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第五章

☆3

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◇◇◇

かわっている、と寂しそうな辛そうな様子を見て、堪らない気持ちになりロゼは口を開いた。


「普通で当たり前って、人と同じだってそいつの思い込みだと俺は思う。例えば、みんな魚を食わねぇ。魚を嫌いで、食わないのがあたり前なんだと、思って食わないとする。でも、実際は魚を食いたいけど、魚を食べるのは魚が可哀相だとか、口内炎がいてえから好きだけど食えねえとか。魚を食べない理由は様々で。食わねぇのは普通だからって魚の前で、つーんとしてて、その様子を誰かが見てなんで、こいつは食わねぇの?っ変わってるなぁって思われてたりして」

自分は普通だと、信じて疑わない自分の母親。他人が自分と違うのを見つけると指差して、あなた、かわっているわね、と口元を扇で隠して笑う。
母親が笑うと周囲の取り巻きも笑う。気分が悪くなる、人を馬鹿にした笑い声。

ピンク色は苦手で、青い色が好き、と好きな色を問われ答えた新しく入ってきたメイド見習いは笑われて顔を赤くして震えていた。

笑うんじゃねえ!って、思わず叫んだけど、母親はきょとんとした顔で何を怒っているの?と首を傾げて笑った。
ロゼはその姿を思い出していた。

「別に普通って、正義でもいいことでもねぇじゃん。そんなの気にしないで、焼きたての魚をうまそうに食えばいいじゃんって思う。だけど、…そうも、いかねぇ時もあるのが、もどかしい」

母親は間違っていると思う。でも母親の違うから、と言って排除するような言動を自分を止めることはできない。今は。

「…俺は、かえてやりたい。変わっている事が、普通で…笑われるような事がないように、踏みにじられないように」

誰にも言えない、言っていない。むしろ、自分がこの先したい事など言わないようにしている。次期国王になる、という己の道を認めたくなかった。子供のように目を背けていた。
だが、そろそろ腹を括る必要がある。
初めてそう思った。
この小さなおじいちゃんのおかげである。変わっている事が怖い、なんて震える。きっと、この国にはそう怯える人々がたくさんいるはずだ。
小さな理由だけど、ロゼはそれを王になる基盤としようと心の中で誓った。

(…あんま、立派なたいそーな事でもねぇけどな)

ふと、ロゼは笑った。

「そうなったら、いいのう」

小さなおじいちゃんは頷いてぎゅ、と手を握ってくれた。不思議と力が湧き出てくる。
安心する。
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