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第1章
31 恋話
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「子供を生まないといけないんです」
真面目な顔で翠は言った。口下手であり、説明するのが苦手である。双子の弟がここにいれば根掘り葉掘り聞いてくれて事の全貌が明らかになるのだが、ここにはいない。
限りなく100パーセントに近い確率で誤解が生じてしまうだろう。
ぶは、っとライゼは紅茶を吹き出した。身長が高くもう大人と並んでも可笑しくないが、まだ初な少年なのだ。
「…まあ!翠は身も心も結ばれた殿方がいらっしゃるの?」
翠の言葉に食らい付いたのはメリンダだ。
メリンダの瞳がキラキラと輝いている。恋を夢見る年頃の娘で恋ばなが大好きなのだ。
「え!あ、の…そんな殿方とかいません!女神様になると一人でも子供がうめるんです」
「そんなのだめですわ。この世界には男と女がいるのよ、恋をして愛を育んで可愛らしい二人の愛の結晶をうんで育てるのよ!」
ぐっ、とメリンダは拳を握り締めて熱く語りだした。お嬢様は止まらない。
賛成とばかりぱちぱち、と拍手が聞こえた。マドカだ。拍手を止めるとソファの後ろに立つと翠を後ろから抱き締める。
「…ミドリ、僕と愛を育んでみようか。ずっと君だけを見つめていたんだ。今度はミドリが僕だけを見てよ」
耳元で甘い声で囁かれて翠は顔を真っ赤にする。遊ばれている、むう、と低く唸った。
赤くなる翠をマドカは嬉しそうに見つめると、指でふに、と頬をつついて林檎みたいで可愛いと笑った。
翠を危険な目にあわせ、命を危うくさせてしまった。後悔と反省をした反動で好意を押さえられなくなっており、スキンシップが増している。
「てめぇの方がすけべだろ、アホ猫!」
先程のマドカの言葉をライゼが根に持っている。
「王子様は翠を一人の女性として見ていますの?」
メリンダはライゼを期待の眼差しで見つめた。恋物語にはライバルがつきもの。一人の女性をめぐって、二人の男性が取り合うという話が大好物なのだ。
「ちょっと待ってメリンダさん!ライゼ様を変なことに巻き込まないでください。マドカも私をからかっているだけだし、…私は恋とか愛とかそんなキラキラしたものは無縁なんです。嫌いだけが友達なんです」
ライゼが何かを言う前に翠が早口で捲し立てる。瞳には涙が浮かんでいる。言っていて悲しい。唯一無二だと思っていた幼馴染に嫌われていた事を知った。
友情、も育めていなかった。もはや、平凡な魂どころか極悪非道な真っ黒な魂なのではないか、と疑いそうになる。
「すみません!少し頭を冷やしてきます」
翠は居たたまれなくなりその場から逃げる。顔が真っ赤で熱い。変なことをまた口から出してしまった。一度言った言葉は消えることはないのに。
恋、愛、という話は苦手だ。憧れている。
素敵だと思う。
それを自分に結びつけるのは苦しい。魂がぎゅ、とする。
真面目な顔で翠は言った。口下手であり、説明するのが苦手である。双子の弟がここにいれば根掘り葉掘り聞いてくれて事の全貌が明らかになるのだが、ここにはいない。
限りなく100パーセントに近い確率で誤解が生じてしまうだろう。
ぶは、っとライゼは紅茶を吹き出した。身長が高くもう大人と並んでも可笑しくないが、まだ初な少年なのだ。
「…まあ!翠は身も心も結ばれた殿方がいらっしゃるの?」
翠の言葉に食らい付いたのはメリンダだ。
メリンダの瞳がキラキラと輝いている。恋を夢見る年頃の娘で恋ばなが大好きなのだ。
「え!あ、の…そんな殿方とかいません!女神様になると一人でも子供がうめるんです」
「そんなのだめですわ。この世界には男と女がいるのよ、恋をして愛を育んで可愛らしい二人の愛の結晶をうんで育てるのよ!」
ぐっ、とメリンダは拳を握り締めて熱く語りだした。お嬢様は止まらない。
賛成とばかりぱちぱち、と拍手が聞こえた。マドカだ。拍手を止めるとソファの後ろに立つと翠を後ろから抱き締める。
「…ミドリ、僕と愛を育んでみようか。ずっと君だけを見つめていたんだ。今度はミドリが僕だけを見てよ」
耳元で甘い声で囁かれて翠は顔を真っ赤にする。遊ばれている、むう、と低く唸った。
赤くなる翠をマドカは嬉しそうに見つめると、指でふに、と頬をつついて林檎みたいで可愛いと笑った。
翠を危険な目にあわせ、命を危うくさせてしまった。後悔と反省をした反動で好意を押さえられなくなっており、スキンシップが増している。
「てめぇの方がすけべだろ、アホ猫!」
先程のマドカの言葉をライゼが根に持っている。
「王子様は翠を一人の女性として見ていますの?」
メリンダはライゼを期待の眼差しで見つめた。恋物語にはライバルがつきもの。一人の女性をめぐって、二人の男性が取り合うという話が大好物なのだ。
「ちょっと待ってメリンダさん!ライゼ様を変なことに巻き込まないでください。マドカも私をからかっているだけだし、…私は恋とか愛とかそんなキラキラしたものは無縁なんです。嫌いだけが友達なんです」
ライゼが何かを言う前に翠が早口で捲し立てる。瞳には涙が浮かんでいる。言っていて悲しい。唯一無二だと思っていた幼馴染に嫌われていた事を知った。
友情、も育めていなかった。もはや、平凡な魂どころか極悪非道な真っ黒な魂なのではないか、と疑いそうになる。
「すみません!少し頭を冷やしてきます」
翠は居たたまれなくなりその場から逃げる。顔が真っ赤で熱い。変なことをまた口から出してしまった。一度言った言葉は消えることはないのに。
恋、愛、という話は苦手だ。憧れている。
素敵だと思う。
それを自分に結びつけるのは苦しい。魂がぎゅ、とする。
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