膝に置かれたカゴをありがたい、と手を合わせてから受け取り、ヨリの事を気にかけてくれた。
「ええ、おかげさまで」
ヨリはにこやかに微笑んで頷いた。こちらを心配してくれる年下の
男は可愛いもんだ、と心の中で笑った。よもや、52才の恰幅がよいおじさんの自分が可愛いと思われているとは小林主任は少しも思わないであろう。
「それはよかった。明日はカラオケ大会です、ヨリさんは歌は好きですか?」
「ええまぁ、最近は星野源を聴きます。先に逝った主人と源ちゃんの顔と声がそっくりで」
「へえ、ヨリさん、2度目の恋ですか?」
「うふふふ」
のんびりと会話を楽しんでいたら、小林主任!おむつ交換の時間でーす!参戦お願いしまーす!と最近、彼女が出来た睦月君に呼ばれる。
では、また!と小林主任がおむつ交換に参戦するのを見送るとヨリは自室に向かった。明日のカラオケ大会が楽しみだ。
「まーねぇ、私がしょんぼりしてたらただのしわくちゃだからね!」
ここは特別養護老人ホーム『さくらもち』。20代の若い介護職員で成り立ち職場は溌剌としている。もちろん、ベテランの年の功を発揮している職員もいて、上手く均衡が保たれている。職員間の連携が取れているとそこに住む利用者も安心して残りの人生を過ごせる。
御年、102才になられる佐々木ヨリは昼食が終わった食堂ホールのテーブルでおしぼりを畳んでいた。
ただぼんやりと過ごしたらボケる、と担当してくれる職員に仕事をねだったのだ。
ヨリはこの施設では最高齢だが、入所したのはほんの一週間前であり、同じテーブルで食事をする共にする3人の先輩の名前を覚えたばかりである。
話しかけても、「黄色い花だば、食べられねえど!」と何やら怒っているおじいさん、「めし、おらのめし!」と食事をしたばかりなのにご飯を催促するおばあさん、そんな予想外の反応をする方々ばかりでヨリは少し気を落ちしていた。
(いい友達が出来ると思ったんだけどねえ)
友達どころかちょっとした話し相手も作るのが困難そうだ。
おしぼりをピンク色のカゴの中に整然と入れる。そして、カゴを膝の上に置くとまだ慣れない車椅子を操縦して寮母室へと向かった。
「ごめんください。佐々木です、おしぼりをお持ちしました」
どうしても寮母室を訪ねるときはよそ行きの声が出る。
すると寮母室の中でパソコンを使い作業していた小林主任がヨリの声に気付いて手を止める。椅子からよっこらしょ、と声を洩らすとこちらに来てくれた。
「わざわざどうもありがとうございます、ヨリさん。ここの生活には慣れましたか?」
小林主任がヨリの膝に置かれたカゴをありがたい、と手を合わせてから受け取り、ヨリの事を気にかけてくれた。
「ええ、おかげさまで」
ヨリはにこやかに微笑んで頷いた。こちらを心配してくれる年下の
男は可愛いもんだ、と心の中で笑った。よもや、52才の恰幅がよいおじさんの自分が可愛いと思われているとは小林主任は少しも思わないであろう。
「それはよかった。明日はカラオケ大会です、ヨリさんは歌は好きですか?」
「ええまぁ、最近は星野源を聴きます。先に逝った主人と源ちゃんの顔と声がそっくりで」
「へえ、ヨリさん、2度目の恋ですか?」
「うふふふ」
のんびりと会話を楽しんでいたら、小林主任!おむつ交換の時間でーす!参戦お願いしまーす!と最近、彼女が出来た睦月君に呼ばれる。
では、また!と小林主任がおむつ交換に参戦するのを見送るとヨリは自室に向かった。明日のカラオケ大会が楽しみだ。
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