上 下
36 / 47
第1章

31 恋話

しおりを挟む
「子供を生まないといけないんです」

真面目な顔で翠は言った。口下手であり、説明するのが苦手である。双子の弟がここにいれば根掘り葉掘り聞いてくれて事の全貌が明らかになるのだが、ここにはいない。
限りなく100パーセントに近い確率で誤解が生じてしまうだろう。

ぶは、っとライゼは紅茶を吹き出した。身長が高くもう大人と並んでも可笑しくないが、まだ初な少年なのだ。

「…まあ!翠は身も心も結ばれた殿方がいらっしゃるの?」

翠の言葉に食らい付いたのはメリンダだ。
メリンダの瞳がキラキラと輝いている。恋を夢見る年頃の娘で恋ばなが大好きなのだ。

「え!あ、の…そんな殿方とかいません!女神様になると一人でも子供がうめるんです」

「そんなのだめですわ。この世界には男と女がいるのよ、恋をして愛を育んで可愛らしい二人の愛の結晶をうんで育てるのよ!」

ぐっ、とメリンダは拳を握り締めて熱く語りだした。お嬢様は止まらない。
賛成とばかりぱちぱち、と拍手が聞こえた。マドカだ。拍手を止めるとソファの後ろに立つと翠を後ろから抱き締める。

「…ミドリ、僕と愛を育んでみようか。ずっと君だけを見つめていたんだ。今度はミドリが僕だけを見てよ」

耳元で甘い声で囁かれて翠は顔を真っ赤にする。遊ばれている、むう、と低く唸った。
赤くなる翠をマドカは嬉しそうに見つめると、指でふに、と頬をつついて林檎みたいで可愛いと笑った。
翠を危険な目にあわせ、命を危うくさせてしまった。後悔と反省をした反動で好意を押さえられなくなっており、スキンシップが増している。

「てめぇの方がすけべだろ、アホ猫!」

先程のマドカの言葉をライゼが根に持っている。

「王子様は翠を一人の女性として見ていますの?」

メリンダはライゼを期待の眼差しで見つめた。恋物語にはライバルがつきもの。一人の女性をめぐって、二人の男性が取り合うという話が大好物なのだ。

「ちょっと待ってメリンダさん!ライゼ様を変なことに巻き込まないでください。マドカも私をからかっているだけだし、…私は恋とか愛とかそんなキラキラしたものは無縁なんです。嫌いだけが友達なんです」

ライゼが何かを言う前に翠が早口で捲し立てる。瞳には涙が浮かんでいる。言っていて悲しい。唯一無二だと思っていた幼馴染に嫌われていた事を知った。
友情、も育めていなかった。もはや、平凡な魂どころか極悪非道な真っ黒な魂なのではないか、と疑いそうになる。

「すみません!少し頭を冷やしてきます」

翠は居たたまれなくなりその場から逃げる。顔が真っ赤で熱い。変なことをまた口から出してしまった。一度言った言葉は消えることはないのに。

恋、愛、という話は苦手だ。憧れている。
素敵だと思う。
それを自分に結びつけるのは苦しい。魂がぎゅ、とする。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです! 投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

処理中です...