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◆配合が問題でした

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アリー様はお腹をさすりながら、ゆっくりとソファへと近付くとメイドの一人にお茶を頼んでからソファへと座る。

「ふぅ~まだ大きくないけど疲れるわね。で、なんであなたは明日の予定をキャンセルするのかしら」
「それは……その……なんだ……」
「なんですか?」
「あ~それはだな……」

アリー様に明日の予定をキャンセルすると言ったことを詰められるとデューク様は言い淀んでしまう。まあ、それもそうだよね。セバス様の俺への態度からキャンセルしたいって言い出したんだからね。そんなことを胸張って言える訳もないよね。でも、上手い言い訳も思い付かず言い淀んでいるとセバス様から助けが入る。

「旦那様、もうそれぐらいで」
「セバス、もとはと言えばお前が……」
「セバスがどうかしたのですか?」
「ぐっ……いや……」

セバス様がせっかく助け船を出してくれたのにそのセバス様に対し怒気を強めるが、アリー様に止められ、また言い淀む。

「まあ、だいたいの察しは付きました。大方、ケイン君に対するセバスの態度に嫉妬したのが原因……ってところでしょうか。まったく大人気ない。そんなことで明日の公式行事を中止にするだなんて……」
「いや、だって……セバスが……」
「はいはい、分かりました。セバスももう少しの間とは言え、もう少し旦那様を気づかってもらえるかしら」
「はい……では、旦那様。明日は予定通りということでよろしいですか?」
「……ああ、それでいい。クソッ!」

デューク様が言い淀んでいるとアリー様は大体の察しがついたと話を切り上げ、明日は予定通りであることを確認すると、セバス様にも少しだけ忠告する。そして、これで終わりと思っていたらアリー様が俺に向かって話しかける。

「では、この話はこれまでにして……ケイン君。ちょっといいかしら」
「はい。なんでしょう。アリー様」
「何か新しいお菓子はないかしら」
「新しいお菓子ですか?」
「ええ。ここのところ、好みがちょっと変わったような気がしてね。いつもおいしいと食べていた物までもの足りないというか。なんていうか……ね」
「なるほど。それで何か目新しい物はないかと……そういうことですね」
「そう。やっぱり、ケイン君は話が早くて助かるわ。それで、どうなの? あるの? ないの?」
「え~ありますん」
「「「え?」」」

アリー様に新しいお菓子がないかと聞かれて、どう答えようか考えていたら、どっちつかずの言葉が口から出てしまった。

「ちょっと、あるのかないのか、どっちなのよ!」
「あ……えっと、あるにはあるんですけど、まだ調整中の段階で商品としては完成していないので」
「へ~ケイン君にしては珍しいわね。それで何を悩んでいるの?」
「あ~それはですね」

アリー様に何が不十分で未完成となっているのかを聞かれたので、ある割合で悩んでいることを話す。その割合を増やせば、苦みが増してしまいお菓子としてはどうなのかとなり、逆に減らすと風味が消えてしまうと。

「あら、そんなことなの。なら、割合毎に出してみればいいんじゃないのかしら。人によっては自分好みの割合を見付けられるかもしれないでしょ」
「あ!」
「あら、何か助けにはなったようね」
「もう、助けなんてもんじゃないです! ありがとうございます。アリー様!」
「ふふふ、ケイン君の助けになったのなら、よかったわ」
「はい。じゃあ、これで「ちょっと、待ちなさい!」……え?」
「『え?』じゃないでしょ。そこまで言っておきながら、試作品も出さないつもりなの?」
「あ……すみません」

アリー様にアドバイスを頂いたので、これでなんとか商品化出来そうだと思い帰ろうとしたところでアリー様に引き留められる。試作品があるのなら、なぜ出さないのかと。
失敗したなと思いインベントリから試作中のチョコレートをそれぞれの割合毎にテーブルに並べると、早速アリー様が反応する。アリー様だけでなく甘い匂いに惹かれるように近くに居たメイドさん達も鼻がヒクヒクしている。

そして、アリー様が試作品の一つに手を伸ばそうとしたところで、執務室の外が騒がしくなり、その執務室の扉が勢いよく開かれる。

「シャルディーア伯、邪魔するぞ!」
「すみません、すみません。お止めしたのですが……」

執務室の扉を開け放ち入って来たのは、この国の王太子であるオズワルド様だった。そして、その横でずっと頭を下げ続けているメイドさんにセバス様が「分かりましたから、下がっていいですよ」と声を掛けるとメイドさんはもう一度、頭を下げてから執務室から出て行った。

「オズワルド様、どうしてここへ?」
「どうしてとは、そんなこと言うなよ。私とシャルディーア伯の間ではないか。それにケインがここへ来たと連絡を受けてな。それで来てみたら、どうやら面白そうなことになっているようだな」

王太子はそう言って、テーブルの上に広げられているカカオの配合分量を変えたに目が釘付けになっていた。
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