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しおりを挟む月が煌々と地上を照らしている。夜の闇夜が怯え逃げているみたいだ、とキリトは夜空を見上げた。鋭くややつり上がり気味の瞳に丸い月の姿がうつり、光り輝かせていた。
「キリトの瞳、綺麗ね。お月様をうつしているよ」
艶を失った毛並み。痩せ細り目が窪んでいる。死期が近づいている母親が息子を誇らしげに見つめていた。
褒めることが最近多い。良い思い出を残していこうとしているみたいだ。キリトは母親から視線を逸らした。見ていられなかった。
「母さん、寝ていろよ。力がつくモノをとってくる」
「やめておくれ。お前が無理をして危険な目に遭うのは嫌だよ。母さんの側にいて、それだけで充分なんだよ」
「大丈夫、すぐ戻ってくるから」
心配する声が追いかけてくるが、キリトはそれを振り払って人里へと駆けていった。
生命を取り戻す薬草があるはずだ。人間は天から授かった寿命を、知恵で延ばしている。その力を借りたい。漸く狩りを上手くできるようになった。獲物を咥えて、肉を捌いて新鮮なうちに食べてもらうつもりが、母親はそれを噛んで引きちぎる力がない。
(……母さんにうまいものを喰わせたい。俺を生んで育ててくれた母さんにまだ何もしてない)
森に住む仲間は群れに来い、と何度も声をかけてくる。しかし、母親はそれを拒んでいた。猟師に撃たれた父親を見捨てた、と仲間を恨み信用する心をもてなかったからだ。
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