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◆理想郷でした

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ドワーフの里の門の近くへとホーク号をゆっくりと下ろしていく。
「ランディングギア展開」
「了解、ランディングギア展開」
ホーク号の機体と翼の底部ハッチが展開され、そこからランディングギアが姿を現す。
やがて、地表にゆっくりとその機体を下ろすと『プシュー』と空気が抜ける音がして、エンジンが停止する。

「……」
ドワーフの里の前にいた男はいきなり目の前に現れたホーク号に対し目が点になる。
そして、その機体のドアが開かれ、ガンツとイーガンが降りてくる。
「ん? 父さん……それにイーガン兄さん?」
「ん? ワシを知っているのか? その前にワシを父さんと呼ぶとは……」
「お前、スーガンか?」
「やっぱり、イーガン兄さん! そして、父さん。久しぶりです」
「誰だ、お前?」
「親父!」
「父さん!」
「いや、いきなり父さんと言われても……お前、本当にスーガンか?」
「父さん……そりゃ、会うのは数十年振りだけどさ。父さんは俺が子供の頃に出て行ったキリだし」
「出て行ったんじゃなく、働きに出ただけだ」
「でも、同じことじゃないか」
「まあな、それは否定出来ないな」
「そんなことより、お前はどうしてここにいるんだ?」
「それがさ、最近ドワーフ達の理想郷ユートピアが出来たらしいって聞いてさ。そこに行く前に母さんの顔を見ようと思って来たんだけど……」

そう言って、スーガンがドワーフの里に設置された警備システムを一瞥する。
「ああ、これか。なかなかいいだろ?」
「いや、親父が作った訳じゃないだろ」
どこか得意気にスーガンに対し、自慢するガンツにイーガンが呆れる。

「いいんだ。アイツが作った物はワシが作ったも同然だ」
「ひでぇな」
「父さん、それは置いといて。ここにいた里の人達はどこに行ったの? 母さんは?」
「ああ、アンジェなら、ワシと一緒にドワーフタウンにいるぞ」
「ドワーフタウン……今、ドワーフタウンって言ったの?」
「ああ、そうだ。ちなみにワシはそこの町長な」
「な、町長……」
「それがどうしたスーガン?」
「さっき、俺が言った理想郷……それがドワーフタウンって言う名前の街なんだ」
「ほう、他にもそんな街があるのか」
「親父!」
「父さん!」
「な、なんだ?」

二人の息子に責められ慌てるガンツだが何故責められるのかは、まだ理解出来ていないようだ。

二人は改めてスーガンからの話を聞き、ドワーフ達の間でドワーフタウンが理想郷として目指すべき街だと噂されていることを確認する。

「ほう、そんなことがなぁ」
「なら、わざわざこっちから行かなくても向こうから来るんじゃないのか?」
「いや、それじゃ時間が掛かる。このまま向かおう。スーガン、お前はワシの兄のところに行っていたな」
「ああ、バーツ伯父さんのところだよ」
「よし! じゃあ、次はそこだな」
「分かったよ。スーガン、お前も乗れ」
「え?」
「いいから、乗るんだよ」
「に、兄さん。何をするんだよ」
スーガンはイーガンに無理矢理、機体の中へと押し込まれる。

「乗ったな。ハッチを閉めるぞ」
「ああ、いいぞ」
「父さん、兄さん、これは?」
「いいから、座席に座れ」
「……」
ガンツに言われ、スーガンは大人しく座席へと腰を下ろす。
「ファン始動」
「了解、ファン始動」
ガンツとイーガンはテキパキと発進準備を進めると高度一万メートルまで上昇する。

「さてと、バーツ兄さんの所はっと……」
ガンツは機体をゆっくりと旋回させ、目的とするバーツの住む里の方へと機首を向ける。

「よし、行くぞ。スロットル全開!」
「了解。スロットル全開!」
「え? えぇ~」
イーガンも慣れたのか、体に掛かるGを気にすることなく前を見る余裕も出てくる。

「親父、バーツ伯父さんのところって分かるのか?」
「もちろんだ。分かるから、こうやって……おっと、見過ごすところだった」
ガンツはスロットルを戻しゆっくりと速度を落とす。

「あの山の麓辺りがバーツ兄さんの住む里だ。なあ、スーガン……スーガン?」
「……」
「なんだ寝てるのか?」
「違うと思うけど、まあいいか。このままでも」

やがて目指す山の近くまで来るとゆっくりと上空を旋回しながら、バーツの住む里を探す。
「多分、あれがそうだな」
「ああ、確かに。じゃあ、門の外でいいんだよな」
「そうだな。ゆっくり下ろしてくれ」
「了解!」
イーガンが機体を操作して里の門の前へとホーク号を下ろすと、ドワーフの里からは人がぞろぞろと出てくる。

ハッチを開きイーガンがスーガンを連れて機体の外へと出る。
「いい加減に起きろよスーガン」
「え? はっ! ここは……」
「スーガン、スーガンか? 確か、お前は二週間前に家族の元に一度帰ると……」
「バーツ伯父さん……それが……」
「そこからはワシが言おう。久しぶりだな。兄さん」
「ん? ガンツ……ガンツなのか?」
「ああ、そうだ。ガンツだよ。バーツ兄さん」
「ガンツ……」
「バーツ兄さん……」
ガンツとバーツの二人がゆっくりと歩き出し、次第に早足になり二人が抱き着くかと思われた瞬間、『バキッ』と音がしたと思ったら、ガンツが吹っ飛ぶ。
そして、右拳をグッと前に差し出した状態のバーツがそこには残っていた。

「痛い……痛いよ、兄さん……」
「ふん!」
ガンツが左頬を押さえながらバーツに訴える。

「ガンツよ。お前はアンジェさん達を放ったらかしたまま、何をしていた!」
「何って……」
「ワシには言えないことか!」
「……」
「なんとか言ってみろ!」
「……」
「言えないか……まあいい。ここに居たければ好きにすればいい。ワシ達は理想郷を目指すからな」
「え? なんで? ここで酒を造っていたんじゃ?」
「ああ、作っていたさ。だがな、最近、出回っている蒸留酒ってのがな……」
「「え?」」
バーツの言葉にガンツだけでなくイーガンも驚く。

「なんだ? 酒好きのお前が知らないのか? ワシもようやく手に入れたのを飲んでみたが、あれはいい! だから、ワシもあんな酒を造ってみたいと思ったんだ。それを家族に話してみたところ、それなら理想郷ドワーフタウンで作られているらしいと聞いてな。ならば、そこに行ってみようと決めたところだ。ん? どうした?」
「「……」」

バーツからの話を聞いて、ガンツとイーガンは信じられない気持ちになる。
「どうすんだ、親父?」
「こうするしかないだろ」

ガンツは機体の中から一枚の扉を持って降りてくると電話で二言、三言話した後にイーガンと一緒に扉を支えると、その扉が開かれ、ケインが出てくる。
「ガンツさん、お待たせ! って、ガンツさんじゃないじゃん。おじさんは誰?」
「……」

扉から出て来た子供におじさんと呼ばれ呆然とするバーツと、その里の住人達だった。
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