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◆判別してみました

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 孵卵器をサマンサさんとジッと見詰めること数分間。

「そろそろよね」
「そろそろですね」

 俺は孵卵器の蓋をソッと開けると、卵が綺麗に並んでいた。

「あれ、失敗したのかな?」

 そう思っていたら、『カサカサッ』『パリ……』と微かな音と共に卵の表面が揺れていたのに気付く。

「サマンサさん!」
「ケイン!」
「どういうことなんだ?」
『見たまんまなんだろ』
「だから、どういうことなんだよ!」
『ケイン、いつまでもオバさんと抱き合っていないで、この爺さんに説明してやれよ』
「あ……」

 ひよこの孵化がもうすぐ始まるところを目撃した俺とサマンサさんは思わず抱き合ってしまったが、カーネルさんはまだ何があったのか分からないようだ。

 そんなカーネルさんが気の毒になったマサオが俺に説明しろと言って来たが、今はひよこの誕生の瞬間から目が離せない。だから、カーネルさんはしばらく放置だ。

『爺さん、すまないな』
「……気にするな」

 卵の殻が中から割られ黄色い嘴を覗かせると同時に『ピヨ』と鳴き声も聞こえてきた。

「「生まれた!」」
「何? 生まれたのか!」
「「え? 何?」」

 俺とサマンサさんはひよこの誕生に思わず声を上げると、カーネルさんも俺が何をしていたのか分からないままだが、ひよこが生まれたのは分かったらしい。ついでにまだ言い合っていたヨサックさんとハンナさんも興味を惹かれたようだ。

「うわ……一羽生まれたと思ったら、次から次に……」
「うん、ケインの考え通りだね」
「なあ、いい加減に教えて貰えないか」
「あ~じゃあ、サマンサさん。ひよこのお世話はお任せするね」
「ああ、任せなさい。カーネルを頼むね」
「えっと、よければ俺達にも教えて欲しいかな」
「お願いします」

『ピヨピヨ』と大合唱の中、俺はサマンサさんに生まれたてのひよこのお世話をお願いすると、カーネルさんに説明しようとしていたら、さっきまで言い合っていたハズのヨサックさんとハンナさんが少しバツが悪そうに俺達が何をしていたのかと聞いて来た。

「ハンナさんはもういいの?」
「……恥ずかしい」
「ごめんね。ケイン君の言った通りだったよ」
「ヨサック!」
「あ、ゴメン」
「ヨサック、話を聞かないのなら……」
「ゴメン、カーネルさん。ほら、ハンナ」
「ごめんなさい」
「じゃあ、説明するね。えっとね……」

 俺はカーネルさんに分かるように噛み砕いて説明する。

「ハァ~なるほどな。そのいんべんとりってヤツの特性で有精卵かどうかが分かるっちゅうことか」
「うん、そうなんだ」
「でもよ、俺はその……なんだ。空間魔法は使えないぞ。だから、俺は十日間待つしかないってことだろ」
「あっそうか。でも、大丈夫。そんなこともあろうかと……」
「ん? 何をするつもりだ?」
「ちょっと、待っててね」

 俺は鶏卵が通るくらいの直径五センチメートル、幅三三センチメートルくらいの金属製の輪を用意すると、それにインベントリと同じ様に生命反応がある物は通さない魔法陣を組み込むと、「はい」とそれをカーネルさんに渡す。

「これは?」
「使ってみて」
「使うって言っても……どうやって?」
「あ、そうか。えっと……」

 俺はカーネルさんから貰った籠の中にまだ無精卵が残っていたのを思い出し、カーネルさんにそれを渡す。

「これをその輪に通して」
「これをか?」
「うん、そう」
「……こうすればいいんだな。うん、問題なく通ったぞ」
「そう、これは無精卵だからね」
「なるほど。なら、有精卵なら通らないという訳か」
「うん、そゆこと」
「……ちょっと、待ってろ!」

 カーネルさんはそう言うと家の外へと走って行った。そして、ヨサックさん達はと言えばなんとなく分かったようだけど、そもそもなんで有精卵と無精卵に分ける必要があるのかがハンナさんには理解出来ていなかったみたいなので、ヨサックさんが鶏卵の大量生産計画を説明している。

 そんことをしている内にカーネルさんがまた籠一杯の卵を持って家の中へ入ってきたと思ったら、俺が渡した輪っかで「これは通る。これは通らない」と判別を始めた。

 そして無精卵と判別したものは、俺に「ほれ」と渡すと有精卵と判別したものを孵卵器の中に並べてタイマーを二十日間に設定すると椅子に座り、じっと待つ。

「そろそろか」
「そうだね」
「この判別機がちゃんとしていたら、ひよこが生まれるんだよな」
「うん、そうだよ」
「疑う訳じゃないが、こればっかりはな」
「うん、分かるよ。俺も実験は必要だと思うから」
「悪いな」
「いいよ。あ! ほら、そろそろみたいだよ」
「ん? おお!」
「「うわぁ~」」

 孵卵器の蓋をカーネルさんが開けるとさっきと同じ様に卵の表面に罅が入ると、その内に『カサカサッ』『パリパリ』と卵の殻が割れる音が聞こえてくる。やがて、一つの卵が中から割れると、小さく黄色い嘴が見える。

 それに気付いたカーネルさんにヨサックさん達も歓喜の声を出す。

 カーネルさんが判別した有精卵は無事に全部孵ることが出来たようなので、俺が渡した輪っかは成功したと思ってもいいだろう。

「じゃあ、カーネルさん。頼みましたよ」
「おう、任せろ。この調子でドンドン増やしてみせるさ!」
「お願いしますね。それと、鶏舎を増築するならガンツさん達に頼むといいですよ」
「おう、分かった。色々と世話になったな」
「ううん、俺が欲しいのをお願いしただけだから」
「そう言って、貰えると嬉しいな」
「でも、雌雄までは判別出来ないから雄鶏ばかり増えたらどうするの?」
「雄鶏か……雄鶏はまあ、そうだな。食べる……かな。ケイン、卵だけじゃなく鶏肉の大量消費も考えてくれないか?」
「え~」

 そろそろ帰ろうかとカーネルさんと挨拶していたハズなのになぜか今度は卵が大量生産される裏で生まれるであろう卵を産まない雄鶏をどうすればいいのかという話になり、鶏肉をどうやれば大量消費させられるかという話になってしまった。

 そんな俺の頭の中ではバケツに入ったフライドチキンが浮かび上がる。でも、それをここで言っていいものかどうか考えてしまう。

「どうしよう。ねえ、マサオどうすればいいと思う?」
『そんなん唐揚げにしてしまえばいいだろうが』
「あ、そうか。そうだよね。カーネルさん!」
「お、何かいい方法があったのか?」
「うん、あのね……」

 俺はマーティンさんが王都の港湾施設で軽食を出す施設を運営していることを話し、唐揚げの食材として定期的に卸せるようになるんじゃないかなとカーネルさんに話してみた。

「それはいいな。でも、卸先が決まっても安定して卸せるか不安はあるよな」
「食肉加工まで出来る様になったら、必要な施設は用意するから心配しないでいいよ」
「ほう、そこまで甘えてもいいのか?」
「大丈夫だよ。街が大きくなる分には誰も文句言わないから」
「俺が言いたいのはそういうことじゃないんだが……ま、いいか」
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