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第1章
33 心の汗
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「ありがとうございます!何だか心が救われました。私でも蕾を持っているって言ってもらえて、嬉しかったです」
翠は深々と頭を下げてお礼を言った。
すると、クリファスは翠に近寄ると優しい手つきで顔をあげさせる。
腰を抱いて翠を至近距離で見つめた。
顔が近くて恥ずかしい。
「お礼は君の口付けがいいな」
え、と翠は赤い顔で驚く。何かの冗談だろう、と思うが確実にクリファスの端正な顔立ちが近づいてくる。唇が触れてしまう距離になり翠の口からいや、と声が出た。
「ここにもスケベが…初対面でキスとか破廉恥過ぎるだろ」
めり、とクリファスから引き離された。
初めてのキスが守られてほっと胸を撫で下ろした。何だかよく分からないうちに唇を奪われるのは嫌だった。
助けてくれたのはライゼだ。
翠を自分の後ろに隠してクリファスを睨み付けて低く唸っている。
不機嫌全開の顔だ。
「ふふ、すまないね。王子様が乙女を助けるところが見たかったのだよ」
メリンダと血の繋がった兄妹だ。恋のときめき、をこよなく愛しているらしいが迷惑な話である。
ライゼがいるのを知って悪戯を仕掛けたらしいが、冗談が過ぎる。
「…気色悪い冗談やめろ。ミドリにちゃんと謝れ。トラウマになったらどうするんだよ」
「……そうだね、申し訳ないことをした。君の唇を奪う真似をして怖がらせてしまった」
本気でライゼは怒っていた。は、とした顔をしてライゼに叱られるとクリファスは、しゅんと肩を小さくして謝った。心底反省していると分かる。
「驚いたけど、大丈夫です」
キスされたわけでもないし、クリファスは反省しているし、翠は許した。
「…ミドリ、お前は急に走って逃げるなよ。心配するだろ」
ライゼの言葉で翠を追いかけてくれた事が分かった。今度は翠がしゅんとなる。
「心配かけてごめんなさい」
「……俺はお前の事、嫌いじゃない。邪心竜に名前をつけようなんて今まで誰も考えてなかった。お前の魂がゆりかごになって眠らせているんだろう…ミドリは、ミドリの魂はずっと優しい、お前の魂は壊させない。俺が守る」
翠が瞳に向かって放った言葉をライゼはずっと気にかけてくれていた。
思いがけないライゼの言葉に翠の目から涙が溢れた。ぽろり、と目尻から一滴こぼれ落ちる。
「……感激してしまって、心の汗が止まりません」
「乙女の心の汗は美しいね。その汗で蕾が綻ぶだろう。これを使いたまえ」
クリファスはポケットからハンカチを取り出すと翠に差し出した。有り難く受け取り目元の涙を拭いた。
「お前の魂の話は伝説になっている。城に戻ったらそれが載っている本を見せてやるよ…あれがミドリの前世の事なのか」
「で、伝説…って、…?」
翠は目を丸くした。驚いて涙が止まる。
赤ちゃんの頃の話を両親にされるだけで恥ずかしいのに、生まれる前の自分の人生が伝説になっているとは。物凄く恥ずかしい。何を語り継がれているのか気になる。
翠は深々と頭を下げてお礼を言った。
すると、クリファスは翠に近寄ると優しい手つきで顔をあげさせる。
腰を抱いて翠を至近距離で見つめた。
顔が近くて恥ずかしい。
「お礼は君の口付けがいいな」
え、と翠は赤い顔で驚く。何かの冗談だろう、と思うが確実にクリファスの端正な顔立ちが近づいてくる。唇が触れてしまう距離になり翠の口からいや、と声が出た。
「ここにもスケベが…初対面でキスとか破廉恥過ぎるだろ」
めり、とクリファスから引き離された。
初めてのキスが守られてほっと胸を撫で下ろした。何だかよく分からないうちに唇を奪われるのは嫌だった。
助けてくれたのはライゼだ。
翠を自分の後ろに隠してクリファスを睨み付けて低く唸っている。
不機嫌全開の顔だ。
「ふふ、すまないね。王子様が乙女を助けるところが見たかったのだよ」
メリンダと血の繋がった兄妹だ。恋のときめき、をこよなく愛しているらしいが迷惑な話である。
ライゼがいるのを知って悪戯を仕掛けたらしいが、冗談が過ぎる。
「…気色悪い冗談やめろ。ミドリにちゃんと謝れ。トラウマになったらどうするんだよ」
「……そうだね、申し訳ないことをした。君の唇を奪う真似をして怖がらせてしまった」
本気でライゼは怒っていた。は、とした顔をしてライゼに叱られるとクリファスは、しゅんと肩を小さくして謝った。心底反省していると分かる。
「驚いたけど、大丈夫です」
キスされたわけでもないし、クリファスは反省しているし、翠は許した。
「…ミドリ、お前は急に走って逃げるなよ。心配するだろ」
ライゼの言葉で翠を追いかけてくれた事が分かった。今度は翠がしゅんとなる。
「心配かけてごめんなさい」
「……俺はお前の事、嫌いじゃない。邪心竜に名前をつけようなんて今まで誰も考えてなかった。お前の魂がゆりかごになって眠らせているんだろう…ミドリは、ミドリの魂はずっと優しい、お前の魂は壊させない。俺が守る」
翠が瞳に向かって放った言葉をライゼはずっと気にかけてくれていた。
思いがけないライゼの言葉に翠の目から涙が溢れた。ぽろり、と目尻から一滴こぼれ落ちる。
「……感激してしまって、心の汗が止まりません」
「乙女の心の汗は美しいね。その汗で蕾が綻ぶだろう。これを使いたまえ」
クリファスはポケットからハンカチを取り出すと翠に差し出した。有り難く受け取り目元の涙を拭いた。
「お前の魂の話は伝説になっている。城に戻ったらそれが載っている本を見せてやるよ…あれがミドリの前世の事なのか」
「で、伝説…って、…?」
翠は目を丸くした。驚いて涙が止まる。
赤ちゃんの頃の話を両親にされるだけで恥ずかしいのに、生まれる前の自分の人生が伝説になっているとは。物凄く恥ずかしい。何を語り継がれているのか気になる。
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