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第3話
☆1
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物々しい雰囲気を纏った巨大な壁に囲まれた箱形の建物。軍事国家施設の一つ。国の道具である18体のキメラを収納している『街』である。
街、と呼ばれるが実際は雑魚寝出来る広いスペースがあるだけだ。今はほとんどのキメラが任務のため出払い閑散としている。
そこに一匹のキメラが任務を終えて戻ってきた。
鋭いが知的な瞳をしている狼だ。2本の足で立っている。身体は銀色の毛で覆われ2メートルを越えている巨漢。獣人の姿である。一番最初に作られたキメラであり、ファーストと呼ばれている。
「……ちびはまだ戻っていないのか」
雑魚寝スペースに行って、任務から戻ってきている筈の子猫のキメラの姿を探すが見当たらない。
(任務を頑張ったご褒美に毛繕いでもしてやろうと思ったのだが)
あの子は黒い毛玉のようなもふもふになりやすい。暇さえあればちびの身体を舐めてやっていた。
30年振りの最新作のキメラで、幼い体からは甘いミルクの香りがしてみんな、No.18の尻の匂いを嗅いでいた。嫌がる顔が可愛くてついつい執拗にして怒らして遊んでいた。
戦闘能力を重視し屈強な雄の遺伝子を採用して人工的に筋肉質で丈夫なキメラを作っていた。
しかし、研究を重ねて作られた子種を孕む事を最終的な目的として生まれたのがNo.18で猫科のキメラだった。
細くて白くて小さい、見たこともない雄のキメラ。
発情期を迎えてファーストは人間の女と初めて交尾をした。生殖の目的ではない。キメラと人間の雌では授精は成立しない。ただの発散。小さくて可愛いものが好きで、己の子供が欲しいと願っているファーストにとっては空しさだけが残った。
No.18を見た瞬間、衝撃が走った。
『ぼく、どこでねたらいいの?』
毛布を引っ張り、親指をしゃぶりながら不安そうな顔で雑魚寝スペースに来た。
筋トレやおやつにカップラーメンを食べたり自由にしていた、雄達は唖然としたものだ。あまりにも自分達と違いすぎる。
初めて覚醒してキメラの収納施設に送られた心細さで濡れた瞳と目があった。きゅん、と胸が締め付けられた。保護したい。
『…おいで、俺がここのボスだ。俺の側にいろ。守ってやる』
『ま、ま?』
こてん、と首を横に傾げてファーストを見つめる。耳が折れてまだよく聞こえていない。あどけない声でママと呼ばれると可愛くて悪い気はしなかった。
『ああ、俺が今日からお前のママになってやる。』
『…まま!』
ぱっと笑うとちびはファーストに駆け寄った。懐が一気に温かくなった。
街、と呼ばれるが実際は雑魚寝出来る広いスペースがあるだけだ。今はほとんどのキメラが任務のため出払い閑散としている。
そこに一匹のキメラが任務を終えて戻ってきた。
鋭いが知的な瞳をしている狼だ。2本の足で立っている。身体は銀色の毛で覆われ2メートルを越えている巨漢。獣人の姿である。一番最初に作られたキメラであり、ファーストと呼ばれている。
「……ちびはまだ戻っていないのか」
雑魚寝スペースに行って、任務から戻ってきている筈の子猫のキメラの姿を探すが見当たらない。
(任務を頑張ったご褒美に毛繕いでもしてやろうと思ったのだが)
あの子は黒い毛玉のようなもふもふになりやすい。暇さえあればちびの身体を舐めてやっていた。
30年振りの最新作のキメラで、幼い体からは甘いミルクの香りがしてみんな、No.18の尻の匂いを嗅いでいた。嫌がる顔が可愛くてついつい執拗にして怒らして遊んでいた。
戦闘能力を重視し屈強な雄の遺伝子を採用して人工的に筋肉質で丈夫なキメラを作っていた。
しかし、研究を重ねて作られた子種を孕む事を最終的な目的として生まれたのがNo.18で猫科のキメラだった。
細くて白くて小さい、見たこともない雄のキメラ。
発情期を迎えてファーストは人間の女と初めて交尾をした。生殖の目的ではない。キメラと人間の雌では授精は成立しない。ただの発散。小さくて可愛いものが好きで、己の子供が欲しいと願っているファーストにとっては空しさだけが残った。
No.18を見た瞬間、衝撃が走った。
『ぼく、どこでねたらいいの?』
毛布を引っ張り、親指をしゃぶりながら不安そうな顔で雑魚寝スペースに来た。
筋トレやおやつにカップラーメンを食べたり自由にしていた、雄達は唖然としたものだ。あまりにも自分達と違いすぎる。
初めて覚醒してキメラの収納施設に送られた心細さで濡れた瞳と目があった。きゅん、と胸が締め付けられた。保護したい。
『…おいで、俺がここのボスだ。俺の側にいろ。守ってやる』
『ま、ま?』
こてん、と首を横に傾げてファーストを見つめる。耳が折れてまだよく聞こえていない。あどけない声でママと呼ばれると可愛くて悪い気はしなかった。
『ああ、俺が今日からお前のママになってやる。』
『…まま!』
ぱっと笑うとちびはファーストに駆け寄った。懐が一気に温かくなった。
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