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第一章 魔王
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鬱蒼と繁る木々が立ち並んでいる。
そこに道という道はない。
この国の人間は生まれながら魔力を持っていて邪魔なものが目の前にあったら、それを曲げたり、透明にしたり、形を変えて邪魔なものを省いて歩き、不便というものを感じない。
そうして普通の魔力を持つ者ならば、汗一つかかずに森の奥にたどり着く。
森の奥には白いペンキが所々剥がれている古い建物がある。命が惜しいものなら誰も近寄らぬ『魔王が眠る場所』であり、墓ではない。魔王は生きており実際に魔王が眠っている。
たまに、起きて趣味で料理を作ったり、楽器を奏でたりしている。勇者から世界征服をやめろ、と説得されいろいろあって納得し、今は隠居暮らしを自由気ままに楽しんでいるのだ。
魔王はすべての繋がりをたった。
人間も魔物も、同族とも関わるのが億劫だからだ。
建物にあるすべての窓は固く閉され新鮮な空気を、新しいものを拒絶していた。
それは突然破られる。
荒い息遣い、緊迫した足音。
静寂に包まれた空間を荒らすのは一匹のちっぽけな人の顔を持つ魔物だった。
その魔物は腹が膨らみ始めた頃から母親にいらない捨てる、と決められ生まれた瞬間ごみ屑のように湖へと捨てられた。
この世には我が子を愛せない、親になることを拒絶する者もいる。生まれたから仕方なく育てるものもいる。
愛情を注いでくれるのが当たり前だ、と思っている子供は幸せである。
その魔物は、名前を持たず人間達からアホウと呼ばれていた。
アホウは言葉をもたず、腹が減ると同じ畑のキャベツを盗んで食べようとする。
同じ畑のキャベツを狙うので当然、その対策はとられておりアホウはキャベツを盗めずその畑の持ち主に殴られる。生命力だけは強いアホウは数百年食わずとも死ぬことはないし、殴られても傷はすぐに回復した。
しかし、学習能力はなかった。
自業自得だと鼻で嗤われ白い目で見られる。誰もアホウを庇ったりしない。
アホウもそれを期待してはいない。
なぜ、自分が殴られるかも分かっていないし、美味しいキャベツをまた食べたいという気持ちしかアホウの小さな頭にはなかった。
「……はふぅ~、はぁはぁ……」
髪の隙間から大量の汗が流れてきた。アホウはそれを手の甲で拭い城の壁に背中をつけた。
心臓がどくん、どくん、と大きく脈打っている。
キャベツを盗もうとしたアホウを殴って憂さ晴らしをしようと追いかけ回す人間達を巻いてアホウは胸を撫で下ろした。
殴られても死ぬことはないが、痛いのは苦手だった。
ぽつり、と雨の雫がアホウの頬を濡らす。
空を見上げると真っ黒になっていて雷がゴロゴロと鳴っていた。
アホウは雨で濡れるのは嫌だった。
固く閉ざされた窓を力によってぶち破り、城の中へと汚く薄汚れた小さなみすぼらしい身体を捩じ込んだ。
魔王が眠るとは知らなかったし、死ぬのが怖いなど考えたこともなかった。
アホウはまぎれもなく阿保だった。
そこに道という道はない。
この国の人間は生まれながら魔力を持っていて邪魔なものが目の前にあったら、それを曲げたり、透明にしたり、形を変えて邪魔なものを省いて歩き、不便というものを感じない。
そうして普通の魔力を持つ者ならば、汗一つかかずに森の奥にたどり着く。
森の奥には白いペンキが所々剥がれている古い建物がある。命が惜しいものなら誰も近寄らぬ『魔王が眠る場所』であり、墓ではない。魔王は生きており実際に魔王が眠っている。
たまに、起きて趣味で料理を作ったり、楽器を奏でたりしている。勇者から世界征服をやめろ、と説得されいろいろあって納得し、今は隠居暮らしを自由気ままに楽しんでいるのだ。
魔王はすべての繋がりをたった。
人間も魔物も、同族とも関わるのが億劫だからだ。
建物にあるすべての窓は固く閉され新鮮な空気を、新しいものを拒絶していた。
それは突然破られる。
荒い息遣い、緊迫した足音。
静寂に包まれた空間を荒らすのは一匹のちっぽけな人の顔を持つ魔物だった。
その魔物は腹が膨らみ始めた頃から母親にいらない捨てる、と決められ生まれた瞬間ごみ屑のように湖へと捨てられた。
この世には我が子を愛せない、親になることを拒絶する者もいる。生まれたから仕方なく育てるものもいる。
愛情を注いでくれるのが当たり前だ、と思っている子供は幸せである。
その魔物は、名前を持たず人間達からアホウと呼ばれていた。
アホウは言葉をもたず、腹が減ると同じ畑のキャベツを盗んで食べようとする。
同じ畑のキャベツを狙うので当然、その対策はとられておりアホウはキャベツを盗めずその畑の持ち主に殴られる。生命力だけは強いアホウは数百年食わずとも死ぬことはないし、殴られても傷はすぐに回復した。
しかし、学習能力はなかった。
自業自得だと鼻で嗤われ白い目で見られる。誰もアホウを庇ったりしない。
アホウもそれを期待してはいない。
なぜ、自分が殴られるかも分かっていないし、美味しいキャベツをまた食べたいという気持ちしかアホウの小さな頭にはなかった。
「……はふぅ~、はぁはぁ……」
髪の隙間から大量の汗が流れてきた。アホウはそれを手の甲で拭い城の壁に背中をつけた。
心臓がどくん、どくん、と大きく脈打っている。
キャベツを盗もうとしたアホウを殴って憂さ晴らしをしようと追いかけ回す人間達を巻いてアホウは胸を撫で下ろした。
殴られても死ぬことはないが、痛いのは苦手だった。
ぽつり、と雨の雫がアホウの頬を濡らす。
空を見上げると真っ黒になっていて雷がゴロゴロと鳴っていた。
アホウは雨で濡れるのは嫌だった。
固く閉ざされた窓を力によってぶち破り、城の中へと汚く薄汚れた小さなみすぼらしい身体を捩じ込んだ。
魔王が眠るとは知らなかったし、死ぬのが怖いなど考えたこともなかった。
アホウはまぎれもなく阿保だった。
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